第二十三話 四月十五日(月)少女は不審者に絡まれた
今日はここまで。
明日は昼と夕方の二部予定。
「よし、今日はこれくらいかな。各自解散」
「お疲れ様でした」
一日の業務が終わった頃には外は暗くなっていた。ユウ達は挨拶をして生徒会室を出て、各自解散してばらけていった。
生徒会室から少し離れたところでスマホを操作していたリヒトがいた。彼はユウに気付くと元気に駆け寄ってきた。
「おっ、来た来た。ユウ!」
「ごめん待った?」
「全然!さっき来て十分も経ってないよ。早く帰ろうぜ」
「ん、了解」
二人並んで歩き出した帰路について、校門を出て少しした時だった。
「ねぇ、君たち。ちょっといいかい?」
声をかけられたのはユウとリヒトの後ろからだった。振り返るとそこには三人の見知らぬ人物が立っていた。
一人は金髪で長身の男で、もう一人は黒髪で眼鏡をかけた男、最後の一人は茶毛でポニーテールの女だ。
「あの、何か用ですか?」
ユウは警戒心を露わにして問う。しかし、そんな態度を気にせずに金髪の男は話し始める。
「いや、君たちがあまりにも楽しそうに歩いていたからね。僕達も混ぜて欲しくって」
「そうそう。私たちも混ぜて?」
二人の言葉を聞いたユウは一瞬でリヒトの後ろに隠れた。気にせずにポニテの女がリヒトの腕に絡みついてきた。女は挑発的な態度でユウを睨みつけてから、リヒトをその豊満な身体で誘惑していた。
二人の男も回り込んできてユウに触れようとするのをリヒトが守りながらユウを見た。
「ユウ、大丈夫か……ユウ?」
リヒトは不快な三人組に絡まれて、昔のユウに起きたことが脳裏に蘇った。ユウの精神面にこれ以上傷が入ってほしくないリヒトがユウを心配していると、彼女の様子がおかしいことに気付いた。
呼びかけても反応を起こさないユウにリヒトが手遅れだったかと後悔したとき、ユウの俯いていた顔が上がった。
「……そうか。これが――」
「ユウ?大丈夫か?」
「と り あ え ず そ れ 、剥 が し て 」
「お、おう!」
ユウが目線を向けた先にいるポニテの女をリヒトは慌てて引きはがす。軽く悲鳴を上げた女も、そこまで抵抗しなかった、否出来なかった。
ユウの発言からその場の空気に酷い重圧感が漂っていた。リヒトですら怖気づいてしまうほどの圧を、隣の少女から感じていた。
「……帰るよ」
ユウはリヒト以外にこの場に人がいないかの様に振る舞い、その場から離れようとした。ずっと威圧されて動けずにいた二人の男が、ユウが背を向けてから硬直が解けたように弾かれるように動き出す。
「ちょっ、待てよ!」
「逃げんな!?」
「…………」
ユウは無視してそのまま去ろうとする。しかし、眼鏡の男がユウの腕を掴もうとした。
「ッ!!」
リヒトがその男の手を払い除けて、ユウを守る様に前に立つ。そして、男を威嚇するように睨んだ。
「……なぁ、今何しようとした?」
「え、いや……」
「なーんか、嫌な予感するんだよ。お前らユウに触るな」
「い、いや俺達は別に……」
「うるせぇ、失せろ!!」
リヒトの鋭い眼光に気圧された男達はすごすごと退散していった。それを見届けたリヒトはユウの手を握った。
「ごめんな、遅くなって」
「ううん、ありがとう。助けてくれて嬉しかった」
先ほどまでの表情が抜け落ちた顔に生気が戻り、ユウは微笑んでリヒトの手に自分の手を重ねた。そこでようやく安心したリヒトは、ユウの手を引いて帰路についた。
ユウを送り届けたリヒトが事情を説明して帰った後、ユウは寝支度を終えてリサに連絡を取った。
程なくして彼女からのビデオ通話がかかってきた。
『もしもし、ユウ』
「こんばんわ、リサ。待ってたよ」
『へぇー、珍しく乗り気じゃない。どんな心境の変化?』
リサに今日の帰りにあった出来事を話した。
「僕ね、初めて嫉妬したんだ!」
ことの顛末を聞いた後の言葉を満面の笑みで話すユウに、リサはあまりに合わない言動に戸惑っていた。
「この嫉妬って感情は僕的に重要な気がするんだけど、どう思う?」
『……そうね。荒療治に丁度いい前提の知識になるわ』
「やっぱり?初めてだったけど、こんなに負の感情で頭が一杯になるなんて思わなかったな…」
『(絶対嫉妬の中でも重いやつよね…)じゃあ、今から言うことを想像してくれる?』
ちょっと垣間見た彼女の闇に触れないようにリサは本題に戻した。
『リヒトが恋人を連れてきて、腕を組んで柔らかく笑い合ってる姿を思い浮かべてね』
「……」
この時点でユウの表情が大変なことになっていたが、リサは心を鬼にして続ける。
『二人が見つめ合ってキスした時、ユウは祝福できる?』
「……吐きそう」
『姿勢を正して深呼吸。吸って~、はいて~、吸って~、はいて~』
「落ち着いた。危なかったよ」
ユウが落ち着きを取り戻したのを確認したところで、リサは話を続ける。
『最後の場面で、思ったことは?』
「……言葉に出来ない」
『じゃあ、最後に私から一つアドバイスをあげる』
「なに?」
『祝福する。相手を心配する。リヒトを心配する。離れるのが寂しい。羨ましい。隣に立ちたい。どれかある?』
「……はい」
『素直でよろしい。最後の奴だったらそれは恋ね。それじゃおやすみ』
「えっ、待ってよ!リサ!?」
ユウの呼びかけも虚しく、リサとのビデオ通話は終了した。その画面を見つめながらユウは呆然としていた。
「恋……?」
ユウの中で芽生える感情は、少しずつ形になっていくのを感じた。
ネタをその場で作っているので、たまに筆が進まない…




