第五話 四月五日(金)少女は友人と通話した
元気よく手を振るカナが去っていき、姿が見えなくなってから息をついた。
「はぁ~……。緊張した……」
「お疲れ様。カナちゃんは変わらないわね」
「そうだね」
「さ、私達も帰りましょうか」
帰って食材を仕舞い、制服を一度部屋に置いてきてリビングに戻る。夕食の準備を済ませて空いた時間にカナに連絡を入れておく。
『夜8時くらいでいい?』
『大丈夫!寝間着姿待ってます!』
直ぐに返事は来たが、彼女の好奇心なのか服の指定が入った。
(遠慮しないのは彼女らしいけど、ありがたいな)
仕方ないので夕飯の後、入浴を済ませておく。部屋に戻ってスマホを見れば、既に連絡が入っていたので返事を返せば一瞬で既読が付いた。彼女がトークルームに張り付いていたのがわかったユウは呆れながらビデオ通話ボタンを押した。
ワンコールもかからず通話が開始され、カナの食いつきにユウは若干引き気味だった。
『わーいユウちゃんだ―!!可愛いよぉ!!』
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ」
『これが落ち着けるわけないじゃん!あたしずっと楽しみにしてたんだからね!久しぶりにサユリさんに会ったからユウのことでも聞こうとしたら美少女が出てきて、ユウだって言われてとうとうそっちに目覚めたのかと思ったけど、よくよく考えたら身長が明らかに低くなってるし流石に別人じゃないと思ってたけど、会話が始まればいつものユウだしわけわかんないまま帰ることになってずっとモヤモヤしてたの!
それで、ユウはホントに女の子になったの?』
開幕から弾幕のように話してくるカナにたじろぐユウだったが、よく聞くと不穏な言葉がちらほらと聞こえていた。
「……とうとうって僕そっちの気はないはずなんだけど」
『いやだって普段の様子見てたら誰でもそう見えるって。元々童顔だったでしょ。まあそれは置いといては答えは?』
「正真正銘女の子になってます。昨日から」
とりあえず経緯を説明すれば、カナは納得の表情をしていた。
『ユージさんならやりかねないもんね。あたしも一回だけ経験あるし』
「そうだね。こうしてみると父さんの被害者多くない?」
そうしてユウとカナは近況報告を始めた。そのまま高校の話になり、いつものつるんでるグループメンバーは全員同じ高校に通うことを思い出したカナが閃いた。
『ねえ!あいつらには内緒にしておかない?』
「えっと、僕が女の子になったこと?」
『そうそう。どうせリヒトにはもう知られてるんだろうけど、リサとタイチはまだでしょ?』
ユウは何故リヒトには教えていると思ったのかは置いて、二人のことを考えてみる。普段冷静なリサと陽気なタイチがどこまで驚いてくれるかを想像する。
(きっと混乱するだろうな。リサは驚くかもしれないけど、意外とすんなり受け入れてくれそう。タイチは……絶対信じないだろうなぁ。面白いから黙っておこう)
「そうだね。カナの言う通り二人には驚いてもらおう。リヒトも通話に入れる?」
『だね。念を押して計画を練ろう!』
通話画面から切り替えてリヒトとのトーク画面を開く。今電話しても大丈夫か確認すれば、すぐさま了承のスタンプが返ってくる。
カナに話して個人通話からグループ通話に切り替えてもらう。そのままリヒトをメンバーに入れてば、参加しましたの表示が映る。
『珍しくグループ通話だと思ったらカナか』
『そうだよ。今日偶々ユウに会ってね。色々と話してたの』
「ごめんねリヒト。連日電話かけちゃって」
『夜は暇してるし無理な時はちゃんと言うから謝んなって』
『へぇ?昨日も電話してたんだ。ユウは今日と同じ格好だった?』
含みのある相槌の後、急に言われた問いに首肯する。カナは笑みを深めると、リヒトをじっと見ていた。
『それはそれはリヒトはさぞ眼福だったでしょう?この天然無防備なユウの姿を見ていて感想はある?』
(そういえば、グループに変えてからカナの姿勢変わってる。寝間着の上に一枚羽織ってるしそういうこと!?)
顔が熱くなり思わず枕を胸に抱えて顔をうずめる。自分でもわかるくらい顔が赤くなっているんだろう。カナとリヒトには真っ赤な耳が見えていた。
『今自覚してくれたみたいだから助かった。昨日は寝そべっていたからもっと酷かった』
「昨日はそれどころじゃなかったし、リヒトの声聞いて安心してたし…」
『あらま。ユウちゃんったら可愛い事言ってくれるじゃない』
ゆっくり顔をずらして上目遣いで画面を覗くユウにカナは内心悶えつつもおくびに出さずにからかった。
「うるさいな!恥ずかしいから早く本題に入ってよ!」
『はいはい。それでは早速だけどユウが女の子になったので、リサとダイチにどっきりを仕掛けます!』
『ああ、なるほどな。俺もまだ誰にも話してないしイケると思うぞ』
相談の結果、入学式の登校時に一度集まってドッキリを仕掛けることになった。満足げに決定を下したカナは、入学式を楽しみに待ってると言い残して通話から退出した。
つかの間の沈黙の中、リヒトの唸る声が聞こえてくる。
『…なあユウ、うちの母さんにバレたかもしれない』
「アイカさんに?多分うちの母さんから流れたんじゃない?」
『なんか妙にそわそわしてるから近いうちに呼ばれるかも。もしかしたらそっちに行く可能性もあるな』
「僕はもう大丈夫。それにアイカさんには元々言うつもりだったし」
『そか。ならそん時はよろしく。じゃ、おやすみ』
「おやすみ」
ユウはベッドから降りて立ち上がると寝支度を済ませに洗面所へ向かう。歯を磨きながら鏡に映る自分の体を見下ろしながら呟いた。
「明日はリヒトん家に行こう」
スマホでリヒトにメッセージを送ってその日は眠りについた。