第六十話 五月七日(火)少女は日常を謳歌する
連投(予約投稿)
この作者はいつでも見切り発車で運行しています。
即興で書いてるため数話先の展開が分かりませんでした。
それでもお読みいただきありがとうございました。
ホームルームが始まり担任の矢吹先生が教壇に立つと、抱えていた紙の束を配布した。
「来週の金曜にやる体育祭のプリントよ。ちゃんと持ち帰ってね」
机の上からプリントが仕舞われたのを見計らって明るい調子で放たれた先生の一言に、明るかった教室の空気が一転した。
「ちなみに今月末は中間テストだから」
「「「―――ッ!?」」」
驚愕を顔に出した数名の生徒の息を呑む声にならない声がユウの耳に届く。その中に聞き覚えがある声がしたのは気のせいだろう。
そんな教室のざわめきを一瞥した矢吹先生は、何事もなかったかのように話を戻した。
「体育祭実行委員はもうひと踏ん張りだから頑張って!授業は容赦なく進むから!」
そう言って手早くホームルームを終わらせると、絶望に満ちた数名に向けて笑顔を振り撒いて去っていった。
昏い表情で机を見つめる数名の生徒に対して、クラスメイトは合掌をして授業の準備に取り掛かった。
「薄情者ッ!」「お前、その顔……裏切ったな!?」
落ち込んでいた数名は各々の仲の良い友人に恨みつらみをぶつけに行った。
そんな騒がしい教室の一角を尻目にユウは机に突っ伏している友人の元へ向かった。
「カナ、どうしたの?お腹痛い?」
ワザとらしく白々しい口調で彼女に話しかけた。少しして彼女の身体が飛び上がるように起き上がった。
「ユウ!情けは無用だよ!」
「……この学校、赤点取った人への補習が厳しいって評判なんだよね」
「ヴッ!」
「スポーツ特待生でも部活が優先されるのは一つまでだからね。結局追々補習はするけど」
「………」
「まあカナは一般入試だから一つでアウトだから関係ないよね!」
「……死体蹴りがそんなに楽しいの?あたしを虐めて楽しい?」
いつの間にか俯いて肩を震わせていたカナは涙目でユウを見上げて訴えかけた。
「うん」
「即答なの?」
「だって、カナの反応可愛いんだもん」
そう言って笑うと、カナは諦めたように溜息を吐いた。
「もういいよ。ユウには責任取って勉強教えて貰うから」
「まあいつも通りだね。……厳しくする?」
「優しくしてっ!?」
「冗談だよ。後で予定見て定期的にやろうか」
そう言うと、カナの顔は途端に明るくなった。コロコロと変わる彼女の表情にユウは思わず笑みが零れる。
「ユウってば、前より意地悪になった!」
「そう?」
「絶対そうだよ!でも表情が豊かになった」
頬を膨らませて抗議してくるカナの頭をユウはポンと撫でて宥めた。
「…そう?まあもうすぐ授業始まるから準備しようね」
「はーい。あっ、教科書ロッカーに入れっぱなしだ」
照れ気味にユウは首を傾げてカナに準備を促した。カナは自分の机の上を見て何も出していないことに気が付き慌てて席を立った。
ユウも自席へ戻り、筆記用具を取り出していると視線を感じた。ふと顔を上げると、隣の席からこちらを見ているリヒトの姿があった。
「……ん?―――ッ!」
ユウは目が合った瞬間に思わず彼から顔を逸らした。その様子にリヒトはただ笑みを深めた。
(な、何!?なんであんなにも甘い顔して見てるの!?)
悶えるほどの甘さを秘めた眼差しを向けられたユウは、顔を真っ赤にして俯くしか出来なかった。
羞恥から解放されたのは授業が始まる直前だった。
***
放課後、ホームルームが終わるとユウは生徒会室に来ていた。事前に連絡はあった為リヒトは部活動支援部に向かっていてこの場にはいない。
今日は一日濃いめの甘やかすような眼差しを浴びていたユウは、少しホッとしていた。
「失礼します。……あれ、カズヤだけ?」
扉を開けて中に入れば、一人佇むカズヤの姿がユウの目に入る。周囲を見渡しても他の姿は見当たらない。
「ああ、会長なら少し前に出て行ったぞ」
「そうなんだ。やることある?」
「いや、今日は連休明けの顔合わせがメインらしいから待機」
「了解。そういや今週末だけど――」
二人は他の人が来るまで雑談をしながら時間を潰すことにした。
十分ほど経った頃、生徒会室の扉が開いて二人の女子生徒が入って来た。
「失礼します!…って、あれ?二人だけ?」
「久しぶり。一年だけ集まるのは初めてじゃない?」
そう言いながら入ってきた二人――八坂ミチルと佐々木ユキナが室内を見回して不思議そうにしていた。
「久しぶり。先輩方は何か集まりでもあったのかもね」
ユウは備品で眠ってたティーセットで紅茶を入れながら答えた。
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
納得したように呟いたミチルとは違い、ユキナはユウの言葉を聞いて所在なさげに席について眉間にシワを寄せた。そんな彼女にユウは苦笑いで紅茶を差し出す。
「ありがとう。……わ、美味しい」
「お粗末様。ミチルはミルクと砂糖は要る?」
「あ、お願いしてもいい?」
「了解。このミルク結構濃いから少な目でいいかも」
「ありがと!あのさ、さっきから気になってたんだけど敬語やめたのと雰囲気が柔らかいのは関係あったりする?」
ユウは慣れた手つきで角砂糖とミルクを用意して渡すと、ミチルは自分好みに投入して紅茶を混ぜながら聞いてきた。
「あー……、ちょっと色々あってね。気の持ちようが変わったんだよ」
「えぇ……。その『色々』知りたいなぁ~」
「それは内緒。でも嫌じゃないならよかった」
「あたしもユウって呼ばせてもらうし平気。……でもあれだよね。ユウってズルいよね」
「うん?」
返って来た言葉に思わず首を傾げたユウを余所に、他の二人は深く頷いていた。
「だってさ、小柄で可愛い系の顔立ちした美少女でしょ。なのに時々格好いい一面も出してきてさ、それがまた様になってるのがもう……」
「さっき紅茶貰った時、優しい音色で凛々しい顔向けられてドキッとしたわ」
「ユウってば、女になっても女堕としてるのか?たらしなのは変わらないんだな……」
「……最後のはカズヤにだけは言われたくないと思うよ」
ユキナの発言には思わずユウも同意してしまった。
「なんでだよ!?」
「あ、うちのクラスでもちょっと話題になってるよね!尾野君ってそこそこ告白されてるよね」
話の矛先はカズヤへと移り、ミチルが最近聞いた噂を思い出したように言う。それを聞いたユウは思わずカズヤを睨んだ。
「……カズヤ、言ってないの?」
「いや、なんかあいつが隠してほしいって言ってたし……当たり障りのない返答で逃げてる」
「…………わかった。僕のほうで話しておくよ」
ユウは溜息を吐きつつ了承した。彼も些か不本意なのだろう苦い顔をしていたので、嘘を吐く罪悪感もあるのだろう。
「頼む。最近粘着しそうな奴も出てきたから巻き込みそうで申し訳ないんだけど……」
「いいよ。カズヤには助けられてるしね」
「え?それ私達が聞いてていいの?」
「んー……しばらくは内緒でお願い。それより二人は連休中は何してた?」
そうして雑談をすること二十分間、生徒会室の扉が開くことは無かった。
***
他の役員達が来てからも、多少の仕事は振り分けられたが大したものもなくほぼ雑談や現状報告で時間が流れた。
シズクにだけはうっすらと感づかれながらも、仕事を済ませて生徒会を後にしたユウは廊下から校庭を眺める。
今日はサッカー部にいるであろう彼の姿を探せば、どうやら休憩中のようで他の部員達と楽しげに会話をしていた。
(やっぱり、皆に囲まれて笑ってる姿が一番好きだ)
ふっと微笑みを浮かべながら見つめていれば、不意に彼がこちらに向く。
「…………」
ふと、彼がこちらを見た気がしてユウは思わず手を振っていた。
(この距離でも気付くのかな……って、振り返してる)
気付いてくれたことが嬉しくて、自然と笑みが零れた。彼は近くの部員達に何か話しかけられて再び笑い声が上がった。
「……よし」
ユウは先程まで見ていた光景を噛み締めながら歩き始める。緩む頬を手で押さえながら浮ついた足取りで歩く姿を見る者はいなかった。
おそらく最終話、エピローグです。
散々伏線張っても回収出来ませんでした。
作中時間で毎日を描くとか難易度が高過ぎました。




