第三十八話 四月二十五日(木)少女は欲望ままに行動した
V2.7が始まって時間が…ただでさえ平日の短い自由時間なのに…
(誘惑はありますがある程度の時間は確保してます※筆が進んでないだけ)
顔の熱が取れぬまま帰宅し母に可愛がられた翌日。ユウはいつも通りに登校中、珍しくカナと遭遇した。
「カナ、おはよう。今日は朝錬ないんだ?」
「二人ともおはよう!オーバーワークって言われちゃった」
「ああ、昨日下校時刻ギリギリまで打ってたよね」
苦笑を浮かべながらユウが言うと、カナは大袈裟に肩を落とした。
「そうなの……。やっぱりあたしには無理なのかな?」
「何の話?」
「実は今度部活で男女混合の試合をするんだけど、昨日ペアの人の足引っ張っちゃってさ……」
「それでギリギリまで練習したと」
「うん……。だけど部長に止められちゃって」
「当たり前だよ。無理して怪我したら元も子もないよ」
「分かってるけどぉ~」
情けない声を出すカナを慰めていると、ユウはふとある事を思い出した。
「そういえば昨日僕もスポーツにおける男女差を調べてたんだけどね、――」
リヒトに言われてから色んな球技の動画を見ていた中にあった動画で丁度いいものがあったので、動画を交えながら筋力の差による球の違いを説明した。
「なるほど!いつもの感覚でやってたからいけなかったんだね!」
「動画のリンク送っておくから、部活前にでも見返してみて」
「ありがとう!めっちゃ助かる!」
元気になったカナを見て安心していると学校に到着した。教室に入って自分の席に荷物を置いていると、リヒトが声を掛けてきた。
「ユウ、ちょっといいか?」
「うん?どうしたの?」
「いや、その……だな……」
言いづらそうにしている様子に疑問符を浮かべるユウだが、やがて意を決したようにリヒトは口を開いた。
「土曜日夜、うちにくるのか?」
「勿論。ただ、どうしようかな……」
「まだ何かあるのか?」
「うーん、許可下りるかわからないけど一応聞いてみる」
「分かった」
それだけ話すと二人は普段の会話に戻った。
授業が始まり、昼休みになるとユウのスマホが震えた。許可を得るために送ったメッセージの返答が帰ってきたようだ。
ユウが安堵のため息をつくと、リサが近づいてきた。
「どうしたの?なんか嬉しそうね」
「うん。お泊りの許可が貰えた!」
「グッ……ゴホッゴホッ」
「ちょっ!?大丈夫?」
いきなり咳き込み始めたリヒトに驚いていると、リサは呼吸を整えた後ユウの両肩を掴んだ。
「ど、どういうことかしら?」
「えっと、土曜日に甘やかしてもらうのに、部活で取れる時間が少ないでしょ?」
「確かバスケ部よね?まあ午前午後で男女分けるわね」
「それならいっそ夜一緒に過ごせないかなって思って母さんにお願いしたの」
「よ、夜を一緒に過ごす?もうそこまで進んだのかしら?」
「僕はまだそこまでの覚悟がないから無理だよ」
首を横に振るユウに、リサは呆れたような表情を浮かべた。
「あのねぇ、それじゃリヒトが生殺しじゃないの?」
「……本番じゃなきゃ大丈夫だから、ちゃんと処理を手伝います」
「ユウ、俺が気まずいからそれ以上話すのは止めてくれ……」
珍しい赤面したリヒトの懇願する姿にユウは胸をときめかせながら了承する。
「わかった。それじゃ土曜の夜にお邪魔します」
「おう、わかった」
「この初体験前の生々しい雰囲気何とかならない?」
「いや、ユウの覚悟が決まるまで手を出すつもりはないからな」
「半年以内には多分出来るよ。もう一押しで落ちるとこまでは来てるから」
胸を張って答えるユウに、リサは深いため息をついた。
「はぁ……私は止めないわよ?」
「うん。心配してくれてありがとう」
「……昼休み終わるから戻るわ」
「はーい。ありがとね」
リサに別れを告げると自分の席へと戻っていった。ユウは嬉しそうにしていると、リヒトから複雑そうな視線が飛んでくる。
ユウは席を立って彼の耳元に囁いた。
「僕も甘えるつもりけど、リヒトからも甘えてね」
「……努力する」
頬を赤く染める彼にユウはクスッと笑うと、席に戻った。
***
放課後、今日も今日とてバスケ部で練習を終えた二人は帰路で寄り道をした。
夕暮れ時の公園に寄ると、二人してベンチに座る。近くの自販機で買った飲み物を片手に、リヒトは口を開いた。
「なあ、ユウ」
「何?」
「ユウは女になってからさ、男に戻りたいって思ったことはなかったのか?」
「あったよ。最初は何だかんだでリヒトとの関係性が崩れることに怯えてたよ」
「そうだよな。あの時のユウはずっと不安そうにしてたもんな」
懐かしむように呟くリヒトの言葉を聞きながらユウは続ける。
「でも、そんな時にリヒトが支えてくれたんだよ。僕が壊れないように優しく守ってくれた」
「…………」
「そのおかげで僕は僕のまま変われたんだ。今は凄い感謝してる」
「俺がお前の事を女として見てたのにか?」
「それでもだよ。でもね……」
ユウは自分の胸に手を当てる。
「今の関係が理想的過ぎて、逆に今は男に戻るのが怖いんだ」
「どういうことだ?」
「父さんの薬でこうなったけど、元々惚れ薬として作ってたんだって。だから戻る可能性はゼロじゃないでしょ?だから……」
ユウの表情が曇ると、リヒトは彼の頭を撫でた。
「なら相談すればいい。あの人ならきっと望むような薬を開発するんじゃないか?」
「……そうかも」
「勇気が出ないなら俺が付いて行ってやるよ。それに、もし戻ったとしても俺は変わらないから」
「ふふっ、そうだね。その時はよろしくね」
「ああ、任せとけ」
笑い合うと、ユウはジュースを飲み干した。そして空になった容器を投げれば、放物線を描いて綺麗にゴミ箱に入った。
ユウはゆっくり振り返って、まだ座っていたリヒトの前に立つ。こちらを見上げる彼の頬にそっと手を添えれば、彼はビクッと身体を震わせた。
「ねえ、リヒト」
「なんだ?」
「勇気、貰うね」
「何を…ッ!?」
ユウは彼の唇を奪うと、急な展開に固まったリヒトに抱き着いた。身を委ねるように体重を掛けるユウに、リヒトは呆然としながら彼女を受け止める。
「……ユウ」
「んっ……はぁ……」
「お、おい。大丈夫か?」
「……うん。腰が抜けて動けない」
リヒトは抱きしめる腕を解くと、ユウを横抱きに抱えた。反応が鈍くて心配になったリヒトが彼女の顔を覗いた。
するとユウは真っ赤になりながら惚けていた。
「ユウ?」
「えへへ。初めてだったけど、リヒト見てたら全部吹き飛んじゃった」
「……ったく。勇気は出たのか?」
「うん。無くなったらまた貰っていい?」
「好きにしろ。俺の理性が持つ程度に頼む」
「ありがとう。大好きだよ」
ユウは満面の笑みを浮かべる。それを見たリヒトは一瞬だけ固まると、彼女を強く抱きしめた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「ふーん。じゃあ帰ろっか」
「おう」
日の暮れた帰り道。隣を歩くリヒトの腕を抱えてユウは幸せそうな笑顔を見せた。
暑くなったと思ったら冷え込んで、面倒な時期ですね。




