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第三十五話 四月二十二日(月)少女は練習をした

迷走中……いや、元々決まった道なんてないんですけどね

体育館に着いた二人を迎えに来たのはバスケ部の部長達だった。


「ようこそ、期待の助っ人たち!」


「とりあえず更衣室に案内するわ。こっちに来て」


「はい」


案内されて体育館端を通っていると、コートには既に他のジャージ姿の部員達が練習しているのが見えた。そしてユウとリヒトを歓迎する男バスの部長の声で、全員の視線が集まったのも見えてしまった。


(うわっ……)


「おおー!!噂の一年コンビが来たぞ!!」


「本当だ!しかも片方可愛いじゃんかよ!」


「男のほうもイケメンじゃん!」


(あちゃ~……)


ユウは困った顔で隣を見ると、リヒトは不機嫌そうに眉を寄せてユウをコート側から隠すように歩いた。


「……あいつらには見せたくない」


「どうせ練習時に見られるでしょ。僕もリヒトも」


「だけどよー。ユウはいいのかよ」


「見られるのは止められないから。異性が触れなければそれでいい」


「なるほど。確かに」


納得した様子でリヒトが言うと、部長達にそれぞれの更衣室のロッカーを指定された。

着替えを終えた二人が更衣室から出てくると、コート内から部長達に呼ばれた。


「こちらが来週末の試合に向けてやってきた助っ人の海原リヒト君と佐倉ユウさん。二人とも凄い選手だから注目しておいてね」


「「よろしくお願いします」」


二人が頭を下げると、周りから拍手が起こった。それを見た部長達は満足げに微笑むと、ユウとリヒトに視線を向けた。


「さて、二人はどれくらいできるのかな?海原君はこの前の練習で知ってるけど、佐倉さんは?」


「僕はバスケに関してはリヒトに負ける程度です」


「俺が全力でやってどうにか勝つレベルだぞ。松崎なら見てたよな?」


そう言ってリヒトはレイナの方に向く。彼女もそれに答えるために口を開いた。


「うん。ユウったら、海原君の速度に食らいついてたよ。正直あたしは割り込めなかった」


「まじか……お前でもかよ」


「松崎って全国区だよな……」


「レイナちゃんが無理なレベル……」


部員の様子を見てリヒトは少し考えると、何か思いついたのかニヤッと笑みを浮かべた。その表情を見たユウは嫌な予感を覚えた。


「よし、ユウ。センターラインからスリーでも打つか?」


「海原君?ユウにさらっと無茶ぶり言ってない?……ユウはなんで安堵してるの?」


「いや、逆のゴール下から打てとか言われると思ってたから」


「それ苛められてない!?」


ユウは咄嗟に昔やらされましたからですと言おうとしてぐっと心のうちに秘める。流石にこの人数に事情を話すつもりはない。

詰まった言葉を取り繕うように被せてごまかすことにした。


「センターラインからなら今日投げてたし大丈夫!」


「そ、そうなんだ……」


「ああ、そういえばそうだな。じゃあ、ちょっとやってみるか」


リヒトはそう言うとボールを持ってユウと共にコートに入った。そして部長達はその様子をじっと見つめていた。

センターラインに立ったユウはボールを数回つくと、ふぅ、と息を吐いた。そして目を閉じると集中力を高める。その様子はまるで試合前のようで、部員達も思わずごくりと唾を飲む。

ユウはゆっくりと瞼を開くと、右手に持ったボールを軽く放り投げた。

山なりの軌道を描いたボールはパスッと小さな音を鳴らし、回転によってゆっくりとユウの元へ転がっていく。ユウは両手を使ってしっかりと受け止めると、二歩下がってもう一度ボールを放った。今度は先程より高い弧を描いており、そのまま真っ直ぐリングへと吸い込まれ、再びユウの手の中に収まった。


「「「おぉ……!」」」


「……相変わらず凄いな」


「ほんと、あの試合でユウが味方で良かったわぁ……」


「あの子、何者……?」


部員達が驚く中、リヒトだけは感嘆の声を漏らした。ユウはリヒトの方へ振り返ると、にこっと微笑んで言った。


「どうだった?」


「いや、やっぱり凄いわ。長距離シュートは俺入らないからな」


「えへへ、ありがとう。けど、スリーポイントラインならリヒトの方が凄いよね?」


ユウが持つボールを渡すと、リヒトは立ってたスリーポイントラインから無造作に放り投げた。

直線的な軌道でゴールへ投げられたボールは、バックボードに激しく当たるとそのままリングへ入った。


「「「おおー!!」」」


「マジかよ!すげぇ!」


「どっちも凄すぎだろ……」


部長達の反応を見て、リヒトは得意気にユウの方を見る。ユウは苦笑いで彼の頭を撫でて褒めた。

嬉しそうにリヒトが目を細めていると、ユウが背伸びしていることに気付いて思わず顔を逸らす。ムッとしたユウが手を降ろした。


「なんで笑うのさ」


「笑ってねえよ。ただ背伸びした姿が可愛くてな」


「お二人さん!ストップストップ!」


急に雰囲気作りだした二人に割り込むようにレイナが声を上げた。その声で我に返った二人は周りを見ると、他の部員達はニヤニヤと二人のことを見ていた。


「あー……すみません」


「悪い」


「さっきまで真面目な雰囲気出してたのが嘘みたいだよ。もういいけどさ……」


「ほら、練習再開するから準備して!」


部長が手を叩いて指示を出すと、部員達はぞろぞろと移動を始めた。

リヒトと別れて女子バスケ部側のコートに入ったユウは部長の元へ駆け寄った。彼女はユウの顔を確認すると、ニコッと笑顔を見せる。


「じゃあ佐倉さん。さっそくだけど練習に入ろっか?」


「了解です」


部長の指示の元、基礎練から入ることになった。ランニングから始まりストレッチ、パスの練習など一通りこなしていく。その間、レイナは常にユウの動きを観察していた。


(やっぱり……)


レイナは中学時代は全国大会出場経験のある選手であり、エースでもあった。その実力は本物である。だが今日見たユウの動きは洗練されたものだった。特にスリーポイントラインからのジャンプシュートの精度には驚かされた。あれだけ綺麗に決まるプレイヤーはレイナの記憶でも数えるほどしかいない。

ユウが強力な助っ人であることは確かな反面、ここまでの技術をどうやって手に入れたのかが気になった。

休憩時間になって、隅で休むユウの隣に座った。


「お疲れ、ユウ」


「はぁ……はぁ……ん?ああ、レイナもお疲れ」


ユウはタオルに埋めていた顔を上げてあたりを見ると、隣のレイナに気が付いた。


「バテバテじゃん。大丈夫?ほら、水分取りなよ」


「ありがと」


ユウはスポーツドリンクを受け取ると、キャップを開けてごくりと飲む。冷たく甘い味が喉を通り抜けていき、体に染み渡っていくような感覚を覚える。


「ぷはっ……。生き返る……」


「あんなに動けるのに体力無いね?」


「……僕が女になってから一気に体力が落ちてね。体育の時だって五分の試合でダウンしたくらいだし」


「ああ、なるほど。そりゃ仕方ないか」


レイナはユウが元々男だったことを知っている。しかし、今は女の子になっているため、身体能力が著しく低下しているのだ。だからと言って、ユウは運動が苦手というわけではないのだが。


「まぁ、まだ一週間あるし、それまでに体力を付けられるように頑張るよ」


「そうだね。あたしも協力するし、部長にも相談しましょ……ユウ?」


レイナが横目でユウを見つめると、汗を拭っている彼女の肌に視線がいってしまう。

白い首筋に流れる汗が胸元を伝い、健康的な太股へと落ちていく様子は妙に艶やかだった。ユウはそれに気付かずにシャツをパタパタと動かして風を送る。

レイナは思わずドキッとしてしまい、慌てて目を逸らした。


「……何?」


「あんまり色気振りまかないでくれる?」


不思議そうに見てくるユウに、顔を赤くにしたレイナが言い返した。


「さて、そろそろ練習再開するよー!」


部長の声に部員達が返事をして、再び練習が始まった。ギリギリの体力で下校時刻までやり切ったユウは、生まれたての小鹿のようになっていた。

帰宅中、回復出来なかったユウはずっとリヒトの腕にしがみついており、それを見たレイナとカナが冷やかすといった場面があった。

ぶっちゃけいつも通りの量を上げようとしたらこうなってました。

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