第五十三話 五月四日(土)彼女は昔の知り合いと勝負をした
投稿出来た。いつもこのくらい筆が進めばいいのに…
第一、第二試合が終わって次の試合まで二つ間の空くユウは体育館間の通路で涼んでいた。
「お疲れ。どうだった?」
ドリンク片手に話しかけてきたのはリヒトだ。彼はユウの隣に立つとボトルを傾けながら答えた。
「やはり強豪校だけあってレベルは高いね。それと、知り合いがいたのに気付いた?」
「え?もしかしてちょくちょく視線飛ばしてくる奴?顔をよく見てないからわかんない」
「ほら、丁度こっち来る人がそうだよ」
ユウが彼の後ろを覗けば、こちらを見て真っ直ぐ向かってくる一人の男子がバツが悪そうにした。
「すまない。あまり向かないようにしてはいたが、気に障っただろうか」
「いや、あのくらいなら別に気になんねえよ。……吉野か。中学以来だな」
「やっぱり海原か。練習試合にお前がいるとトラウマが蘇るんだよ」
「そんな酷い事したか?」
「三人マーク振り切って一人でダブルスコアつけられた絶望を味わったら普通なるだろ」
「ああっ!僕が行けなかったばっかりにリヒトが好き勝手暴れたあの日の練習試合の選手だったんだ」
二人の会話でいつのことかが合致したユウが納得した。彼女の言葉に肩を落とすリヒトと満足げなユウを何度も見比べた吉野は思わず質問した。
「確か海原には付き人がいたんだよな?あの日は都合が悪くて来れなかったけど、確か佐倉って男だったはず……」
「あ、ごめん。それ僕の事。当時は男だったから間違ってないよ」
「はぁ!?」
「いやー、事情があって今は女なんだよね。ああ、今日は女子バスケ部として参加してます」
衝撃の事実に驚愕する吉野に笑顔で答えるユウ。リヒトの方は訳知り顔で頷いていた。
「ま、マジか……。こんな美少女なのに中身はあの海原の相方か。女バスも大変だろうな」
「僕は当時ほどの実力はないから必死なんだけどね」
「噂通りの実力と思っておこう。海原、次はお前のとことだろう。行くぞ」
「おう。じゃあなユウ。頑張れよ!」
リヒトはユウの頭を軽く撫でて先に行く吉野の後を追って去っていった。
二人が去って行った後、ユウはもう少し火照りを冷ましてから向かうことにした。
***
ユウは第三試合が終わって小休憩を挟んだ後、続けて第四試合目に入った。そこで相手チームに目を向けると、見知った顔を見かけた。
「本田さん。よろしくね」
「うん?どこかで会った事あるかしら」
「一応会ったけど多分気付かないと思うから気にしないで」
「なら後で教えてちょうだい。対戦よろしく」
そう言って握手を交わすと、二人はベンチに戻った。
「では、両チームはコートに入ってください」
審判の指示で両者が向かい合う。そして、ホイッスルの音と共に試合が始まった。
ボールが投げられると、最初に動いたのは落葉高校側だ。本田がボールを奪取すると、速攻を仕掛けてきた。
「まずは先制ッ!悪いけれどこのまま行かせてもらうわ」
ドリブルしながら駆ける彼女に対してユウは左側を緩めに立ちふさがる。彼女が自分の横を通り過ぎる瞬間を狙ってスティールを決めた。
「何っ!?」
「まだその癖治ってなかったんだね」
ユウは驚愕する本田の姿を後目に反撃を仕掛ける。相手側は出鼻をくじかれて戻りが遅れていた為、そのまま先制点を決めた。
その後も互いに点を取られ、取り返しを繰り返していった。しかし、着々とスティールを決めるユウの存在が徐々にその点差を広げていった。
「ふぅ。本田さん、最初よりも動き良くなってない?」
「貴方の指導のお陰よ。ムカつくけどね!」
ボールを保持する本田はそのままフェイントを挟んでゴールから一歩遠のいた。スリーポイントを狙う彼女に、ユウは圧を掛けて防ごうとする。だがものともしない本田のシュートが決まると、彼女はニヤリとこちらを見る。
攻守交替してパスを受け取ったユウはセンターラインを越えて直ぐにシュートモーションに入る。驚く相手チームを余所に、スリーポイントラインの遥か外から放たれたボールは静かにゴールネットを揺らした。
「僕だって負けるつもりはないから」
未だ唖然としている本田に向けてユウは言い放つ。その後の試合展開は膠着状態が続き、ユウのスリーが決まると同時に終了のホイッスルが鳴る。
挨拶を終えてコートを出て直ぐに、ユウの方へ向かって歩いてくる本田の姿があった。彼女は少し悔しそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「私の完敗ね。あのスリーは本当に驚いたわ」
「ありがとう。本田さんも動き良かったよ」
「……ところで、貴方はあの佐倉君と関わりがあるの?私の癖を指摘したのは彼だけよ」
「えっとね、僕が佐倉ユウです」
「はあっ!?」
こそっと耳元で囁くように告げると、彼女から大音量の声が返ってきた。周りにいた生徒達がこちらを向いた為、二人は慌てて外に出た。
「実は色々あって先月に女になったんだよね」
「そ、そう……。でも納得したわ。あなたから佐倉君の姿が重なるのは当然だったのね」
「そんなに似てるかな?」
「見た目は全然だけど、試合中の雰囲気はそっくりよ。今はただの女子だけど」
そう言うと、彼女はクスリと笑った。
「僕とて初日は戸惑ったよ。今はもうこっちじゃなきゃ落ち着かないけど」
「相変わらず奇抜な人生送ってるわね」
「何だかんだで楽しんでるから良しとしてる。あ、そろそろ召集掛かるから行こう」
「そうね。また話す機会はありそうだもの」
二人はお互いのチームメイトと合流すると、そのまま体育館に向かった。
そのまま集合して各校の顧問からの号令でお昼休憩になった。ユウとリヒトは囲まれるより早くその場を抜け出して、校舎裏庭のベンチで持参してきた弁当を広げた。
「よし、何とか逃げれたな。ユウは大丈夫だったか?」
「何とかね。お弁当も無事だし、早速食べよっか!」
ユウが弁当箱を開けると、中には唐揚げや卵焼きなど定番の料理が詰まっていた。その光景を見たリヒトの箸の動きが止まる。
「……お前これ全部作ったのか?」
リヒトが目にした弁当箱。そこには普段の倍はある種類のおかずが並んでいた。
「うん。久々のリヒトの晴れ舞台だから、今日はいつも以上に張り切っちゃった」
「ユウ……。ありがとう」
「いいから食べて食べて。美味しく食べてくれるのが一番だから」
「おう!」
それからは黙々と食事を進めた二人だったが、嬉々として食べ進めるリヒトと、そんな彼を嬉しそうに眺めるユウ。その時間は穏やかで楽しいものだった。
「ご馳走様。どれもこれもすげぇ美味かった」
「どういたしまして。喜んでくれたなら何よりだよ」
「俺からも何か礼させてくれ。何でも良いぞ」
「んー。それなら一つお願いしようかな」
ユウは少し考えた後に、弁当箱を片付けて脇に置いた。
「休み時間ギリギリまでよろしくね」
そう言って彼女は彼の方へ横になり、頭を乗せた。所謂膝枕だ。
「えっ!?ちょ、ユウ!?」
「ほら、じっとしてて」
突然の事に動揺するリヒトに対して、ユウは彼を下から見上げてその頬に手を伸ばす。
「あぁ、やっぱり落ち着くね」
「お、おいユウ。これ男がやっても硬くないか?」
「これはこれで……良いんだよぉ……」
数分もしないうちにユウの瞼が閉じて規則的な寝息が聞こえてくる。
呆れたリヒトが彼女の頭を撫でると、嬉しそうに身じろぎする。止めるに止められなくなって撫で続けて、彼女のスマホのアラームが知らせるまで緩やかな時間を過ごした。
「満足したか?……その顔見れば聞くまでもないか」
「そんなわかりやすく緩んでた?十分堪能させてもらったよ」
「そりゃ良かった。ほら、行くぞ」
「うん。……着くまでに顔戻るかな?」
「さぁな。ま、ユウは可愛いから安心しろ」
「……ばか」
顔を赤く染めながら、ユウはリヒトの背中を追いかけて体育館へ向かった。
まさかの延長です。自分でもびっくりしてます。
二話で終わると思ってました。




