第二十七話 四月十七日(水)少女は嫉妬に振り回された
次の投稿はいつ出来るかなぁ……
午後の授業を終えて放課後になると、ユウはいつものように生徒会室へ向かった。
生徒会室に入ると、大半の役員が既に来ていた。
「こんにちは。今日は皆さん早いですね」
ユウが挨拶をして持ち場に向かおうと歩き出す前に、声を発した段階で役員達が一斉にユウへ向いた。
あまりの異様さに思わず後ずさりしたユウを見て我に返ったのか、真顔だった人たちの表情に感情が現れる。
「ああ、ごめんな。昨日見たのが気になって仕方ないみたいでずっとこんな調子なんだ」
「シズク先輩。昨日見たのは先輩含めて三人だったはずじゃ」
「このミーハーな奴らに口止め出来る訳ないだろう」
苦笑いしながら肩をすくめるシズクの横では、女子が黄色い歓声を上げていた。
(あー……確かにこれは面倒くさいな)
何となく状況を理解して同情したユウは小さくため息をついた。
「とりあえず仕事始めましょうか」
「ああ、そうだな。皆座ってくれ」
全員が席に着くと、シズクは書類を確認しながら今日の活動内容について説明を始めた。
「本日の活動は来月行われる体育祭に向けての準備だ。今回は前年度の資料を基に今年の種目やルールの選定だ。生徒会としては今回裏方に回るからそこまで忙しくはならない」
「体育祭は実行委員がほとんどの活動を担っているから、今回の資料も最終決定は実行委員会で行われる。だが生徒会の発言はかなり通りやすいから慎重にな」
副会長の藍川リョウが補足するように声をかける。
「来週の放課後から定期的に行われる。一応生徒会メンバーからも何人か参加してもらうからよろしく頼む」
「早速やろうか。これが終われば暫くの間仕事が減るから頑張ろう」
それから簡単な打ち合わせが終わると各自作業に取り掛かった。
ユウも早速仕事を始めると、周りからは感心したような視線が向けられる。しかし、それに構わず黙々と仕事をしていると、会計の霧島ユイが近づいてきた。
「あの、昨日は覗いちゃってごめんね!」
「別に構いません。……これ種目別資料です」
「あ、ありがとうって何これ!」
「何か足りませんでした?一応数年分記載しておきましたが要りませんでした?」
「い、いや大丈夫だけど……」
ユウは不思議そうな顔をしながらもまた手元の紙に集中した。その様子を見てユイが慌てて声をかける。
「ねえ!この資料は今作ったの!?」
「はい、昨日までに過去資料は全部覚えましたから」
「えぇ……」
「ユイ先輩。これぐらいで驚いては身が持たないぞ」
カズヤがいつの間にか隣まで来ていてユウに書類を渡す中、ユイは彼の言葉に納得せざるを得なかった。
「……そうだね。じゃあ私もやるよ」
その後二人は黙々と作業を進めていき、他の役員も負けじと集中していった。
しばらくすると他のメンバー達も慣れてきたのか段々会話が増えていく。
「佐倉、その資料見せてもらってもいいかな」
「あ、はいどうぞ」
ユウは声をかけてくれた書記の工藤シンジに資料を手渡すと彼は興味深そうに見つめた。
「佐倉、これ去年からあったか?」
「いえ、一昨年の競技一覧を参考にしました。当時のアンケ結果もまとめてあるので参考にはなるかなと」
「なるほど。さすがだな」
「僕は既存のものを拾い上げることしか出来ないですよ」
ユウは謙遜するが、それでも褒められて照れる姿に役員達は和やかな雰囲気に包まれる。
そのまま下校時刻まで作業は続き、残る量は半分にも満たなかった。積まれていた書類の山を思い出してリョウは驚きの声を上げた。
「驚いたな。このペースなら明日にでも終わりそうだ」
「これなら後は問題ない。金曜には皆も部活に顔出せるな」
「良かったね。佐倉さんのおかげだよ」
「お疲れ様、ユウ」
「ありがとうございます。皆さんのおかげですよ」
ユウは微笑むと、役員は嬉しそうに笑った。
「それでは、今日はこれで解散。皆お疲れ様!」
シズクの言葉と共に役員は全員帰り支度を始め、ユウも帰る準備を済ませると帰ろうと扉へ向かう。
「待て、ユウ」
シズクはユウを呼び止めると手招きをした。
「なんですか?」
「改めておめでとう。やはり直接伝えたくてな」
「あ、ありがとうございます」
シズクから祝福を受けるとユウは頬を染めて礼を言うと、シズクは満足げに笑ってユウを抱きしめた。
「ユウは私の自慢の後輩だ」
突然の行動に固まるユウだったが、シズクが離れると少し残念な気持ちになった。
「……また明日」
「はい。失礼します」
ユウが生徒会室を出ると、昨日同様リヒトが待っていたが、彼は生徒会メンバーに根掘り葉掘り質問攻めにあっていた。
どうやら解散前からいた為に姿を知っているユイに噛みつかれたのが発端のようだ。
「ユウ!助けてくれ!」
「えっと……彼氏を返してくれませんか」
「なっ!?やっぱりこの子が佐倉さんの彼氏なのね!」
「噂の助っ人の超人ルーキー!?」
そういってはしゃいでリヒトを軽く触りながら観察するユイに、ユウの胸の内が暗雲が渦巻く。
「その、霧島先輩。あまり触られると嫉妬でどうにかなりそうなので離れて貰っていいですか?」
「えぇ、ちょっと触るくらい……あ、ごめんなさい」
ユイは軽く考えてチラッとユウを見る。困り顔でこちらを見る彼女の瞳が昏く黒ずんで据わっていた。
ユイは素直に引き下がると、ユウはリヒトの手を掴んで生徒会メンバーから抜け出した。
「……僕も初めてなので感情が制御出来ないんです。ごめんなさい」
ユウはそれだけ言うと、逃げるようにその場を去った。
残された生徒会メンバーは先程の光景を見て固まっていたが、ユイが口を開く。
「あの子怖いんだけど……」
「ユウは独占欲が強いみたいだな」
「会長、そこはフォローしてあげてくださいよ!」
「昔のユウを知ってる立場からすると、むしろあそこまで感情が出るようになって良かったと思えてしまって」
「俺としては男だった親友がいつの間にか女になって彼氏作ってることに戸惑ってます」
「あれ?尾野君って佐倉さんと知り合い?」
「中学の生徒会で一緒でした」
「私達もそろそろ帰るか」
シズクが声をかけると全員が返事をして荷物を持ち直し、各々挨拶をすると解散した。
最後、戸締りを確認したシズクは上機嫌に鼻歌を歌いながら職員室に鍵を返すと、自宅へ帰っていった。
一方、ユウは帰宅途中、リヒトの手を引きながら早足で歩いていく。
「なぁ、ユウ。まだ駄目そう?」
「駄目。まだ嫉妬で頭がおかしくなりそうだよ」
「そんなにか……」
ユウの返答にリヒトは引き気味になるが、ユウはそれを無視して歩き続ける。
しばらくすると二人は住宅街に入り、人気も少なくなってきたところでようやくユウは立ち止まった。
「ユウ、落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」
ユウはリヒトに謝罪をすると、リヒトは気にしていないという風に首を振った。
「別に良いさ。ユウが幸せならそれで俺は嬉しいよ」
「ありがとう。これからもよろしくね」
ユウは笑顔を浮かべると、今度は手を繋ぐのではなく腕を組んだ。
「こっちの方が落ち着く……」
「そうだな。……ユウが嫉妬したら抱き着けば良いか?」
「……お願いします」
ユウは恥ずかしそうに答えると、リヒトは苦笑いしながら了承する。そしてそのまま二人で仲良く家路についた。
生徒会メンバーは私も見返さないと思い出せないです




