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第1話

「これは桜なのかな。」


君がぼやっとつぶやいた事を思い出す。運命とは刹那的で辛辣でいつもいつも僕たちを苦しめる。嗚呼、なんて美しいと思って見惚れていると、君がこっちを向いてこう言った。


「そう言えば、いつ終わんの、仕事。いつ辞めんの、仕事。」


僕は新卒のサラリーマン、いつの間にか就職の時期が来て仕方なく入った会社がもうそろそろ潰れそうなので、彼女からは退職した方がいいのではないかと言われている。


一流大学に入ったはいいものの、なんだかんだでサークルとか恋愛とかしていたら、就職活動は適当になった。自分の人生なんてどうなるかわからないのに、いつの間にか過ぎゆく日々に嫌気がさしてきた頃だった。


単純に考えられればいいがそうはいかない。その方が楽だし、その方が楽しいし、そういうことしか考えられない僕はきっと、彼女の隣には向いていないんだろうな。


「まだやめらんねーよ。最後にやらなきゃいけないこともあるし。それにお前だってそろそろ働けよな。いい加減俺が家賃払ってんの意味わかんねーっつーの。」


「私のことはいいでしょ。違う人生なんだから。そんなことより時空間忍術とか変なこと言ってたあの先輩いたじゃん?」


「ああ、城戸先輩?」


「そう!ナルトが大好きだったあの大学の先輩、独立したんだってさ。自分で人材の会社を立ち上げるらしいよ。100億企業を作るんだとかって意気込んでたよ、facebookに自分の顔なんてあげちゃってさ。」


「ふーん、独立ねぇ。よくやるわほんとに。」


「理人は興味ないの?自分でほら、こうやってあーやってさ、こんな感じでバーンって!」


「興味ない。俺は組織が合う人間だから。歯車になってた方が人生楽だし、いいことも悪いことも一喜一憂しないで捉えられる人間だから、組織がいいの。他人の人生に乗っかった方が楽だろ。」


「ほんとつまんないわねあんたって。そういうところがあの人に似てるんだよ。もう。」


「お前はいつもそうやって春彦のことを話題に出す。どんだけあいつのことが好きだったんだよ。」


「違う逆。嫌いだったんだよ。なんかこう。かっちりしているところが大嫌いだった。私なんて見てませんよーみたいな感じでいつも話してくるから、すごい寂しかったの。でも理人は違うから、好きだよ。」


「なんだよ急に、そろそろ俺でるわ。今日は家の掃除ぐらいしとけよな。」


「わかったわかった。早く行っちゃいなー。今日退職届出してきてもいいんだよ。」


「ばーか、余計なお世話だ。」


石上理人いしがみまさと、23歳新社会人。知り合いの伝手で入った人材会社は、経営の悪化でもうそろそろ潰れるらしい。もうそろそろっていってもキャッシュフローはあと3年ぐらい持つらしいから、それまでに次の会社を見つけろと言われている。転職なんて考えていなかったが、一年目でまさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。


でも、あの時見た桜がこんなにも素敵に見える日が来るなんて、それこそ思ってもいなかった。これは、俺の人生の中で起きた、ちょっと不思議な話である。

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