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第九話 四月八日(月)少女は入学式で知り合いを見た

GWなので更新頻度高め。明けたらペース落ちます。

教室の中に入ると既に何人かの生徒が席についており、ユウ達に視線が集まってきた。


(うぅ……なんか恥ずかしい)


「よう、おはようさん」


そんな空気の中、一人の気さくな挨拶で一瞬にして注目は減った。


「おはよ、源藤もこのクラスか」


「おうよ。お前らも相変わらず仲いいな…と思ったが佐倉はどうした?」


ユウを探しているのか辺りを見渡す源藤に、リヒトとカナとリサは揃ってニヤリと笑う。ユウは苦笑いしていたが止めるつもりは無かった。


「あいつならここにいるぞ」


「え?」


リヒトの言葉と同時にユウの頭に手を乗せる。教室内で中学のユウを知っていたものは一斉にユウへと視線が集まった。


「お、おはよ……」


「…………」


ユウが恐る恐る挨拶するも、源藤の返事がない。代わりにあるのは驚愕して固まる姿のみ。席についている数人も同様の顔をしていて、既知の者はその様子を笑い、無知の者は戸惑っていた。

そんな中、いち早く動き出したのは源藤だった。


「……は?」


「あー、やっぱりこうなるよね」


「いや、は?え、は?」


「混乱するのも分かるわ」


「あたしも最初そうだった」


「…やっぱ分かんないもん?」


「そうだね。リヒトぐらいじゃない?初見で気付くのは」


リヒト、カナ、リサ、そしてユウも苦笑しながら答える。

すると、源藤が勢いよく立ち上がった。


「ええ!?!?佐倉!?海原の保護者兼相方だったあいつがこの女子!?」


「そうだけど……何か問題でも?」


「いや、だって……」


「見た目が違うだけで中身は同じだよ」


「マジか……」


ユウが肯定すると、源藤はゆっくりと着席して考え込む。満足した様子のカナとリサは黒板に張られた紙を見て座席を確認していた。

リヒトとユウも自分の席を確認して席に着く。王道で五十音順の並びになっていた為、二人は隣同士になった。

その間に担任の矢吹が入ってきて、出席を取ると自己紹介を始めた。


「初めまして。私は担任の矢吹カエデ。よろしくね。

 さて、まず確認しようか。今年の一年生は三百六十人。各クラス四十人いて、ここBクラス含めたAからFの六クラスが普通科、XYZの三クラス特進科だね」


そう説明しながら黒板に絵を描いていた。上に講堂と書かれていた。


「学校の詳しいことは後にして、三十分後には始まる入学式の説明をするよ。下手くそな絵で悪いんだけど、クラスごとに場所が割り振られているからこの場所に座ってほしい。ちゃんと表示はあるから安心して」


矢吹が描いたのは講堂の図だった。謙遜しているが、要所を押さえて描かれている為分かりやすかった。


「じゃあ皆さん、これから講堂に移動します!着いた後の私語は慎むように!私も怒られるんだからね」


矢吹の言葉に笑いが起こり、和やかな雰囲気のまま移動することとなった。


***


講堂に到着したユウ達はその広さと座っている生徒の数にいささか臆していた。

それもそのはず、学校内に建てられた講堂は全校生徒約千人が収容可能な広さを有しており、それらの座席が全て埋まっていた。入学式というイベント事なので、在学生のみならず保護者もいるのだ。


「ではこれより入場です。皆様静かにお待ちください」


係の生徒がマイクを通して話すと、講堂全体がしんと静まり返った。ユウ達新入生は誘導に従って席に着く。


(うわぁ、広い)


ステージ正面に座るユウは辺りを見渡す。周りにいる保護者はスーツを着ており、中にはドレスを着ている人もいた。

そして入学式が始まり、校長先生の長い話が終わると祝辞が始まり生徒たちの睡魔との戦いが続く。

やがては祝電披露まで終わり、係の生徒が次の人を呼ぶ。


「次に、新入生代表挨拶。尾野カズヤ」


「はい」


そう返事して壇上に上がったのは、ユウのよく知る人物だった。


「春風が吹き始めた今日この日、僕たちは桜の花びらと共に入学しました。今年は例年よりも暖かく、満開の桜はまるで僕らを歓迎してくれているようでした」


ユウは壇上に立つ彼を見て唖然とする。


(なんで……)


そんなユウを置いて、彼は淡々とスピーチを続ける。


「僕は、ここで過ごす日々を大切にしたいと思います。それはきっと、大人になっても忘れないでしょう。なぜなら、ここにはかけがえのない仲間がいるからです。仲間たちと一緒に過ごした時間は、決して無駄にはならないと信じています」


ユウはリヒトに視線を送れば、彼からは涙をこらえる瞳が返ってくる。


「――以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」


そうして彼のスピーチが終わると同時に拍手喝采が起こる。


「感動した!」「流石だね!」「かっこいい!」


そんな声を受けながら、彼は悠々とした足取りで退場していく。その姿はまさに優等生であり、堂々としたものを感じさせた。


「……ユウ?」

隣からリサの声が聞こえるが、ユウはそれどころではなかった。


(……本物のカズヤだ。良かった)


ユウは、心の底から安堵した。事情を知らぬカナ達もユウの表情を見てあまり踏み込もうとはしなかった。


「続きまして、在校生代表挨拶。生徒会会長、雪村シズク」


司会進行を務める人が名前を読み上げると、舞台袖から一人の少女が現れる。

長い黒髪に端正な顔立ち、凛々しい佇まい。ユウはその少女に見覚えがあった。


「シズク先輩だ……」


「そういえば雪村先輩もこの学校に来てたっけ」


「ここでも生徒会長だったのね」


ユウの隣にいたカナとリサも知っているようで、どこか懐かしそうな顔をして見つめていた。


「新入生諸君、この学校に入学できたことを心から祝福しよう。私は、生徒会長の雪村シズク。よろしく頼む」


透き通った綺麗な声で、彼女は新入生たちに語りかける。


「私達は、共に学び合い、支え合うことで成長する。一人ひとりが自分らしく生きていくための力を身につけるため、私たちはここにいる。だからどうか恐れず、前に進んでほしい。これからの未来は無限大なのだから」


彼女の言葉は胸に染み渡るような優しさがあり、ユウは自然と聞き入っていた。


「――――願わくばそれを忘れぬよう、これからの生活を過ごしてほしい。私からは以上だ」


そう言って彼女は一礼すると、壇上から颯爽と去って行った。


「……凄かったね」「うん、綺麗だった」「憧れるわね」「かっこよかった」「美人さんだったね」


万巻の拍手が送られる生徒会長の背に、講堂中から感嘆の声が上がる。


「それでは最後に、校歌斉唱」

伴奏が流れ始め、ユウ達を含めた全校生徒が歌い始める。その歌声は講堂中に響き渡り、心地の良いハーモニーとなって会場を満たしていった。

GWブーストである程度ストックを確保したいです。

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