第四十話 四月二十七日(土)少女は休日の部活に参加した
やっぱり作中の毎日はヤバいですね。筆の進みが安定しない。
なんで自分はこの道を選んだのだろうか…
リヒトから見学の許可を貰った翌日。普段よりも質素な弁当を作ったユウは家を出発した。
「……部活とはいえ、一人で登校するの初めてだよね」
誰に言うわけでもなくふと呟いたユウは、しんみりとした空気を漂わせていた。
(この道を一人で歩くのはなんだか寂しいな)
いない思い人を追い求めて右隣に視線を向けてしまう。見えるのは見慣れた道のみで彼の姿はない。
分かっていても気が落ち込んだユウは寂しさを振り払うように早歩きで学校を目指した。
休日ならではの静寂に満ちた校舎を通り体育館に着いたユウは、既に来ていた女バスの部員達の姿を見て内心安堵した。
「おはようございます」
ユウが挨拶すると、すぐに数人が駆け寄ってきた。その勢いに押されて思わず後退ったユウだが、一人の少女が声を掛けてきた。
「ねえ!午後の男バスの見学するって本当!?」
「えっと……はい。レイナはなんで知ってるの?」
「男バスの何人かが話してたけど、目的は海原君?」
爛々と瞳を輝かせたレイナは、前のめりにユウに詰め寄った。暴走気味な彼女の熱意に負けたユウは白状するように頷いた。
「中学は部活してなかったから、リヒトの姿を拝んでおきたくて」
「いいじゃん!あたしも一緒に見てていい?」
「構わないけど……お昼ご飯はどうするの?」
「購買はやってるから大丈夫!ありがとう!」
彼女が喜びの声を上げると、他の部員も続々と集まってきた。そしてユウ達も更衣室で着替えを済ませると、コートに集合した。
柔軟体操の後、パス練習が始まると、ユウはその光景に見入っていた。
「皆、凄く上手。特にあの人はお手本の様だね」
ユウの言葉にレイナも同意するかのように大きく首を縦に振ってみせる。
「うん!若林先輩はポイントガードで名の知れた選手なの」
「確かに、凄く視野が広いね。こっちのこと気付いてるみたい」
「えっ、パス回し中にこっち見れるはず……あるみたいね。本当に凄い」
パスの合間に喋る二人を、彼女は細めた目で見つめていた。その様子に気付いた感嘆の声を上げて手元のボールに集中し始めた。
そんなレイナの様子を見て微笑まし気に笑っていると、ユウの視界の端で何かが動くのが見えた。反射的にそちらへ顔を向けると、隣のコートから勢いよくボールが飛んできていた。
ユウはそのボールを受け止めると、それに気づかなかったレイナからのパスが飛んできた。
「あっ、ごめんなさい!避けて!」
「大丈夫だよ」
ユウは平然とした顔で、器用に片手で受け流すようにレイナのパスを次の人へ回した。
驚愕と感嘆の声が上がる中、レイナはホッと息をついた。
「良かったぁ……」
「あれくらい平気平気。三つくらいならいなせるから」
ユウは笑って隣のコートのボールを返した。その余裕そうな表情に、レイナや他の部員達は驚きながらも尊敬の目を向けた。
(……普段からこんな様子じゃそうなるよね)
レイナはなんてことないようにしているユウを見て、以前カナから聞いたユウの逸話の一部を垣間見た気がした。
その後も一通りの練習が終わると、二コート使えるからとチーム分けして練習試合を始めた。
「ユウはやっぱりすごいな」
試合を終えて休憩に入ったレイナはユウの隣に座ると目を輝かせて呟いた。
「そう?……まだ動きは不完全だよ」
「つまりは今より実力が上がる訳でしょ?味方としては頼もしいよ」
「なら期待に応えられるように頑張るよ」
「レイナ!佐倉さん!次で最後の試合だから準備して!」
「はーい!……ってもう最後なんだ」
「そっか。じゃあ行こうか」
「うん!」
二人は立ち上がってチームメイトと共にコートに向かった。
***
日が昇り切った中、リヒトは部活の為体育館にやってきた。女バスは終了間際になって練習試合をしている最中だった。
更衣室に向かう途中、既に来ていた数名の男バス部員達がじっと試合を見ていた。
「おはようございます。部長は何してるんですか?」
「ああ、海原か。女バスの試合なんだが、奥コートのレベルが高くてな」
「なるほど。それで見入ってたんですね。他の人は別の場所見てますけどね」
納得したように呟いた後、二人の会話にバツが悪そうに眼を逸らした数名を放っておいてリヒトの視線はユウに向けられた。
丁度彼女が放ったボールが宙を舞い、着地したユウがこちらを向いて微笑んだ。直ぐに戻った為一瞬の出来事ではあったが、彼女の視線がリヒトに向けられていたことは部長にバレていた。
「……おい。顔緩んでる」
「え、すいません」
「あいつらは頭空っぽにして見てやがる」
「女バスの人達に睨まれてますね。……どうしました?」
部長はため息をついて心配そうな顔をすると、周りに聞こえないよう小声で告げた。
「お前にキレられたら俺の立場が危ういんでな。あいつらの会話聞いてみ」
リヒトは言われた通りに彼らの方に耳を傾けた。
「やっぱ女子の運動姿って良いよな」「お前見すぎだろ」「佐倉さん意外とあるよな」「可愛いし松崎さんとも仲良いよね」「そういえば佐倉さんって生徒会だよな?」「あんな彼女欲しい」「でも付き合ってるんだろ?」「話しかけてみようかな?」「止めとけ。死ぬぞ」「なんでだ!?」「あっち見てみろ」「「「ッ!!?」」」
数回深呼吸をしたリヒトは、ドロッとした感情を飲み込んで小さく笑った。
「変な目で見たり直接手を出すことをしなけりゃ何もしませんよ。」
「……すいませんでした」
部長は申し訳なさそうに謝ると、再び試合に目を向けた。
試合はユウ達のチームが優勢のまま終わった。笑顔で挨拶を交わした後、片づけをして女バスは解散した。各自更衣室で着替えて好きに別れる中、ユウとレイナは隅で待つリヒトと男バス部長の元へ向かった。
「すいません。今日の見学なんですけど、レイナも良いですか?」
「俺は構わない。むしろあいつらが迷惑かけないか不安になるくらいだ」
「あたしは大丈夫です。追い払うの慣れてますんで」
「ありがとうございます。昼食食べたら隅で見させてもらいますね」
ユウは軽く会釈すると、レイナを連れて二人は購買に向かった。
二人を見送った後、男子バスケ部の練習が始まった。
***
体育館を後にした二人は、購買部がある食堂に向かって歩いていた。
「ありがとね。急なお願いだったのに話までつけてもらって」
「どういたしまして。ところで、レイナは何か目的あるの?食いつきが凄かったけど」
「んー……。まぁちょっとね。大したことじゃないんだけど」
「そう。僕も割と不純な動機だからなんでも大丈夫だよ。別に無理して言う必要無いからね」
「……うん」
レイナの表情には内心が滲み出ていたが、ユウは特に気にすることなく話を続けた。
「とりあえず、何かあったら気にせずに言ってね。……あ、購買に着いたよ」
「お昼買ってくるね」
「うん。僕は適当に座ってるよ」
ユウはそう伝えると、適当な席を見つけて座ってスマホを取り出した。
レイナが購入した昼食を手に向かいの席に座った。
「お待たせ。ユウは弁当作ってきたんだ」
「そうだよ。自分だけだから手抜きだけどね。いただきます」
二人は食事に手をつけながら雑談を始めた。主に共通の友人の話題で盛り上がりながらも食事を終えると、レイナが少し緊張した様子でユウに尋ねた。
「ごちそうさま。……体育館戻る前にちょっと相談良い?」
「え?うん。別に時間はあるしね。悩み事?」
「あのね?―――」
冬の定番イベントを書きたいけど遥か未来の話なんですよね…




