第五十七話 五月五日(日)少女は将来を誓った
過激表現があるかもです。
……ありがとうございました。
ユウの部屋に入るとユウは彼の腕を掴んだままベッドに腰掛けた。隣のスペースを叩くユウに、恐る恐るリヒトはユウの隣に座り彼女を見つめる。
「リヒトが言いたいことは分かるよ。けど、まだ襲わないように適度に発散させて」
「あ、ああ。わかった。これ後で俺が襲われるの?」
「……よいしょっと。そうなるね。リヒトが襲ってもいいんだよ?」
ユウはリヒトの腕を自分の肩に回して身体をピッタリとくっつけた。リヒトは緊張したように何度か首を横に振る。
「その……俺が求めだすと多分止まらないから。それより、話聞いても良いか?」
「う、うん。僕の身体の事を父さんに訊いた結果が今の僕なんだけどね?」
「俺の返しに照れないでくれ。ユウの方が結構攻めたこと言ってるからな?」
「仕方ないでしょ。えっと、父さんが今の体の事をなるべく調べて貰った資料を貰ったんだけど……はいこれ」
密かにこちらから求める分にはいいのかなと考えてるユウが手元のファイルをリヒトに渡す。彼が資料に目を通しているのを見ながら話を続ける。
「この前に僕が死にそうな状態になってたでしょ?あの日で薬は完全に切れたんだって」
「へぇ。ならこの前の不安は解消されたわけか」
「そうだね。僕の身体はずっとこのままなんだよ!つまり、戸籍も体も女性の僕ならリヒトとの将来を望めるんだよ!」
「ちょっ、急にテンション上げるな!わかったから落ち着け!」
身を乗り出して胸元から見上げてくる彼女に、慌てて身体を支えたリヒトは急に熱弁しだしたユウを宥める。
「……リヒトはそこまで求めてなかった?」
「ちょっと落ち着け。俺だって未来を望んでるさ」
急に落ち込みだすユウに、リヒトは彼女を抱きしめて背中を優しく擦る。ユウはゆっくりと顔を上げると、彼の目を見て微笑む。
「ありがとう。リヒトが望むならいつでも準備万端だからね」
「あのなぁ……。そんな煽るようなこと言うんじゃねぇよ。歯止めが効かなくなるだろ」
「まあ今の僕は肉体構造的に妊娠可能みたいだから気を付けないといけないけどね」
「……ああ、資料にも書いてあったな。一年は様子見してくれ……って、これ俺が手を出すと思われてる?」
「多分僕かな。周期問わず求めてしまいそうと思われてる気がする」
「あながち間違いではないのか?女になってからのユウは積極的な気がする」
「まあね。リヒトと思いが通じ合ってからというもの、好きが溢れて止まらなくてさ」
「―――ったく、よくもまあ恥ずかしげもなく堂々と言えるな」
リヒトは嬉しそうに抱き着いているユウの頭を乱雑に撫でる。髪が乱れてしまうであろう結構な勢いで撫でたにも関わらず、ユウはただただ笑みを深めるばかりである。
「えへへ。それで、改めてなんだけど……僕はリヒトの事が大好きです。お嫁さんにしてくれますか?」
蕩けたような笑顔を浮かべたまま、ユウは真剣な雰囲気を出して彼に問いかける。リヒトは思わず彼女を凝視する。その真っ直ぐな熱を帯びた瞳に見惚れるが、勇気を振り絞っているのだろうよく見るとその小さな身体が震えていることに気付いた。
リヒトは彼女の勇気に応えるべく、その問いに口角を上げて答える。
「勿論だ。もう逃げたくても絶対に離さないからな」
「うん。僕こそ絶対離れないから覚悟してよね」
ユウはそう言うとリヒトの腕から離れ、向かい合うとそのまま唇を重ねた。何度も啄ばむようにキスをすると、お互いに笑いあってもう一度重ねる。
「不束者ですがよろしくお願いします。旦那様」
「こちらこそ、末永く宜しく頼むぞ。奥さん」
二人はお互いの手を取りながら、誓いの言葉を紡ぐのであった。
それからはいつもより気持ち甘めの空気で暫く過ごしていると、不意にユウは何かを思いついたように声を上げた。
「あっ、そうだ。後でさ、ペアリング買わない?」
「ん?指輪?」
「実際には学生結婚は厳しいからさ、せめて婚約指輪みたいなものが欲しい」
ユウは校則の緩い今の学校なら指輪は無理でもリングネックレスなら大丈夫だと確信持って言う。
「ああ、成程な。それじゃあ、今度一緒に買いに行くか」
「うん!……ふわぁ」
「眠いか?」
「朝からテンション高かったから、気が抜けたら一気に疲れが……」
「そっか。……少し眠るか?」
夜は俺を襲うんだろう?とリヒトが囁くと、顔を真っ赤にしたユウはこくりと小さく首を縦に振った。
ユウはベッドに横になると、そっと彼の裾を引く。
「……頭撫でて貰っていい?」
「はいよ。仰せのままに」
リヒトはユウの頭を優しく撫でると、彼女は幸せそうに微笑んで目を閉じた。彼女は安心したかのように目を瞑り、数分後には穏やかな寝息を立てていた。
「おやすみ、ユウ」
彼は暫くの間、彼女が眠ってからも撫で続けた。
「ヤバいな……今から緊張してきた。流石に急展開過ぎるだろ」
隣で安らかに眠る彼女を見てると、整った容姿も相まってリヒトの心拍数が上がっていく。
「……てか、今夜襲いますって宣言した相手の前で無防備に眠るのはどうなんだ?いや、落ち着け俺……」
リヒトはそう自分に言い聞かせるが、先程の会話を思い出すといたたまれない。
「結局、ユウからプロポーズされて……。格好付かないなぁ……」
スヤスヤと寝息を立てるユウの柔らかい頬をつまんで伸ばしたりして遊びながら苦笑する。
(いつだってユウは俺の前を歩いてるんだよな)
リヒトの目の前に現れた時も、そして今も。彼女の眩しい笑顔を見ると、自分が如何にちっぽけなのかを思い知らされる。だが、そのおかげで頑張れるのだ。
「ユウが俺を必要としてくれる限り……俺はずっと傍にいるからな」
眠っている彼女には聞こえてないだろうけど、自身にも聞かせるようにそう呟いた。
暫く彼女の顔で遊んでいると、ユウが身動ぎしてリヒトの手を掴んだかと思えば頬擦りする。
「えへへ……」
「……起きてんのか?」
リヒトが尋ねるが返事はない。起きなきゃキスするぞ……と囁いてもユウの瞼が開くことは無かった。しかし、彼女は待ち望むかのように少し口を開けている。
リヒトが何もせずにジッと見つめていると、待ちきれずに薄めを開けたユウは不満げな表情で彼を見上げた。
「……いじわる」
「起きてるからな。お前が悪い」
「むぅ。リヒトのいけずー」
「はいはいわかったわかった。ほれ、こっち向け」
ユウは素直にリヒトの方へ向くと、彼からの口付けを受け入れる。触れるだけの軽い口づけが終わると、ユウは離れるリヒトの首に腕を回して再び唇を重ねた。今度は長く深く求めるようにキスをした。
ユウが身体を離せば、満足げに笑ってベッドに横たわる。
「……はぁ。起きて直ぐにリヒトと触れ合えるなんて幸せ……」
「可愛い事言ってくれるじゃねぇの。……まあ、俺も同じ気持ちだけどな」
「うん!」
リヒトが照れたように言うと、ユウも嬉しそうに笑う。
そのまま暫く他愛のない話を続けていると、夕食の支度があるからとユウは部屋を出てリビングに向かった。リヒトは来たる夜に備えて先人に助言を貰うべく、彼女の後を追うように部屋を出た。
***
ユウの作った夕食を堪能したリヒトは一旦自宅に戻りシャワーを浴びてから着替えると、ユウの待つ自室へと向かう。部屋に向かう途中、サユリとユージからの激励の言葉を貰ったリヒトは彼女の部屋の前に立った。
「入るぞ」
ノックをして声をかけると、中からどーぞという返事が返ってきたのを確認して扉を開ける。
意を決した彼は扉を開けると、既にパジャマに着替えてたユウがベッドに座っていた。髪はまだ乾き切っていないのかほんのりと湿っているその艶姿に思わず喉が鳴る。
「いらっしゃい」
「ああ、お待たせ」
リヒトは緊張を隠しつつユウの隣に座った。すると、ユウは彼の肩に頭を預けると甘えた声で彼の名前を呼んだ。
「リヒト」
「ん?」
「好きって言って欲しいな……」
ユウの潤んだ瞳に見つめられれば、リヒトの心臓が大きく跳ねる。
「好きだよ……愛してる」
「私も……大好きだよ」
二人は自然と顔を寄せ合いキスをする。そこから先はもう言葉はいらなかった。
一応完結扱いにしました。
更新は続ける予定ですが、この日以降は作中時間が飛びます。
私の体調的な問題もあり、執筆ペースが牛歩になっています。
……これ、ちゃんと章分けして連載中の方が良かったのかな?




