第八話 四月八日(月)少女は高校に入学した
連投はここで止めます。
翌朝、新品の制服に身を包んだユウはリヒトの家に来ていた。中学は学ランだった為初めて見るブレザー姿のリヒトに目を輝かせていた。
「おお!様になってるね!」
「お前も似合ってるよ」
ユウもブレザーだが女子はネクタイではなくリボン。スカートやリボンには違和感を覚える部分もあったが、今は慣れてきた。
「じゃあさっそく行くぞ」
「うん。行ってきます」
「気をつけてね」
アイカに見送れられて、ユウはリヒトと一緒に登校する。途中、道端で桜の花びらが舞っているのを見るとユウは足を止めて見入ってしまった。
「綺麗……」
舞い散る花吹雪の中、風に舞う髪を押さえていると、隣からシャッター音が聞こえた。横にいるリヒトを見ればスマホを片手に桜を見つめていた。
「確かに綺麗だな。ほら、絵になるレベル」
そう言ってリヒトがスマホの画面をユウに見せてくる。そこには髪を押さえて桜を見上げるユウの姿。
「そうだね……これ僕なんだよね?」
まだ自身の体の認識が薄いユウは素直に褒めるが、自分がこんなにも可愛く写った写真を見るのは初めてで、少し恥ずかしかった。
「自信持とうな。それに実物の方が可愛いぞ」
「そ、そうかな……。ありがとう」
ユウが照れて頬を掻いていると、後ろから声をかけられた。振り返ればそこにいたのは、ユウとリヒトの共通の友達であるカナがいた。
「おはよう!ユウ、リヒト!」
「おう、おはよう」
「おはよう、カナ」
「リサとタイチはもう着いてて、校門で待ってるよ。あいつらの反応楽しみだなあ」
「俺もだよ」
「僕もちょっとだけドキドキしてる」
三人してクスッと笑うと歩き出した。少しして校舎が見えてくると、ユウは緊張してきた。
(……どこだろう)
ユウが周りをキョロキョロ見渡すが、周囲は同じ新入生で溢れかえっている。背の低くなったユウには先が見えなかった。
「こっちだ」
「あっ、うん」
リヒトに手を引かれてついていくと、その先にユウ達を待つ二人の男女がいた。長身でロングストレートの髪を持つ物腰柔らかな女性、的場リサ。ガタイの良い体に少し跳ねた茶髪の陽気な男性、渡橋タイチ。
彼らはまだこちらに気付いておらず、仲良く談笑していた。
「おーい」
「あら!来ましたね」
「おっ、来たか三人と…も?」
リヒトの声に気付いた二人が振り向くと、リヒト、カナの順に視線を向けた後、ユウに向いた瞬間二人とも固まった。
「よう、久しぶりだな」
「会うのは卒業式以来だね」
「久しぶりだね。リサもタイチも元気そうだね」
わざと何事も無いように挨拶すれば、固まっていた二人は困惑顔になる。そして、最初に口を開いたのはタイチだった。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「うわ、敬語気持ち悪い」
「ええ!?いきなり酷くない?」
「あなた、もしかして……ユウ?」
「はあ!!?」
喋らずにじっとユウを見ていたリサが口を開く。その内容にタイチは信じられないと驚くが、ユウ、リヒト、カナは別の意味で驚いていた。
「よく分かったね」
「だって、髪型が違うし、体つきとか違うけど雰囲気が同じだから。でも、本当にユウ?私より小さくなってるけど……」
「ユウだよ。数日前に体が縮んで女の子になった」
「……マジ?」
驚きのあまりタイチはユウを指差す。すると、その手をリヒトが掴み捻り上げた。
「いだだだっ!痛いっ!」
「お前失礼すぎ。友人にする態度じゃないよなあ」
「ちょ、リヒト、離せ!ごめんなさい!!」
「次はないからな」
リヒトは手を放すと、今度はリサに目を向ける。
「リサはよくわかったな」
「だってあなたのその距離感を許してるのはユウだけじゃないの」
「それもそうか。無意識だったな」
「ほら、クラス分け見てないから行きましょう」
「ああ」
リヒトとリサが歩き出すと、未だに繋いだままのユウを引っぱりその後ろをついてカナとタイチが付いていく。
昇降口に張り出された紙を見て自分の名前を探す。ユウの体は女子の平均身長より少し低いくらいなので人の隙間から探すしかなかく難航していたら、長身のリヒトが上から探してすぐに全員の名前を見つけた。
「あった。タイチだけ別だな」
「ほとんど一緒だね!」
「良かった!ユウとリサと一緒だ!」
「ユウがいれば心強いわね」
「おい!嘘だろ!?」
一人仲間外れになって嘆くタイチに、四人は慰めの声を掛ける。
「じゃあ教室行くか。またなタイチ」
「うん。またねタイチ」
「隣のクラスなんだからそう落ち込まないでよ」
「あなたも教室にいきなさい」
「薄情者っ!」
ユウ達は項垂れるタイチに手を振ると、リヒトと共に人混みをかき分けて進む。しばらく歩いてやっと教室にたどり着く。
期待と不安を胸にユウは覚悟を決めて扉を開ける。
突如一転してしまったユウの変わった学校生活が今始まった。
ここまでがプロローグのつもりです。