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第6話

一人の帰りはやっぱり寂しい。耳が消されても俺の存在は消えないのだから、甘えたところで何も生まれないのはわかっているけど、お分かりじゃないこの世間と目線を合わせなきゃいけないのが辛い。夜はこれからと思いたいが、俺は塗り重ねたこの時間が余計に辛い。


約束なんてできないのに、俺はみのりとの将来に期待してしまっている自分がいる。愛の類じゃないのはわかっているけど、やっぱり好きなことは確かなんだ。細かい男じゃないのはわかってるし、なんにもできないし意固地で優柔不断で世間に順応できない俺だけど、休日にはどっかに出かけたいし、みのりと一緒に何かしたいことは確かだ。その頭を撫で続けていたいし、飽和している世界でも見えるものはあると思いたい。


日々を飲み込んでいたいのは、あのときのはみ出したときだったのだろうか。不器用な面倒にも拭えない利き手じゃないし、仕事なんてもってのほかだ。


「あれ?理人じゃん!!!」


「え、城戸先輩??」


「おー!!!偶然だなーこんなところで会うなんて!確かに俺ら、最寄りが一緒だったもんな!いやーひさしぶりだなー。」


「お久しぶりです!みのりから聞きました、独立されたみたいで。」


「お〜!そうそう、ついにね、今はめちゃてんやわんやだけど、なんとかやってるよ。そういう理人は、どうなんだ??あんまりお前の近況知らなくてさ。」


「3年後に潰れる人材の会社で、キャリアアドバイザーとリクルーティングアドバイザーやってますよ。」


「あ、え、人材?!しかも3年後に潰れる?!ほえ?!お前にしてはそんなベンチャーに飛び込むなんて珍しいな!」


「城戸先輩に最後にあったのってゼミ飲みですよね、城戸先輩たちを送る会の。あれから俺、ちょっとやる気なくなっちゃって、就活も適当に(笑)。」


「ほあ〜、そういうことかぁ。でも3年後に潰れんだもんな。転職とか次行くところとか、考えてるんだろ、お前なら。」


「はい、なんとなく。」


「んで、その浮かない顔は、世間とか社会に絶望している顔だな、さては。」


「えっ。なんで分かるんですか。」


「そりゃお前。ボランティアとかやるぐらいだから、社会貢献意欲はメチャあったたろうし、そういうところすげえなって思ってたから。人材のベンチャーなんて、結構真っ黒だし、お前にあってんのかよ、って今思っただけだよ。」


商店街のアーケード、電線の影でなんだか綱渡りをしている気分だった。なんてことない生活の端々で生まれたぬくもりを忘れたくはない。たまにはこんな日があっても神様は赦してくれるだろうと思っている。抱きしめられてもいいし、なんか幸せになってもいいよね。最後に笑って君に会えなかったとしても、雨が降ったあとの匂いは、消えないだろう。


世界はまだ続いていくけど、変わらないで待っている時間もない。結局はすべて運命だというけれど、それはそれで不気味で不格好に思うのは俺だけだろうか。最後の夜になりそうな気がして、背中に手を触れても、変わらずに明日は来る。俺達はどんなに足掻いても何度も何度も同じ日を繰り返している。


今更遅いと思うけど、自分にもなにかできることはあるのかな。


「その通り過ぎます。それで今悩んでて。」


「だろうなぁ。わかる。俺もそういう理由で独立したんだもん。」


「あ、そうなんですね。」


「そそそ、世間にうんざりっつーか、俺がやるしかねーかっつーか。」


「へぇ。意外とそういう所あるんですね。」


「意外と?!失敬な!!」


「あっはは。」


「まぁあれだ、俺にできることなんてあったら何でも言えよな。たまには飯でも行こうぜ。」


「はい!また話したいです!」


緋の眼色をした世界が黄ばんでいるのなら、新緑の芽は輝いているのだろうか。肩が痛む、足が痛むと言っている無言の世界に発しないと、きっと何も変わらないのは分かっている。


散々馬鹿にしていた自分が恥ずかしい。独立なんて普通の人がするもんじゃないし、自己中心的な考えの人がするイメージがあったから、なんとなく敬遠していた。でも、城戸先輩のあのキラキラした顔を見たら、なんだか羨ましい感じもした。


綺麗すぎる世界を見ると、切り取られた笑顔に貼り付けになる視線がいたい。あの街に、あの世の中に針を刺せるのであれば、君かいないと張り裂けそうになる気がしている。泣いたっていいのであれば、また踊りたいと思っている。それでも、伝わりそうもない気持ち全部どっかの穴に投げ捨てて、全部忘れて前に進みたいんだ。


「ただいま。」


「おかえり〜。」


「あのさ。」「あのさ!」


「あっ。どうぞ。」「あっ。どうぞ。」


「昨日はごめん。」


「うん、私も。それが言いたかった。」


「俺もなんだか気を張っちゃってたし、なんだか自己中心的な考えだった。」


「私も、理人のこと考えずに色々言っちゃってごめん。」


「うん。俺も。」


「ご飯できてるよ。食べる?」


「おっ!いいねぇ!食べる食べる!」


今夜終わりにするなら、これでサヨナラなんて言えるのだろうか。会いたいって君だけに言って、今夜だけは、今夜だけはこれでサヨナラなんてロマンチックな事は言えない。君との世界が永遠でないのををわかっているからこそ、今日という日の出会いにも感謝したいんだ。

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