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第5話

「御社の採用の問題点としては、やはり集客面にあると考えております。御三家の大学により手早くアプローチするためにも、わたしたちのサービスを、、、」


「なに?また営業の電話?うちなら間に合ってるからいいよ。ブチッ」


「はぁ、、、。」


振り替えり征く術をなくした天使は、幸せの定義を何と言うのだろう。風が詠うのは辺鄙な西洋史か、心が見出すのは宇宙の正解か。信じられないほど堕落したこの世界で、綺羅びやかに熙るのは明日だけなのに。俺は今日も同じような日々を繰り返している。


「石上、テレアポなんて珍しいじゃん?ほら、缶コーヒー買ってきてやったぞ〜。」


「四ノ宮。おつかれ。ありがとう、でも俺、缶コーヒー苦手なんだよなぁ。」


「んだよ!せっかく買ってきてやったのに。じゃあいいよ、お前が好きなモンスターでも飲んでれば。」


「すまんすまん。(笑)いやぁ、来週の商談数の目標が届いて無くてさ、今日は仕方なくテレアポだよ。最近はオーガニックでも集客出来てたんたけど、ついに貯金が尽きてな。」


「あ〜、なるほど。俺テレアポ嫌いだから絶対やりたくねえわ。トスアップが一番いいだろ。飲み会で隣りに座ってる社長っぽい人口説いたほうが100倍はええっつ〜の〜。」


「そんな訳分からん営業してんのお前だけな。接待後輩に教えられないだろ、そんなことしてたら。」


「俺は一匹狼だからいいんだよ。そいえばさ、見た?あの新卒の子が上司刺したってやつ。エグいよなぁ。しかもあれ、どうやら違う部署の上司だったらしいんよ。」


「え?」


「そう、驚きだろ。犯人と上司は全く関係は無かったらしいぜ。何が嫌だったんだろうなぁ。あ〜こわいこわい。」


世間だ。紛れもない世間だ。俺には分かる。巡るめく未来のことに期待できないから、衝動的になったんだろう。華やかな光をそっと包むのは快楽ではない。感じた恐怖よりも更に深くて鋭い恨みだけだ。


誰だってノックするドアの前では一瞬立ち止まるが、稀にそのストッパーがないやつもいる。タイミング次第では俺も被害者だったかもしれないし、こいつだって運命には逆らえないだろう。


良くないとはわかっているが、本当に犯人が悪いのか俺にはわからない。こうやって世間がまた釣り上げる悪意。沸々と闇に落ちて行く人達は増える一方なのに。


「石上?」


「あっ、なに?」


「いや、なんかすっげぇボーっとしてたから。」


「あー、昨日あんまり寝てないんだよなぁ。みのりと喧嘩しちゃってさ。」


「うぇ〜、めずらしっ。お前ら喧嘩なんてするんだ。」


「お前らって。会ったことすらねぇだろ、みのりに。」


「まぁな〜。でも石上ってさ、自己主張とかしなそうだから、あんまり彼女とも揉めなそうなのになぁ〜って思ってさ。」


「普段はそうなんだけど、昨日はちょっとカッとなっちゃってさ。俺も悪かったなぁって思うよ。」


「ま、ぶつかるぐらいがちょうどいいからな。俺だって今の彼女と毎日のように喧嘩してるぜ。未来のこととか俺はわかんねぇし、あいつと結婚する保証もないし、何より色んな女とやりてぇからな。」


「相変わらずなんでお前が刺されないのかが不思議だよ。はぁ。」


「あっひゃっひゃ。だろ、俺もそう思う。」


本当に四ノ宮の生き方には惚れ惚れ天晴だ。こんなにも自由で奔放で嫌味のない人間はいない。それでも生きていられるし、何なら幸せそうだし、なんなんだこの感情は。回ってない感じがすごい息苦しい。やり直せるのであれば俺は人生をやり直せたのだろうか。


練り歩く旅も悪くないというが、散って残るのは道端で見た恋人同士の喧嘩ぐらいだろう。人はそんなに人生の細かいところまでは覚えていない。半ば諦め掛けて望んだほうが良い結果になることは目に見えている。どうか笑って過ごしたいと叫んでいる歌にまた酔いしれられる日は来るのだろうか。


下手くそな似顔絵を描くストリート野郎ですら幸せそうに生きているのに、なんだろうこの感じ。俺なんて生きてるだけで辛いのに、彼奴等はなんであんなにも自由にできるんだよ。真面目で心は人間に向いているはずだ。俺は何も間違っていないはずだ。


「あ、そいえばさ、フラミンゴの習性って知ってるか?」


「いや、知らんそんなこと。」


「だろうな、石上が知ってるわけ無いだろうな。フラミンゴって色のせいか、天敵が多いんだよ。だから、いつでも逃げられるようにああやって一本足で立ってるらしい。寝るときも起きてるときもずっと一歩スタートしてる感じ。」


「へぇ、それで?」


「つめてぇ返しだなぁ。なんか、フラミンゴって意外と疲れてそうだなぁって思ってさ。普通に二本足で立ったり、ごろんて寝転んで休めばいいのにって思う。なんか力入りすぎっつうか、なんというか。」


言わなかったが、四ノ宮なりの心配だったのだろう、あの話は。帰りの電車で思い返すが、普段からあまり自分以外の話をしない四ノ宮が珍しくて、なんだか気味が悪かった。何かを探すように、俺のことを探るように。

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