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ルーヴェン公爵家が建ててくれたエマの家族の墓は、庶民にしてはかなり立派なものだった。
その隣の誰かの墓にも、母子が訪れている。子供の方は8歳くらいだろうか。
エマにはかつて、アレックスとは別に弟がいた。生きていればあれくらいの年だっただろうか、などと想いを馳せながら、家族の墓前に花と購入した家族の好物を備える。隣に立つセシルと、少し離れたところで護衛のふたりも祈りを捧げてくれていた。
「ありがとう。どうしても話しておきたくて」
「…何を?」
「セシルでしょう。毎年、私より少し後にお花を供えてくれていたの。どうして私に言わずにこっそり2人に備えさせたりしてたの?」
エマの言葉に、セシルは護衛の二人を振り返る。二人が困ったような顔をしていたため、エマが訂正を入れる。
「2人から聞いたんじゃないよ。毎年命日から少しずれた時期に備えてくれる人がいるなと思って、気になって私もずれた時期にお墓参りすることにしたの。そうしたら、クリストフさんとばったり」
申し訳なさそうに頭を下げるクリストフに、セシルはそれ以上何も言わなかった。
「セシルが私の家族のことを気にかけてくれているのは嬉しい。でもね、セシルが私の家族の死について、気に病む必要はなくて…」
「でも」
エマの言葉を切ると、セシルは彼女より先に結論を口にした。
「僕を助けなければ、君の家族は殺されずに済んだ。そうだろ?」
セシルはまだ、エマから目を逸らしたままだった。