第三十三話 四月二十二日(月)少女は全力の試合をした
なにこれ、『目指せ!作中時間毎日展開』とかやるんですか?
どこかで『きょうはなんにもないすばらしい一日だった』で終わりそう。
新しい友人が出来て二割増しの笑顔で帰宅したユウが母にからかわれた翌日。
いつものように登校すると、道中でリヒトがスマホを見せてきた。
「昨日リサから送られてきたんだけど、どういう状況でこうなった?」
映されていたのは昨日のアーケードゲームのバスケ勝負の映像だった。画面の中ではレイナとユウが接戦を繰り広げている場面があり、その画面端に見切れて映りこんでいた服が昨日リサが着ていたものと同じだった。
「こっちに映っている人はリサとカナに紹介されて友達になったレイナさん。昨日―――」
それから昨日の勝負までの過程を説明した。聞き終えたリヒトがポツリと漏らした、カナが二人になったという感想にはユウも同意した。
「お陰で運動は何とかなりそうだって分かったから、レイナには感謝してるよ」
「うーん……ユウの筋力が落ちてるのは確かだから、体力の限界には気を付けろよ」
「うん。僕も体力はかなり落ちた自覚はある」
「今日は体育の授業があるからそこで試すんだろうけど、もしダメそうなら無理はするなよ」
「ありがとう。そうするよ」
教室に入ると、既に来ていたリサが駆け寄ってきた。
「おはよう、ユウ!」
「リサ、おはよう。朝から元気だね」
「昨日がそれだけ楽しかったのよ!」
リサは嬉しそうな顔で返事をしたので、ユウも自然と笑顔になっていた。それからリサは笑みの種類を変えてリヒトに向かった。
「リヒトも見たでしょ。ユウの動画を見てどうだった?」
「可愛かった」
「……ありがと」
「はいはいご馳走様。急に二人の世界を作らないでよ」
呆れたように言いながら割り込んできたのはカナだった。そのカナは、どこか不満げな表情をしていた。
「せっかくユウに勝てるチャンスが出来たと思ったのに、ぼろ負けした挙句に可愛いなんて言われてたら悔しくてさぁ……」
「僕とてカナの得意分野だと負けるんだけどなぁ……」
「カナも誰か良い相手見つけたら?あなたも可愛いんだから」
「あたし、慰めてくれる彼氏作る!」
カナは決意を固めたのか、拳を握っていた。その様子を見ていたリサが苦笑いを浮かべていた。
「カナも可愛いのに男の影がないわよね」
「リサだって美人じゃん」
「そう?私より綺麗な人ならたくさんいると思うけど」
「リサはもっと自分の容姿に自信持った方が良いよ。それに、リサもカナも性格良いんだから相手がいないのが不思議なくらいだよ」
ユウの言葉に二人は照れくさそうにして、お互いに目を合わせた後に二人してユウを睨みつけた。
「あなたのせいでハードルが上がってたの気付いてないの?」
「あたし達、多少なりともユウに好意抱いてたんだけど?」
「え?えぇ!?」
「あー、やっぱりそうだったのか」
驚きの声を上げるユウに対して、リヒトの反応は淡白なものだったが、リサの方は意外そうな顔をしていた。
「流石にリヒトにはバレてたのね」
「まあな。ユウへの反応見てれば結構わかりやすかったぞ」
「マジ?誰にもバレてなかったつもりなのに……」
「カナの方は顔に出てたぞ。ユウもタイチも気づいてなさそうだったけどな」
「嘘ぉ……ユウ、本当に気づいてなかった?」
「うん。全然気付かなかったよ」
ユウの言葉を聞いて、カナは安心したような残念な気持ちのような、複雑な感情を抱いていた。そんな様子を見てリヒトとリサは笑みを零していた。
「まあいいや。もう敗れたし打ち明けたからスッキリした!」
「幸せそうなユウを見ていて私も諦めがついたわ」
「その……これからも仲良くしてくれると助かるかな」
「もちろん!こちらこそよろしくね!」
「お友達としてよろしくね!」
吹っ切れた様子のカナとリサは、二人してユウに抱き着いた。仲良く笑い合う三人をリヒトは優しく見つめていた。
***
四時限目、体育館にて体育の授業が始まった。今日はバスケらしいのだが、二クラス合同の関係で四チームに分かれてしまった。
一チームはリサとカナ。もう一チームがユウとレイナである。
「早速やる機会があったけど、味方とはね」
「現役には負けるけど、精一杯頑張るよ」
レイナとユウが手を取り合う中、リサとカナは戦々恐々としていた。
「組ませちゃいけない二人の気がするのだけど、大丈夫かしら?」
「ダメでしょ!現役エースと化け物スペックの二人だよ!」
二人は話しながら、チーム別でシュート練習をするユウを見る。素人目にも綺麗に見えるフォームでスリーポイントラインから放たれたボールがリングに触れずにネットを揺らしていた。
「駄目ね。精々足掻きましょう」
「だね。せめて見せ場を作ろう」
レイナとカナが覚悟を決めて試合に臨んだ結果、試合は圧倒的な点差でユウ達のチームの勝利で終わった。
「鬼畜!少しは手加減してよ!」
「授業とはいえ全力で取り組むに決まってるじゃん」
カナとレイナが言い争いをしている中、リサはユウに睨まれていた。
「あの甘言はズルいと思うんだけど?」
「あら、集中を切らすのがいけないんじゃないのかしら?」
「……」
ユウはそっぽを向いて黙秘した。リサは追い打ちをかけるようにその赤くなっていた耳に囁いた。
「でもリヒトはよく見ていたわよ」
「ッ!?」
一面真っ赤にしたユウは次の試合のチームと変わるために待機場所に無言で移動した。その後ろ姿を見たリサは楽しげに笑っていた。
授業も終盤に入り、先生がエキシビションマッチとして経験者の男女混合チームを組ませた。
ユウは勿論、カナやレイナ、リヒトにタイチもチームが分けられた。
「ユウ、次は俺とだな」
「そうだね。今回は勝たせて貰うよ」
ユウとリヒトが対峙すると、見学の生徒達はコートの外から応援を始めた。審判役の教師が笛を鳴らして試合開始の合図を出した直後、ユウは即座に動いた。
リヒトの視界から消えたと錯覚させる程のスピードで駆け抜けると、そのままドリブルを開始した。
「相変わらず速いな」
「そんな余裕のある顔で言われてもねぇ!」
複雑なフェイントからの切り返しをリヒトは難なくかわすと、ユウの隙を突いてボールをカットしようとした。だが、ユウはその動きを読んでいたのか、リヒトが動くと同時に素早くターンをして、その勢いのままパスをした。
「くっ!」
リヒトが反応するも遅く、ユウからボールを受け取ったレイナはスリーポイントラインまで走ってシュートを放った。
綺麗な弧を描いてゴールに入ったボールを見て、リヒトは悔しそうにしていた。
「あいつ……ディフィンスを難なく抜けやがった」
「レイナは全国区レベルだからね」
「負けていられねぇな!」
パスを受け取ったリヒトがゴールへ向かっていけば、当然の様にユウが立ちふさがった。
二人はフェイントを織り交ぜながら攻防を繰り広げた。あまりの高速な接戦にメンバーは手を出せずに見守っていた。
「速すぎるよ……」
「佐倉さん、あの海原君についていってる」
「あの動き、本当に素人なのかしら?」
メンバー達が驚きの声を上げる中、試合中のリヒトとユウの激しい攻防戦は数回に及び繰り広げていたが、徐々にリヒトに押され始めた。
(やばい……このままだと押し切られる)
焦りを感じたユウだったが、リヒトが仕掛けてきたタイミングに合わせて意識の隙間に潜り込んだ。そして一瞬だけ重心を落としてから一気に加速してリヒトの持つボールへ手を伸ばした。しかしユウの手が届くよりも早く、リヒトはシュートモーションに入っていた。
その動きを見てユウは諦めずに飛びついたが、彼の跳躍には遠く及ばずボールは手の届かない高さにあった。
ユウの抵抗空しく放たれたボールは無慈悲にリングに吸い込まれた。同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「っしゃぁ!!」
「リヒトの勝ちか」
「惜しかったわね」
「佐倉さんも凄かった!」
メンバーが口々に感想を言う中、ユウは床に座り込んで息を整えていた。
「ハァ……ハァ……」
「ユウ、大丈夫か?」
「結構限界かも。リヒトとの勝負が楽しくてつい……」
「――ったく、無理するなって言ったろ。動けるか?」
「ありがとう。もう少ししたら多分大丈夫」
疲労をにじませた困り顔で言うユウは、時間を見たリヒトが隣でしゃがみ込んだのを見ていた。
「つってもまだ後一試合あるからな……強硬手段だ!」
「え?わっ、ちょっと!?」
リヒトはユウの腕を首に回すと、器用に立ち上がりながら横抱きにした。周囲の黄色い歓声を聞く余裕もないユウは現状の体勢に思考がパンクしていた。
「お姫様抱っこなんて聞いてないよぉ!」
「言ってねぇからな」
ユウの抗議を聞き流したリヒトはそのままコートの外に連れ出した。その後、最後の試合を眺めるユウの顔は誰が見ても惚けていた。
夏のイベを書くには後どれ程の時間がかかるのだろう…
冬とかもうエタらないか心配になるレベルでは?
この作品、見切り発車なんですよね…




