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第四話 四月五日(金)少女は制服を着た

翌朝、ユウはいつも通りの時間に目を覚ます。昨日の事を思い出してみるも、やはり実感は無い。

ユウは起き上がって軽くストレッチをする。床に手のひらをつけても体が柔らかいのか痛みを感じない。

朝食を作るためにキッチンへと向かう。


(確か今日は父さん朝食べてから仕事に行くんだったよね)


冷蔵庫の中身と相談した結果、卵とベーコン、レタス、食パンで簡単なモーニングトーストを作ることにした。

女の体での調理は初めてだったが、プライパンが重く感じたり包丁で千切りをするのにやりにくさはあったものの問題なく調理できた。料理が完成する頃合いを見て、サユリがやって来た。


「おはようユウ」


「おはよう母さん。早速で悪いんだけど、お味噌汁作ってくれない?その間に他の準備しておくから」


「わかったわ」


サユリがリビングに行くと、既にテーブルの上には3人分の食事が並んでいた。


「あら、今日は早いわね」


「体と冷蔵庫の協議の結果、簡単なもので済ましちゃった」


ユウも席に着く。眠そうに降りてきたユージも席に着けば自然と声が揃う。


「「「いただきます」」」


3人で食卓を囲むのは久々で、ユウは少し嬉しく思う。


「ん~!やっぱり朝はユウの料理が一番美味しいねぇ」


「ありがとう。でも流石に毎日は無理だからね?」


「わかってるよぉ」


そんなやりとりをしながら食事をしていく。


「あ、そうだユウ。今日仕事終わったらちょっと買い物に行きたいから付き合って欲しいの」


「うん、僕で良ければ全然構わないけど……」


「やった!午後には帰って来れるから、そしたらお願いね」


サユリは約束を取り付けるや否や立ち上がり、食器を片づけてリビングを出て行った。恐らく仕事着に着替えるのだろう。

残ったユウとユージは2人だけとなり、何となく気まずい雰囲気が流れる。


「……」


「……なぁ、ユウ」


「ん?何、父さん」


「お前、俺の事軽蔑したか?」


突然の父からの問いに一瞬戸惑ったが、珍しく落ち込んだ様子の父にユウは笑って答える。


「別に。正直、今までも盛られたことあったし、今更かなって思ってる」


直球で投げた言葉がユージの胸を抉る。まあ自業自得だとユウは思っているが。


「急に女の子になったのは驚いたけど、好きな子がいたわけでもないからあんまり気にしてない」


ユウの言葉を聞いて、ユージは安心したような表情を浮かべた。


「そっか。なら良かったよ」


「今の僕も僕であって、好きに生きるつもりでいるから。だから大丈夫だよ」


「ユウ……。ありがとな」


「うん」


ユウが浮かべる陰りのない笑顔に、密かにユージは安堵する。彼には後で礼を渡しておこう、と思いつつユージは食事を終える。

その後、ユージは支度をするために一旦部屋に戻り、ユウは洗い物をするためキッチンに向かう。

皿を洗っている最中、不意にスマホが鳴る。画面を見るとリヒトからメッセージが届いていた。


『前に言ったし覚えてるだろうけど、短期バイトは今日までだから明日以降はいつでも連絡くれ』


「『わかった。バイト頑張ってね』…送信っと」


ユウはメッセージを返信すると、すぐに既読マークが付いた。そして返事が送られてくる。


『おう。じゃあまた』


「ふふっ」


リヒトらしい文章に思わず笑みがこぼれてしまう。ユウは上機嫌になりながら、残りの食器を洗い終えた。


***


部屋の掃除をしていればあっという間に経ち、残り物で昼を済ませばサユリが帰ってくる。普段着に着替えたサユリと共に家を出て、向かう場所もわからないままついていく。

サユリに連れられてやってきたのは、これから通う高校の指定制服販売店だった。


「ユウちゃん、今日もよろしくね!」


ユウはサユリと一緒に店内に入ると、一人の店員らしき服を着た女性が待ち構えていた。彼女はサユリを見つけるなり、満面の笑みで近寄ってくる。


「サユリさんこんにちはー!昨日連絡あった子ってその子ですか?」


「えぇ、そうです。突然で悪いのだけど、この子に似合うサイズの制服を見繕って貰えるかしら」


「はい!全然OKですよ。ピークは過ぎましたし今から早速…ええと、お名前はユウちゃんでしたっけ?あっちで採寸しましょう!」


「ちょっ、えぇ!?」


女性店員はユウの手を掴むと奥へと連れ込む。されるがままに引っ張られていったユウを見送り、サユリは近くのベンチに座って待つことにした。


(まぁ、あの子なら大丈夫でしょう)


サユリはスマホを取り出し確認すれば、様々な通知が来ていた。着信履歴やメール通知があったが、帰ってからでもいいかと放っておいて、ユウの姿を思い浮かべながらファッションブログを見て時間を潰すことにした。

一方、店員に引っ張られて試着室に上がり込んだユウは、追い込まれた草食動物の気持ちを味わっていた。


「お待たせしました~!さ、早速測っちゃいましょう!あっこれ、メジャーね。とりあえずスリーサイズはわかる?」


「は、はい……昨日測ったばかりです。えっと上から――」


店員は数値を聞くな否や一つの制服を持ってきた。補助されながら袖を通してみると、丁度良いサイズでユウは驚いた。


「うわ、ぴったりだ……。でもちょっとスカート短い気がする」


「そうなんですか?私は普通だと思うけど」


「えっ……」


「ささ、丈の調整量を見るから体触るわよ」


ユウの不安を余所に、袖口や裾周りを入念にチェックし始めた。途中、足首を触られて思わず変な声が出たが見向きもしなかった為無かったことにした。


「ん~、うん。問題なさそうですね。じゃあこれで決まりかな?」


「はい、お願いします」


「了解です。サイズはこれで確定として、一回サユリさんを呼びますね!」


近くで待っているサユリを呼びに店員は颯爽と試着室を出て行った。間もなく外からサユリの声が聞こえてくる。


「ユウちゃーん!見せてー!」


「はい、わかりました」


覚悟を決めてカーテンを開ければ、サユリは輝かしい笑顔を浮かべると一転、少し困り顔を浮かべていた。どうしたのか尋ねてみると、なんとも言えない表情で答える。


「その、ユウに似合ってるのはいいんだけど、防御力が弱すぎない?」


サユリの視線はがっつりとユウの太ももを見ており、直ぐにスカートを指していることに気が付いた。

ユウはこれを普通と述べた店員を睨みつければ、彼女はすぐさま平謝りした。


「すみません、思わぬ原石に興味を抑えきれませんでした。それじゃあ今すぐ直します!」


「は、はい」


その後、ユウとサユリが納得のいく長さに調整された制服を購入することになった。店を出て、冷蔵庫の中身が心もとないのを思い出し、スーパーに寄って買い物を済ませた。


「ふぅ、これで一安心ね」


「そうだね。僕としても助かったよ」


「ふふっ。私も楽しかったから気にしないで」


二人は帰路について他愛もない話で盛り上がっていると、曲がり角から出てきた茶髪の女性を見て驚いた。ユウは声をかけるのをためらっていたが、彼女はサユリに気付いてこちらへと近づいてくる。


「お久しぶりですサユリさん!…えっと、初めましてかな?」


「ふふ、久しぶりねカナちゃん。この子はあなたの知ってる子よ」


小さくこちらを一瞥すると、肩を震わせながらサユリはユウをカナの前に出す。彼女は明るめの茶髪のサイドアップテールが特徴で、中学時点で平均的身長に対して主張の激しい胸囲を持った子だ。明るい笑顔でいつも元気な彼女はクラスでも分け隔てなく皆と仲良く話していた。カナはユウと同じ小中学校に通っていた仲の良かった子で、リヒトともう二人合わせたグループでよく一緒に遊んでいた。

彼女なら驚くことはあっても引いたりはしないだろうと、ユウは意を決めて話す。


「えと、久しぶり。ユウだよ」


「えぇ!?あの天然人たらし主夫のユウ!?」


案の定驚愕を露わにするカナだったが、口走る内容にユウは頭を捻る。想像と少し違うと。


「人たらしはリヒトでは?……家事は一通りしてるから主夫はいいけど」


「あーそっか、そういえばユウはそういう奴だったわ。あの頃は毎日のように違う女子に呼び出されてたのにねぇ」


「あれはみんなリヒト狙いなんだけど……」


「はいはい、そういう事にしときましょう。あのユウがこんな姿になるなんて。………あれ?意外としっくりくる」


カナはまじまじとユウを見つめると、腕を組んだまま首を傾げる。


「……どうしたの?」


「えぇ!?いや、別に変じゃないよ!ただ、ちょっと複雑というか……あたし女子として負けてない?」


「女子二日目の僕が勝てるわけ無いでしょ」


「とても二日目とは思えない落ち着き様なんだけど。まあいっか」


相変わらず細かいことは投げ捨てるようで、カナは朗らかに笑った。

ユウもつられて微笑むと、サユリが肘で小突いて注意してきた。


「突然の事だし仕方ないけど、だいぶ日も落ちてきたから今日は解散しなさい」


「あっ!ごめんなさい!」


「いやいや、僕も忘れてた。えっと、落ち着いたら連絡するね!」


「うん!待ってるね!バイバーイ!」


元気よく手を振るカナに手を振り返すと、二人は別れた。

私はファッションに疎いため拙い表現になります

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