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以来、ジュリアは両親の見ていないところでは嫌がらせをしたり、こうしてエマに嫌みを言うのだ。
「いくら異能があっても、所詮はどこの女ともわからない女の子供。正妻にはなれないわよ。それこそ…」
意地の悪い笑みを浮かべてジュリアは続ける。
「母親みたいに妾にはしてもらえるかもね」
彼女の嫌がらせに、初めの頃はエマも黙っていた。
ルーヴェン公爵家内では、次女のエマの扱いが最も良く、次いで長男として家を継ぐことになる弟のアレックスだ。兄弟で唯一異能のないジュリアは、長女とは思えないほど両親から冷たく扱われていた。彼女の境遇に同情するところもあったためだ。
だが、エマは元々気の強い女だった。あまりにもしつこく続く嫌がらせに、黙って耐えるのも数年前からはやめにした。
「こちら、殿下からいただいたものですが。いただきものをつけているだけですのに」
エマの言葉にジュリアは目を見開く。
「本当に嫌な女…。自分がセシルに選ばれたとアピールしたいの?」
「そうは言っておりません。プレゼントが嬉しかったのと、お礼の意味でつけてきただけです」
その言葉に嘘はなかった。どういう意味合いがあったとしても、好きな相手から折角もらったプレゼントだ。次に会うときにつけていきたいと思うのは自然な感情である。
ただ、そう素直に答えだけでは溜飲が下がらなかった。
「他の方々がこれを見てどう思われるかはわかりませんが」
ジュリアはみるみるうちに顔を真っ赤にする。普段ならこの程度で留めるところであったが、今日はエマの母親のことまで馬鹿にされたのだ。少し痛い目を見ればいい、と思ってエマはわざと続ける。
「異能があっても、セシルには選ばれないと思いますけど。だってお姉様本妻の子ですのに、妾の子だと蔑んでいる私より、知性も上品さもないんですもの」
「この…!」
ジュリアが手を振り上げた瞬間だった。
「ストップ」
彼女の手を掴んだのはセシルだった。