第四十二話 四月二十七日(土)少女は彼の家族と食事をした
文字数が安定しないので区切ります。二話投稿します。
四人は一斉に食事を食べ始めた。そしてユウが作った料理を一口食べた瞬間、三人の顔が驚愕に染まった。ヤマトは初めて食べたユウの手料理に、思わず口から思いが零れる。
「……え?これ本当にユウが作ったの?」
「はい!……口に合いませんでしたか?」
「いやいや、とんでもない!凄く美味しいよ!」
「そこら辺の料理屋よりも美味しいわよ!」
二人の絶賛にユウは安堵した表情を浮かべたが、すぐに不安げにリヒトを見た。彼は何も言わずに黙々と食べていたが、その顔は喜色満面となっていた。
ユウの視線に気づいたリヒトは、口の中を空っぽにすると笑顔で感想を述べた。
「凄く美味しいよ!ユウが作ってくれたと思うだけで更に美味しく感じる!」
「そっかぁ、良かった……」
「普段作ってくれる弁当もだけど、こんな美味しい料理をありがとうな!毎日食べたいくらいだ!」
「毎日作ってあげたいけど、家が違うから難しいね。でもリヒトからいつも美味しいって言って貰えるから嬉しいよ」
ユウは安心した様子で微笑むと、自分の分の料理に手を付け始めた。その様子を見て、夫婦は心の中で思った。
((二人ともプロポーズ紛いのこと言ってるけど気付いてない?))
その後もユウの作った夕食を堪能した一同は、食後の休憩をしていた。
「ユウ、凄い腕前だね。正直驚いたよ」
「ありがとうございます。小さい頃からよく母さんのお手伝いしてたので、自ずと上手くなったんですよ」
「へぇー、良いお嫁さんになるね」
「家事は趣味も兼ねてますから」
ユウは恥ずかしそうに頬を染めて言った。そんな彼女をヤマトとリヒトは微笑ましそうに眺めていた。
「ところでリヒト、お前いつからユウのことを好きになったんだ?」
「うぐっ!?」
突然の父からの質問に、リヒトは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「ちょっ、いきなり何を言ってんだ!」
「だって、この子のどこが好きなのか聞きたいじゃん」
「私だって知りたくても一応我慢してたのに……」
「母さんまで。えっとユウは大丈夫か?」
アイカとヤマトの二人がニヤつきながら訊ねてきた。ユウはリヒトの方をチラリと見ると、少し顔を赤らめて俯いていた。
「……僕の何処を好きなのか興味あるかも」
「マジかー……。ユウの前じゃあんまり話したくないんだけどな」
リヒトは自分の過去をあまり語りたがらないので、ユウは彼のことが心配だった。そんな彼女の気持ちを感じ取ったリヒトは、仕方ないと諦めて過去のことを話し始めた。
「分かった。ユウが恥ずかしくなって止めるまで話すか。ユウには告白の時に言ったけど、男の時からユウ自体には惹かれてたんだよ。男だから恋にはならなかったけどな」
「へぇ〜、てっきり男の時に既に惚れてるかと思ってたわ」
「今思えば惚れてたのを必死に誤魔化してたのかもな。そんな状態で急に女になったって言われて、無防備に近寄られたら直ぐだったな」
「……そうだったんだ。僕、そんなに無防備だった?」
ユウは不安そうな顔でリヒトを見つめた。リヒトはそんな彼女に苦笑しながら答えた。
「ああ、めっちゃ無防備。俺にだけ気軽に触れてくるから理性を試されてるのかなって思ってた」
「ごめん。そういうつもりはなかったんだけど」
「まあ気にすんな。今はこうして恋人になれたんだから遠慮しなくていいしな」
リヒトはそう言うと、ユウの頭を撫で回した。ユウは心地良さそうに目を細めた。
「ユウちゃんも大変ねぇ。こんな欲の強い彼氏を持って」
「いえ、そんなことないですよ!僕の方が独占欲強いし、リヒトと一緒に居れて幸せなんです!」
ユウの言葉を聞いたヤマトは、思わず目頭を押さえながら呟いた。
「息子がこんなに愛されてるなんて……もう死んでもいいわ……」
「父さん、まだ死なれたら困るよ。俺が花嫁を迎えるのを見届けて貰わなくちゃ」
「そうだね。……リヒト、ユウちゃんを大切にするんだよ」
「分かってるよ。幸せにするさ」
リヒトの決意に満ちた表情を見て、ヤマトは安心したように微笑んだ。そしてリヒトとユウの二人の肩に手を置くと、真剣な顔で言い聞かせた。
「子供は計画的にな。学生のうちに作ると大変だぞ?」
「「ぶっ!?」」
予想外の言葉に二人は盛大に吹き出した。リヒトは咳き込みながらヤマトに文句を言う。
「げほっ、ちょっ、何言ってんだ!」
「いやー、二人とも若いし思いが強い分衝動的にならないか心配でね」
「全くこの人は……」
「大丈夫ですよ。その時がきたら僕もちゃんと気を付けますから」
ユウは恥ずかしそうに頬を染めながらも笑顔で言った。リヒトはその様子に見惚れてしまったが、直ぐに気を取り直すと彼女を抱き寄せた。
「当たり前だろ?ちゃんと養える時になるまでは作ったりしないさ」
「うん、ありがとう」
リヒトの胸に寄りかかり、嬉しさの余りユウは無意識に彼の背中へと手を回し抱き締め返した。
「はいはーい、イチャつくなら自分達の部屋に行ってね〜」
「そうそう、お邪魔虫の居ない空間でごゆっくり」
アイカとヤマトはそう言ってニヤニヤと手を振って、部屋から出て行く二人を見送った。
その後、リヒトはユウを連れて自室へと向かった。リヒトはユウをベッドの縁に座らせると、隣に座って彼女を抱きしめた。
「リヒト?」
「悪い。ちょっとだけこのままで」
リヒトはユウの体温を確かめる様に強く抱きしめると、彼女の口から息が漏れる。その声を聞いてリヒトは我に帰ると、慌ててユウを離そうとした。しかし彼女は離れようとせず、逆にリヒトの身体に腕を回して強く引き寄せた。
「ゆ、ユウ?」
「もう少しだけ……」
上目遣いで見つめられてしまえば、リヒトは抵抗出来ず再び彼女の身体を抱きしめた。そのまま暫くの間、お互いの温もりを感じ合っていた。
どちらからともなく身体を離した二人は、至近距離で視線を合わせた。お互いに笑い合ってベッドに座り直した。
「風呂入ってくるわ」
「そうだね。……一緒に入る?」
「んー、それはまだ遠慮しとく」
ユウの言葉にリヒトは少し考えて答えた。彼女が残念そうな顔をしていると、彼は苦笑しながら彼女の頭を優しく撫でて言った。
「また今度、ユウの覚悟が決まってからな」
「……うん!」
リヒトの一言にユウは満面の笑みを浮かべて返事をした。そんな彼女の額にキスをすると、リヒトは着替えを持って部屋から出ていった。
残されたユウはリヒトが出て行った扉を見つめていたが、やがてポツリと呟いた。
「やっぱり敵わないな……」
先ほど無理して言った言葉も、リヒトには筒抜けだったのだろう。ユウは溜め息をつくと、自分の両頬を強めに叩いて気持ちを入れ直した。
「よし!今日こそは――!」
ユウは気合いを入れると、次にお風呂に入る為に着替えの準備を始めた。
次話、午後五時投稿予定




