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第四十八話 五月一日(水)少女は初めて欠席した

作中時間毎日の弊害です。なるべくぼかした描写にはしました。

フィクションなので大目に見てください。

あ、ちょっと今回視点はリヒト寄せです。

女バス部員が感じた不安が募った翌日。

リヒトはいつもの時間になっても出てこないユウを心配していると、中からサユリが出てきた。


「おはようリヒト君。いつもありがとね」


「おはようございます。ユウはどうしたんですか?」


「それが――」


サユリは言い淀むと、リヒトに耳打ちをした。顔を離したサユリは申し訳なさそうにしていた。


「その、学校には私から言っておくからリヒト君は友達に説明してくれる?」


「……わかりました。こればっかりは俺じゃ力になれないので、あいつらに頼みます」


「ありがとう。帰りにまた家に来てくれるかしら」


「はい。ユウによろしく言っておいてください」


そう言って一人学校へ向かう姿をサユリは見送った。


***


学校に着いたリヒトは教室に入るなり、クラス中の視線を浴びた。


「海原君!?佐倉さんは!!?」


「休み。体調不良だけど、心配すんな」


「リ、リヒト!ユウが体調不良って大丈夫なの!?」


「カナは落ち着けって。リサ、うちの母さんの連絡先知ってたよな?」


「え、ええ。急にどうしたの?」


「悪いけど、昼に母さんに電話かけてくれ。ユウの状態を聞いてくれないか?」


「わかったわ。サユリさんは仕事だものね。それで?」


そうして納得できずにリサはリヒトに詰め寄った。彼は周囲に聞かれないように耳打ちをする。


「ッ!?……わかったわ。任せて」


「ちなみに、そっちの方面で俺に出来ることってあるか?」


「……ないかも。ごめんなさい」


「謝る必要はないさ。じゃあ、頼んだ」


そう言うとリヒトは席に戻り、朝の支度を始めた。

そして、ホームルームが始まると担任からユウが欠席する旨が伝えられた。

その後の授業は普段通りに進んだものの、ユウを欠いた状態での活動はどこか寂しさを感じた。

放課後になると、リヒトはいつものように体育館に向かった。既に支度を終えていた女バスの部員から、ユウの姿が無いことを激しく追及された。

事情を説明した上で練習に参加すると、やはり皆が気になるようでチラチラと見てきた。だがリヒトは一切気にせずに練習に取り組んだ。


「ねぇ海原君」


「何だ?」


休憩に入ると、レイナが話しかけてきた。他の部員も聞き耳を立てているのだが、気にせずに話を進

めた。


「ユウの休んだ理由って昨日調子悪かったのと関係してる?」


「ああ、そうだな。……ユウが元男ってレイナは知ってんだよな。ならリサに聞いてくれ」


「ここでは話せないと?」


「俺の口からは話しづらい。頼むからリサに聞いてくれ」


真剣な表情を浮かべて告げると、それ以上何も言わずに黙々と練習に戻った。そんなリヒトの態度を見て、レイナは諦めたようにため息をついた。


「……わかったわよ」


そう言ってレイナは他の部員の元へ向かった。


***


その日の部活終了後、リヒトは急いで着替えを終えると真っ先にユウの家に行った。

玄関を開けると、ちょうどサユリと鉢合わせた。彼女はリヒトの顔を見ると、安堵のため息をつく。


「おかえり、リヒト君。今日はありがとうね。朝よりは落ち着いたからユウと少し話していく?」


「……お願いします。俺も気が気じゃなかったんで」


「じゃあ、先に上がってて。ユウの食事持っていくわ」


「わかりました」


リヒトは靴を脱いで上がると、ユウの部屋の前に立った。扉をノックしたが、中からの返事は聞こえない。


「ユウ、入るぞー」


返事がないのを承知の上で声をかけると、ゆっくりとドアノブに手をかけた。そのまま開けると、ベッドに横たわるユウがいた。

息を荒げて苦痛に歪んでいるユウを見たリヒトは彼女の元まで行き、そっと頭を撫でた。


「……ぃと?」


「無理に喋らなくていいから寝とけ。体調が悪い時ぐらい誰かに頼ってもいいんだからな」


「……ん。ありがと」


「サユリさんがご飯持ってくるから、それまでは寝てていいから」


「今は話してくれた方が楽……お願い」


ユウの提案を聞いたリヒトは苦笑すると、近くにあった椅子を持ってきてベッドの横に座った。


「ありがとう」


「ほら、ちゃんと布団かけろ」


「うん」


「今回のそれは自称惚れ薬の影響で悪化したと思いたいな」


「それ、は…父さんに聞かないと、だね」


「あの人が帰ってくるのは土曜か。缶詰め状態じゃ連絡入れても返事来なさそうだな」


「それぐらい待てるよ。それよりも頭撫でて」


リヒトは言われた通りに頭を優しく撫でる。その顔には先ほどまでの苦しそうな表情が和らいでいた。

しばらく沈黙が続いた後、部屋の扉が開いてサユリがお盆を持って入ってきた。


「ユウ、ご飯持ってきたわよ」


「ありがとう、母さん。リヒト食べさせて?」


「……わかった。ほれ、口開けて」


リヒトはスプーンで掬ったスープを口に運ぶと、ゆっくりと口を動かした。


「ん……美味しい……」


「そりゃ良かった。ユウ、他に何かして欲しいことはあるか?」


「手を握って欲しい。それと、もう少しだけ側にいて」


「はいよ」


ユウの手を握ると、安心するように頬を緩ませた。そして、次第に瞼が落ちていき、眠りについた。


「リヒト君もユウのこと見ててくれてありがとうね。こういう時にはただ話聞いてくれるだけで助かるのよ」


「俺が力になれることなら何でもしますから。今の様子じゃ明日も厳しそうですね」


「ええ、そうね。幸い、あの人からの連絡じゃ薬の影響が強いみたいだから今回限りだと思いたいわ」


「連絡取れたんですね」


「あの人でも流石に我が子にしたことに責任を感じてるみたい。今の研究もあの薬関係みたいだし」


「なるほど。……てか、俺はいつまで手を握ってたらいいんでしょうね?」


「少ししたら起きるからそれまでお願いするわね。アイカさんには連絡しておくわ」


サユリが部屋から出ていくと、リヒトは傍に置いてあったスマホが震えたのを見て手に取った。リサからの連絡だった。


『ユウの様子はどう!?』


『今は眠ってるけど、一日中酷いっぽい。例の薬が影響してるみたいだからどう転ぶかわからない』


『そっか。もし明日も辛そうだったら学校休ませてあげてくれない?』


『わかった。明日の朝に様子見てみる』


リヒトはメッセージを送ると、スマホを置いて再びユウを見た。頬を緩ませて眠りについたものの依然として痛みが続いてしるらしく、彼女の寝顔は少し苦しそうだった。


「ユウ……」


リヒトは祈るように呟くと、ユウの手を握り続けた。彼女が目を覚ますと、外は暗くなっていた。時間を確認するために枕元にある時計を見ると、針は19時を指していた。


「起きたのか?」


「……うん」


「まだ調子悪そうだな。痛むか?」


「うん、でも朝よりマシ。ねぇ、帰る前にお願いがあるんだけどいいかな」


「なんだ?出来る範囲でなら聞くぞ」


「抱き締めて」


両手を伸ばしてくるユウに、リヒトは近寄って優しく背中に腕を回した。


「ん……もっと…」


リヒトは彼女の要望に応えるように強く抱きしめた。彼女が満足して回された腕が緩むまでずっと、その小さな体を壊れない程度に強く抱きしめた。


「もう大丈夫。ありがと。これで頑張れる」


「ずっといられなくてごめんな」


「ううん、来てくれて嬉しかったから」


「そ、そっか。じゃあ、そろそろ行くな」


「うん、またね」


「ああ。また明日」


リヒトは彼女の口にそっと口づけると、そのまま部屋を出ていった。残されたユウは唇に手を当てて顔を赤く染めながら、彼の出ていった扉を見つめ続けていた。

どこかで入れないとな…と思っていたらこうなった。

もっといい隠し方があればご指摘お受けします。

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