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メインホールに2人で戻ると、やはり来賓たちの目を引いてしまっているのがわかる。
「ごめんね、隣の部屋に行こうか」
「いいの?」
主役なのに抜けても良いのか、という意味と、2人で抜け出してもいいのか?という意味だったが、セシルはそれもわかっているようだった。
「挨拶は済ませたし、陛下にも少しエマと話す時間が欲しいと言ってあるから大丈夫。それにさっき言っただろ?噂はされても良いし、何だったら君が良ければ今すぐに公表したっていい」
エマは鏡で見ずとも自分の顔が真っ赤になっている自信があった。
まさか本当にセシルと結婚することになるとは。貴族にとって政治の道具でしかない結婚で、好いた相手と結ばれるなど、これ以上に幸せなことがあるだろうか。
天にも昇る気持ちでいたが、セシルにじっと見つめられていることに気が付く。彼は目を細めて微笑むと、「どうぞ」とエマを部屋に通した。
「挨拶ばっかりで何も食べてないんだよね。お腹空いたから用意してもらった。エマはお腹いっぱいだったら無理しないで」
テーブルの上いっぱいに広がる食事に、エマは目を輝かせる。
「ううん、私も全然食べてなかったから」
パーティの開始直後からどこへ行っても視線が集まるせいで、エマも落ち着いて食事を取ることができていなかった。セシルはその辺りも配慮していたのだろうか、自身が空腹だったからと言いながらエマの好物ばかりだ。
「ありがとうセシル。さっきはごめんね」
「何が?」
「私、セシルのこと利用した」
エマが謝罪したのは姉とのやりとりのことだ。
「お姉様、私の言うことは全く聞いてくれないし、両親の前ではおとなしくしているから叱られることもないし。セシルならお姉様を叱ってくれそうだし、お姉様もセシルに叱られればの言うことなら聞くかなって思ってお姉様のこと、わざと怒らせたわ」
エマの立ち位置からは、セシルがこちらに向かってきていることも見えていた。その上でジュリアを煽り、彼女の反省を促せるよう仕向けたのである。
「わかってるよ。ジュリアのことは振り回してしまった王家側にも責任の一端はあるから、別に気にしてない。でもエマ、危ないから今後はあんまり人を怒らせるようなことはやめてね」
「うん」
そう返事をすると、エマは食事を口に運ぶ。
「こっちこそ婚約について、最終的な話をしていなくてごめんね」
突然の本題に、思わず咽せそうになってしまう。口元を押さえながら食事を飲み込むと、平静を装ってセシルに尋ねる。
「私は嬉しいけど、セシルはそれでよかったの?」
「もちろん」
エマが婚約を受け入れれば、彼も承諾することは予想通りだった。昔からセシルは、エマのためであればなんだって喜んで行動してくれる。
だが、それが親愛のみからくるものでないとエマは知っていた。そしてその問題を解決しない限り、セシルから彼の本心を引き出すことができないことも。
「セシル」
「何?」
「今度、2人で出かけない?忙しいと思うけど…」
「もちろん。予定を確認して僕から誘うね」
セシルとの結婚は喜ばしい。だが、その前に彼とは話さないといけないことがあった。