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ついでエマが訪れたのはコーヒーショップだった。壁一面に並ぶコーヒー豆に、エマはどれだったかな、と頭を悩ませる。
「エマは自分でコーヒーを淹れる趣味があるの?」
そうセシルに尋ねられ、エマは彼の顔を見る。どうやら今日はエマの考えを読んでいないらしい。
「お父さんが好きなの」
「へえ、ルーヴェン公爵が。初めて知った」
「ううん」
エマはそこで一度言葉を切った。
「本当のお父さんの方」
そう言った後で、あれ、と思い直す。
「あ、余計ややこしいかな。死んじゃったお父さんの…」
「わかるよ」
それ以上言わなくていい、とばかりにセシルはエマの言葉を切る。その様子にエマは少し躊躇したが、スカートの裾をぎゅっと掴むと意を決して口に出す。
「今日は買い物と、家族のお墓参りに行きたいと思ってて」
予想外の発言だったのか、セシルは少し驚いた顔をしていた。
「婚約したでしょう。だから家族にセシルを紹介したいの。一緒に来てくれる?」
しばらく驚いた顔をしていたが、少し間を開けて、「うん」と返事がある。セシルがエマの誘いに即答しなかったのは、記憶にある限り初めてのことだ。
「お母さんにはマフィンを作ってきたの。お父さんにコーヒー豆を買って、弟はちっちゃかったからなぁ、好みとかよくわかんないから、ジュースを買っていきたいかな」
父親が好きだと言っていたコーヒー豆を見つけ、手を伸ばす。棚の少し高い位置に合ったため、代わりにセシルがそれを手に取った。
「はい」
笑顔でそう手渡すが、先程からセシルはエマの方を見ない。ああ、出会った頃のセシルだとエマは胸が苦しくなる。笑顔だが、どこかエマと距離を置いていた頃のセシルだ。
こうなることが予想できていたため、エマは自身の家族の話題を避けてきた。
だがセシルと結婚するにあたり、自分の想いについては正直に伝えたい。それを伝えるにあたり、セシルが抱えているであろう、エマに対する罪悪感を解消しておく必要があったのだ。