第三十二話 四月二十一日(日)少女は友人と遊んだ
筆が進むとこんなに書けるんだ…
切るには微妙な量だったので一話にしました。
ちょっと気持ち長めです。
ユウは前日に友人から遊びのお誘いが来ていたので、昼食後に約束の場所まで向かっていた。
待ち合わせ場所に着くと既に友人のカナとリサが待っていた。彼女達はユウの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。
「ユウ、会いたかった!」
「お待たせ、二人とも」
「全然待ってないわ。それにしても可愛いわね」
「確かに。ユウってば、女子力に磨きかかってるよ」
「あはは、ありがとう。二人だって可愛いよ」
ユウが着ているのは白のワンピースの上にカーディガンというシンプルなコーデだが、スカート部分がふんわりと膨らんでいるため可愛らしい印象を与えていた。
対するカナとリサも系統の違う服を着こなしていた。カナは黒のパンツスタイルで、トップスにはブラウスとパーカーを合わせたラフなスタイルだ。一方、リサは青のカットソーにロングスカートを履いた清楚な格好をしていた。
「今日はこの面子?」
「いえ、もう一人くるわよ」
「そうなの?」
「うん。実は私達の友達でね、ユウの話してたらその子が会いたいって言うから連れてきたの」
「へぇ、楽しみだね」
ユウが話していると、遠くの方で手を振っている少女がいた。その少女を見た瞬間にユウは固まった。
「ごめん!遅れた!」
「大丈夫よ。まだ時間前だし」
「いやぁ〜、途中で転んじゃってさ。急いで来たけどギリギリだったね」
「うふふ、そんなに焦らなくても良かったのに」
「だってあたしから頼んだのに遅れる訳にはいかないでしょ!」
「そうね」
「それで、そっちの子がユウちゃん?初めまして、あたしは松崎レイナっていうの。よろしくね」
朗らかに挨拶するレイナに、ユウは一瞬迷った後に返事を返した。
「お久しぶりです。佐倉ユウです」
「……あれ、どこかで会ったっけ?」
「はい。ただ、直接会話するのは初めてなのでお気になさらず」
ユウの言葉にレイナは首を傾げたが、「まあいっか!」と笑って流した。それから四人で目的地に向かった。ユウ達がやって来たのは駅前にあるショッピングモールだ。このショッピングモールでは毎月様々なイベントが行われており、家族連れはもちろんのこと、カップルでも楽しめる仕様になっているのだ。
ウィンドウショッピングしていて、カナが見たいといったので四人してスポーツ用品店入った。シューズコーナーでカナが真剣に選び始めたので、三人は周辺の品物を見物していた。
「そういえば、ユウちゃんは運動出来る人?」
レイナが不意に質問してきたので、ユウは素直に答えた。
「多分出来ますよ」
「おお、すごいじゃん。あたしは勉強は出来ないけど運動は得意なんだよねー。……多分って何?」
出来ると返ってきた言葉に少し以外に思ったレイナがふと思い直した。彼女の言葉には不確定な装飾がされていた。
思わず聞き返したレイナの質問に答えたのはユウではなく、ユウから視線でお願いされたリサだった。
「ユウは少し前まで男だったのよ」
「……え?」
「男から女になったの。それからは体育でもまだ簡単な運動しかしてないからわからないのよ」
リサの言葉にレイナは納得したような表情を浮かべた。そして興味津々と言った様子でユウに話しかける。
「ねえねえ、男の子の時の写真ある?」
「ありますよ」
「マジ!?見せて見せて!」
「えっと……」
ユウはスマホの写真フォルダを遡る。自身単体の写真が見つからず、リヒトと二人で撮った写真を見せた。
「これは中学二年の頃のだけど、こっちが僕ね」
「へぇ〜、カッコイイじゃん。あれ?隣の人最近見た気がする」
写真をまじまじと眺めているレイナを見て、リサは苦笑いを浮かべた。
「リヒトよ。男子バスケ部の騒ぎがあったでしょ」
「ああ!女バスで人気のあの人か!何人か惚れこんでた気がする」
「……ふ~ん。やっぱ人気者なんだね」
「ユウ。顔に出てるわよ」
ここにはいない彼氏の浮いた話を聞いてもやもやした感情が沸き上がるユウの顔は、レイナが見ても不機嫌だと分かるくらい強張っていた。
「あっなるほど。ユウちゃんの噂の彼氏ってこの人なんだね」
「そうよ。初恋を実らせて初めての感情に振り回されてるから、触ると火傷するわよ」
「誰彼構わず拒絶してないよ!僕だってなるべく穏便にしようとはしてるさ」
「はいはい。わかったから落ち着いて」
「あはは、なんか面白いね」
二人のやり取りを見ながらレイナは笑みを深めていた。その様子を見てリサは呆れたようにため息をつく。
「もう。ユウも早く機嫌直しなさいよ」「うぅ〜」
「ほら、そろそろ買い物終わったみたいよ」
カナが靴を両手に持ちながらこちらに向かってくる姿を見て、ユウは慌てて気持ちを切り換えた。
「カナ!決まったの?」
「うん!これにした!待たせちゃった?」
満面の笑顔で答えるカナにユウはほっとした。その様子を見ながらも、レイナは話を続ける。
「そういえば最初の話の続きになるんだけどさ、ユウちゃんって今は運動出来るかわからないんだよね?」
「そうだね。もうすぐ体育の授業で何かスポーツやりそうだけど」
「じゃあさ、今からゲームセンター行かない?アーケードなら今の格好でも出来るでしょ」
「僕は構わないけど二人は?」
「私は大丈夫よ」「あたしも!」
ユウが了承すると、レイナは嬉しそうな顔をした。それから四人はショッピングモール内にあるゲームセンターで遊ぶことにした。
騒々しい電子音とカラフルな光がそこら中に眩しく光る空間に着いた四人は、アーケード筐体のある奥を目指しながらも周囲を眺めていた。
「ユウちゃんはクレーンゲームとかは得意?あたしさ、可愛いぬいぐるみ欲しいけど取れたためしがないんだよね」
「やってみないとわからないですけど、多分取れると思います」
ユウは昔に小さなゲームセンターの店員にこっそり筐体の設定とかを教えて貰ったことがあった。他にも色々と取り方とかを教わったその人が、少し前にクレーンゲーム協会で名を上げていて驚いた記憶を思い出した。
「ホントに!?ユウちゃんって何でもできるんだね!」
「いえ、僕は教わったことややったことあるものしか出来ないですよ」
「いやいや、謙遜しないでいいんだよ。ユウちゃんは凄いよ」
「……ありがとう」
真っ直ぐに目を見て褒めてくるレイナに照れ臭くなったユウは苦笑いを浮かべた。それから目的の場所に到着すると、リサ以外がお金を入れ始める。
「リサはいいの?」
「ええ、私じゃ三人のペースに追い付けないもの。見ていても楽しいから気にしないでちょうだい」
リサは笑顔で返事をしたので、ユウも気にせずに目の前のアーケードゲームに向き直った。
四台並んだそれは、実在のバスケットボールを時間内にどれだけリングに入れるかを競う定番のゲームだ。リサは運動部の二人と助っ人に呼ばれていたユウと並べるほど運動が出来る訳でもないので遠慮したのだろう。
このアーケードゲームは店内対戦機能が付いており、点数を競い合って勝敗を決めるモードがある。
「よし、頑張ろう!」
「ユウ、負けないよ!」
「現役バスケ部として二人には負けられない!」
意気込んだレイナは、筐体の操作パネルに触れるとカウントダウンが始まった。
カウントがゼロになりホイッスルの合図と共にボールが手元に転がってきた。三人は同時に動き出し、一斉に投げ始めた。
ユウは久しぶりのプレイなので感覚を取り戻すために数発は丁寧に投げた。レイナの方は流石現役というべきか、最初から全力疾走していた。カナも、休みに誘われることがあるらしく、慣れた手つきで投げていた。
(……やっぱり速い)
レイナの速さに驚きつつも、ユウは集中してボールをゴールへと入れ続けた。少しずつ感覚の修正をして、最後の十秒あたりではリングに触れることなくボールが通っていた。
結果はレイナが一位、僅差でユウが二位、二十点離れてカナが三位だった。
「ユウちゃん強すぎ!ブランクあるはずなのに何でそんなに上手いのさ」
「僕よりもレイナさんの方が強かったよ」
「あの打ち方的に実際ならスリーも安定しそうじゃん。このゲームじゃなきゃ負けてたかも」
悔しそうにしながらも楽しげに笑うレイナに、ユウは微笑み返した。その様子にリサは満足げに笑っていた。それから四人は、様々なゲームを楽しんだりしながら遊んでいた。クレーンゲームやレースゲームなどをしていると時間はあっと言う間に過ぎていった。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
リサが時計を見ながら声をかけると、皆も釣られて確認した。気が付けばもう夕方になっていて、外を見れば日が暮れていた。
「もうこんな時間なんだね」
「楽しいと時間が過ぎるのって早いわよね。特に今日は、久しぶりにユウと一緒に遊べたから余計にね」
「あー、それわかるかも」
リサの言葉に同意するようにカナも笑みを浮かべてユウを見れば、申し訳なさそうにしていた。
「生活は落ち着いたから今後はもっと遊べるから許して」
「別に怒ってないわ。それに、ユウはリヒト優先で構わないわよ」
「ありがとう」
「今日はユウちゃんと遊べて楽しかった!学校でも会ったらお話ししようね!」
「うん!またね!二人もまた明日!」
四人はショッピングモールで解散し、それぞれとても軽い足取りで帰路についた。
凝りもせず覚えられもしない新キャラを出していくスタイル。
いい加減に登場人物の一覧くらいは作ろうかな…




