第五十五話 五月五日(日)少女は父から話を聞いた
正直、イベント事がない平日(作中時間)とか詰まる自信あります。
この先どんどん更新頻度下がりそうで申し訳ないですが、ご了承ください。
何食わぬ顔でリヒトの家で一泊した翌日。朝日が昇ってすぐ、ユウは目を覚ました。
「……ありがとう」
隣であどけない顔で眠るリヒトを一撫でした後、ユウは着替えて彼の部屋を出る。洗面所で顔を洗い、歯を磨いて寝癖を整えてからリビングへ向かう。
「おはようございます」
「ん、おはようユウちゃん」
ユウはキッチンで作業中のアイカに声を掛けると、持ってきたエプロンを着てキッチンに入った。
「手伝います」
「あら、ありがとう。じゃあこの野菜を切ってもらえる?」
「分かりました」
手際よく調理を進める二人だったが、ユウが昨日の試合後について話を振る。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なーに?」
「……どうして何も聞かずに僕を泊めてくれたんですか?」
そっと不安げに顔を覗くようにアイカの様子を見るユウに、アイカは優しく笑いかけた。
「貴方が無理を言ってあの子の傍に居たいって願う時は、いつも貴方が抱えてる問題に直面して不安になる時だもの」
「えっ、そんなにわかりやすいですか?」
「ええ。だから今回もきっと何かあったんだろうなって思ってたわ」
「……流石です」
「ふふっ、ユウちゃんが生まれた時からの付き合いだもの。そのくらいわかるわ」
少し照れくさそうにするユウに、アイカは微笑みながら頭をポンッと叩いた。
「でも、あまり無茶だけはしないでね。あの子の為にも」
「……はい」
「よしっ!それじゃあ朝食にしましょうか!」
元気づける様に明るく振る舞うアイカの声に、ユウは少しだけ笑顔を浮かべた。
それから暫くして降りてきたリヒトと共に、三人は朝食を食べ始める。
「「「いただきます」」」
普段より遅い時間に食べるせいもあって、朝食はゆっくりとした時間が流れる。
「そういえば、昨晩はゆっくり堪能出来た?」
「はい!……リヒトには少し酷な事をした気がしますけど」
「俺も許される範囲でユウに触れたから大丈夫だ」
「それなら良かった。僕だけ良い思いしてたら悪いし」
「ちょっと、私もユウちゃんに触りたいんだけど!?」
不満げな声を上げるアイカを他所に、二人は楽しげな会話を繰り広げる。
「私を差し置いてイチャイチャするのは許さないわよ!!するなら私のいないところでやりなさい!」
「……そういう問題か?というか昨日ユウに抱き着いてなかった?」
「それとこれとは話が別なの!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人を見て、ユウは思わず笑みを零す。
(僕は今、とても幸せだよ。こんな日常が何時までも続けばいいと思うほど)
だからこそ、答えを知る必要があって今日話を聞く予定なユウはこの時間を堪能していた。
食事を終えたユウが食器を洗い、支度を済ませると荷物を持って玄関に向かう。
「それじゃ、ありがとうございました」
「またいつでも来てね」
「ユウ、一つだけ言っとくぞ」
「……?」
ユウを見送りに玄関口までやってきた二人に挨拶すると、リヒトがそっと彼女に耳打ちした。
「―――。覚えとけよ」
「ありがとう。行ってくるね」
ユウはリヒトに礼を言うと、そのまま振り返らずに家を出た。
自宅に向かって歩き出したユウはスマホを取り出すと、メッセージアプリを開いて親しい人物に連絡を入れる。
『今から帰るね。あの人はもう起きてる?』
送ると直ぐに既読がつき、『分かった。二人で待ってるわ』と返信と可愛らしいスタンプが来たのを確認して歩みを速めた。
***
自宅に着いたユウが荷物を置いてリビングに向かえば、テーブルの席に座っていた母親が嬉しそうな表情で出迎えてくれた。
「おかえり、ユウ」
「ただいま。母さん」
「ほら、立ってないで座りなさいな」
席に着くよう促されたユウが椅子に腰かけると、サユリの隣に座る人へ顔を向けた。
「父さん、早速聞かせて貰っていい?」
「ああ、勿論だ」
ユウの父であるユージは手元に置いてあるお茶を一口飲むと、真っ直ぐユウを見つめ返した。
「ユウ、お前はどっちに転んでも平常に聞いていられるか?」
「……その為に昨日充電してきたから。お守りの言葉も貰ったし大丈夫」
心配の混じった真剣な眼差しで見つめられ、ユウはそっと胸元に手を当てて笑って答える。そして小さく深呼吸をしてから、覚悟を決めたように言葉を発した。
「お願いします」
その言葉を待っていたかのように、ユージはユウの姿に小さく微笑むと静かに語り始めた。
「まず、結論から言う。……現状ユウは既に例の惚れ薬の効き目は切れている」
「えっ?」
予想だにしていなかった内容に、ユウは目を丸くした。
「もう少し詳細に言えば、薬によって変化した肉体は完全に定着している。要はずっと女の身体だ」
ユージは用意していた資料をユウに差し出すと、読むように促した。
「時折貰っていたサンプルからすると、あの日を境に薬の成分が完全に消失していた」
「あの日って……ああ、この間の水曜?」
「そうだな。まだ『何故』がわかっていないけど、今知りえる情報はそれが全て」
「じゃあ僕は女として生きればいい?」
「ああ。一度変化してる以上、重ねて変化した時の肉体への負担が予測できないからな。男に戻ることが難しいと思う」
「……うん」
ユウは受け取った書類を眺めながら、何処か安心したような面持ちを浮かべた。
「ユウ?」
俯いていた彼女の顔を覗き込んで心配しているユージを他所に、ユウは小さく笑う。
(僕の望んでた未来に進められるんだ……)
心の中で呟いた後、ユウは顔を上げて思ったことを口にした。
「じゃあ僕はリヒトと結婚も出来るんだ!」
「……ユウ、少し落ち着け」
「あっ、ごめん」
ユウは照れくさそうに頭を掻くと、嬉しそうに頬を緩ませる。
「でも、本当に嬉しい」
「まぁ、俺としては複雑なんだが……」
「ふふ、あなたの負けね」
複雑そうな表情の夫を見て、サユリは可笑しそうに笑みを零す。
「ユウ、今日は何か予定があるのか?」
「うーん、この暴れ狂う感情をぶつけに行きたいけど……。何かあるの?」
「別に何かある訳じゃないけど、久々にユウの料理が食べたいからさ」
「ならリヒト君を呼べばいいじゃない!」
「……いいの?」
「私は全然構わないわよ!寧ろ大歓迎!!」
サユリの提案を聞いたユウは思案する間もなく大きく首を縦に振った。
「それじゃ、リヒトに聞いてみるね!」
「ははっ、ユウのテンション爆上がりだね。今のユウはわかりやすくなったな」
「本当に感情豊かになったわね」
「僕ってそんなに表情筋死んでたの?」
その後、ユウはリヒトにメッセージを送ると直ぐに返信が来て、彼の到着を待つことになった。
***
ユウがリビングで待っていると、インターホンが鳴り響いて玄関に駆け寄ったユウが扉を開ける。そこには袋を持ったリヒトの姿がいた。
「お邪魔しま~す」
「いらっしゃい、リヒト!」
「もう問題は終わったのか?朝よりも元気だな」
「色々スッキリしたから。とりあえず上がって」
「ああ」
二人はリビングへ向かうと、談笑をしていたサユリとユージから椅子に座るように促される。
リヒトを先に座らせたユウは手際よく彼の分の麦茶を用意してから席に座った。
「お待たせ」
「ありがとう。ユウ」
「どういたしまして」
ユウは自分のコップに口をつけると、小さく息を吐く。そして何気なく隣に座るリヒトの顔を見つめた。
「どうかしたか?」
「……やっぱりカッコイイなって思って」
「はは、それはどうも。それで、ユウの用事は済んだのか?」
「うん、もう悩まなくて良くなった。これで障害無くリヒトのお嫁さんになれる」
「ッ!?ゴホッゴホッ」
ユウの言葉を聞いて飲んでいた麦茶を吹き出しそうになったリヒトは何とか耐えると、軽く咳き込んだ。
「大丈夫?」
「だっ、大丈夫……ふぅ」
「ごめん。タイミングが悪かったね」
「予想よりも段階すっ飛ばした返答にびっくりしただけだから」
「ふふっ、嬉しくて飛ばしちゃった!今の僕、凄く幸せだよ」
「……そうか。なら、俺も嬉しい」
お互いに見つめ合って微笑んでいると、ユージが咳払いをする。その音にハッとしたユウ達は慌てて正面へ向き直した。
「……お前達。仲が良いのは結構だが、外ではもう少し抑えような?」
「もう手遅れなような……」
「善処します!」
「ユウ、それしないやつ」
リヒトが苦笑いを浮かべている中、ユウは勢い良く返事をした。返事の内容に思わずツッコミを入れるも当人は何食わぬ顔をしていた。
ユウの父の名を思い出せず、必死に過去話を遡りました。




