第二十二話 四月十五日(月)少女は生徒会で顔合わせをした
一気にキャラが出ますが、私自身うろ覚えになるので流して構いません。
後で登場する時に注釈を入れるつもりです。
午後の二時間が終わり、放課後が訪れた。
ユウは以前から言われていた生徒会の集会があるため、リヒトとも早々に別れて生徒会室に向かった。授業終わってすぐに着いたせいか、中には生徒会長の雪村シズクしかいなかった。
「ユウか。早かったな」
「ああ、流石に早すぎたみたいてす」
「問題ない。今日は急ぎの予定も無いからゆっくりしてくれ」
そう言うとシズクはユウに椅子を勧めた。そして彼女はティーポットへ湯を入れた。紅茶を注ぐまでの時間を利用して、ユウは気になっていた事を質問することにした。
「あの、シズク先輩。少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「構わない。何だ?」
「……好きの感情がよくわからないんです」
「ユウッ!!?」
ガシャン、と陶器が強くぶつかる音がした。唐突な発言に思わず声を上げたシズクだったが、すぐに冷静さを取り戻してユウに問いかける。
「突然どうしたんだ?誰かに告白されたのか?」
「えっと……」
視線を逸らして顔を真っ赤にするユウに、シズクは胸が熱くなってしまう。
(ああもう可愛いなぁ!)
内心で叫びながら何とか理性を保つことに成功した。
「ユウ、君はその感情がどの好きなのかを知ればいい」
「どのって種類でもあるんですか?」
「私も人聞きだからあれなんだが、家族に向ける好きと友人に向ける好き、尊敬する人に向ける好きは全部似てるけど確かに違うものだろう?」
「……そうですね」
「同じように異性に向ける好きも違う。……私もわからないがな」
最後の一言は小声で呟いた。ユウは首を傾げて続きを促した。
「とにかくだ、一度その感情を理解してみるといい。それがわかれば自ずと答えは見えてくるはずだ」
「わかりました!」
紅茶を注いだカップを渡しながらシズクはユウに微笑みかけた。
「ありがとうございます。相談に乗ってくれて助かります」
「気にしないで良い。私は君の答えに興味があるからな」
「そうなんですか?わかったらお伝えしますね」
「楽しみにしている」
そう言いながら、シズクはユウとのお茶会を楽しんだ。ティーセットを片付けていてから数分後、生徒会室にノックされた。ユウは立って端に移動して、シズクが許可をすれば続々と人が入ってくる。
「失礼しまーす!」「こんにちは」「失礼します」
副会長の藍川リョウや他の先輩達の後ろから現れた一年生の三人。カズヤの他に入ってきた二人の女子生徒はユウを物珍しそうに見ていた。
「おおっ、ここが生徒会室か。初めて来たぜ……ユウは早いな」
「貴方がユウちゃん!ユキナちゃん、写真よりも可愛いよ!」
「そうだね、ミチル。でもね、もう少しボリューム抑えようか」
「え?あ、ごめんなさい」
テンションの高い少女はミチル、大人しい感じの少女はユキナと言うらしい。二人は知り合いのようで、ユウに詰め寄り瞳を輝かせるミチルをユキナは慣れた様子で襟首を掴んで止めていた。
二人の様子を暖かく見守っていたシズクは手をたたいて注目を集める。慌てて姿勢を正す二人を見て笑みを浮かべたシズクは、全員を見渡して確認して口を開いた。
「今日は生徒会の活動は無い。だが、このメンバーに集まってもらった理由は他でもない。今から皆には自己紹介をして貰う」
そう言ってシズクが指差したのはユウだった。
ユウの方に全員が注目する中、代表するように一歩前に出たユウは笑顔で一礼した。
「先日お騒がせしました、一年B組佐倉ユウです。十日前まで男でした、よろしくお願いします!」
「「「ッ!!?」」」
カズヤ、シズク、リョウの三名以外が驚愕した。そんな彼らにユウは苦笑いしながら一礼して一歩下がった。
シズクは視線でカズヤを促した。カズヤはワザとらしく足音を立てて一歩出る。
「初めまして。一年D組尾野カズヤです。普通の男子高校生ですが、よろしくお願いします」
どの口が普通を言ってると突っ込みたい気持ちを抑えるユウを放って、ミチルとユキナも自己紹介を始める。
「一年F組、八坂ミチルです!よろしくお願いしまーす!」
「同じく一年F組、佐々木ユキナです。よろしくお願いします」
それが終わるとシズクからの指示があり、まずは書記のシンジからとなった。
「三年書記の工藤シンジ。よろしく」
「私は二年A組の九重ミオ、同じく書記だよ。よろしくね」
「二年会計、篠宮スズカ。よろしく」
「三年会計の桐島ユイと言います。よろしくお願いします」
「俺は三年の藍川リョウだ。副生徒会長をしている。これから何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「最後は私、会長に任命された二年雪村シズク。以上、ここにいる十名でこの学園の生徒会を務める」
「ちなみにこの学校の生徒会役員は選挙で決めるわけじゃない。立候補制でもない。これは先生方の推薦制になっているんだ。
だからこそ、推薦者の顔に泥を塗るような行為はせずに責任ある立場として自覚を持った行動をしてくれ」
リョウの説明にユウ達は納得したように何度かうなずいた。
「今日から早速業務内容を教えよう。事前に担当を決めているから気を引き締めて取り掛かってくれ」
その言葉を聞いてユウとカズヤは笑みを深め、ミチルとユキナは緊張した面持ちになる。
対照的な二組に先輩達は笑いながら強張っている二人の肩を叩く。
「ようは犯罪をしたり、いじめに加担するようなことをするなってだけで、仕事はミスして覚えるもんだからそう硬くならないで」
「貴方達なら平気よ。副会長の言ってる事は合ってるけど、言葉選びが硬すぎるのよね」
書記のミオと会計のスズカがミチルとユキナを励ましながら副会長をジト目で見つめる。たじろぐリョウの姿を見て二人の緊張が和らいだ。
「じゃあ始めよう。ユウ、カズヤ君、二人は私が見る」
ユウとカズヤはシズクに連れられて会長のデスク前に移動した。
「さて、まずはユウに聞くが……隠したいか?」
神妙な顔でシズクはユウに問う。一瞬だけユウの後ろに配った視線で伝えたいことを察したユウは笑顔で答える。
「もう隠しませんし、むしろ全力で取り組みますよ」
「……わかった。ならユウにはとりあえず全校生徒覚えてもらおう。十分でいけるか?」
「大丈夫です」
「「「え!?」」」
「……何回驚くんだ?もうそろそろ慣れてくれ」
「いや会長、普通は無理ですって。中学のこいつを知らなきゃこんなもんですよ」
生徒会室内が混乱した中でシズクは呆れていたが、平常心のカズヤにズレを指摘された。
「まぁいい。ユウがの記憶力が異質なだけだ」
「えっと、いいですか?」
挙手したのはミチルだ。シズクは軽く頷いて発言を促した。彼女はユウとカズヤを一目見てから口を開く。
「それだと入試で満点を取れるのでは?主席がカズヤ君だったなら手を抜いてたの?」
「いや、事前に説明して先生方には満点の時は八十点にして貰っていたよ。要らぬ争いを避ける為にもね」
「へぇ~」
感心するミチルの横でカズヤは腕を組んで考える。
「ユウ、お前中学はどうしてたんだ?」
「自力で点数配分を見て調節した。ただ、人よりも記憶力が優れてるだけだから、国語の読解力とかは頑張ってんだよ?」
「……なんつーか、すげぇな」
「シズク先輩、名簿貸してください」
「ああ、これだ。その間にカズヤ君には別で教えよう。ほら、皆も仕事に戻って!」
ユウは渡された名簿を持って空いているテーブルに移動した。他の役員たちもシズクの拍子で我に返って再開した。ユウが十分で全校生徒を覚えた際には驚かれたものの、ユウの異常なまでの暗記能力に全員が納得して受け入れてくれた。
結局、ユウはその日生徒会室の至る所を記憶して終わった。その間にカズヤは幾ばくかの書類に手を付けていた。




