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友人だった頃、エマとセシルが顔を合わせるのは大抵どちらかの家であった。互いの家が最も安全性を担保できることと、セシルのテレパスの影響もあった。
テレパスに目覚めたばかりの頃は、その力を制御できず、流れ込んでくる他人の感情に当てられて、数日寝込むこともあったらしい。そんな彼を人の密集する街に連れ出すことなどできなかったのだ。
だが、2年ほど前からはセシルも心を読む相手や範囲、タイミングなどをある程度コントロールできるようになっていた。
そして、昨年セシルが観劇に行きたいと言ったことから、初めて外でデートをすることになったのだ。おそらくはエマの〈久しぶりに外に行きたいな〉という希望を読んだのではないかと思うが、それ以来頻度は少ないが、たまには外に出かけるようになった。
それに苦言を呈したのはセシルの護衛だ。
「エマ様と遊ばれるようになって以降、我々の仕事と心労が増えて堪りませんよ」
デートと言っても、当然少し離れたところにセシルの護衛はつかねばならない。幼少期からセシルの面倒を見ているクリストフとルドルフだ。彼らにとって、セシルの公務外の外出は喜ばしいことではないだろう。
「ごめんなさい」
「いえ、顔をあげてくださいエマ様」
クリストフに言われたとおり、エマは顔を上げる。
「ルドルフの無礼をお許しください。ああは言っていますが、いつもエマ様のおかげでセシル様が楽しそうだと喜んでいますので」
「セシルは楽しそうなの?笑顔だけど、あんまり楽しいとか嬉しいとか自分の気持ちを口に出さないからわからないの。いつも私のやりたいことを優先するし」
エマが少し困った顔でそう言うと、クリストフはくすっと笑う。
「我々はテレパスではありませんが、セシル様のことは幼少期から見守っていますのでわかっているつもりです。セシル様は、エマ様が楽しそうにしておられるのが1番なのですよ」