第二十一話 四月十五日(月)少女は友人に問いただされた
いっそのことストックを放出してしまえと判断しました。
今日3部投稿、明日も連投します。
朝、ユウはいつも通りにリヒトの家まで来ていたが、玄関で二の足を踏んでいた。チャイムに伸びる手が押す手前で引いてしまい、数分間玄関で己と格闘しているユウ。
不意にガチャリと音がしてユウが目を向ければ、玄関の扉が開いていて困惑顔のリヒトの母、アイカが出てきた。
「…何してるの?」
「あっ、おはようございます」
「待ってて。リヒト呼んでくるから」
アイカが家の中へと戻り玄関の扉が閉まった後、ユウは思わずしゃがみ込んだ。
(どうしよう、このままリヒトに会ってもまともに話せそうにないよ)
昨日の出来事で頭がいっぱいになるユウに、慈悲無くタイムリミットを知らせる扉を開く音が聞こえた。
「…何してんだ?」
「お、おはよう!悪いんだけど、前歩いて!」
「え、おう。いいけど……ああ、そういうことね」
ユウがリヒトの後ろに回り込んでその背中を押した。その際にユウの耳を赤くなっているのを見ていたリヒトが察したように頷いた。
「校門までな。カナあたりが見たらしつこく絡んでくるから頑張れよ」
そう言っていつも通りに話しかけてくれるリヒトに感謝しつつ歩き始めた。リヒトの斜め後ろを歩くユウは、数分もしないうちにいつもと違う立ち位置に酷い違和感を覚えていた。やがては無視できぬ程に不快感を覚えたユウは無意識の内にリヒトの隣を歩いていた。
「――それで、ユウはもう大丈夫か?」
「うん、心配かけてごめんね」
「いや、俺が発端だしな……。平気なら良かった」
「リヒトの事はこれからもっと気にかけるつもりだから」
「好きにしてくれ……」
そのままユウは平常心を取り戻してリヒトと登校した。教室に入るとユウとリヒトを見た女子達がざわつき始めるが、二人は気にせずに自分の席に向かった。
「おーっす、二人とも。朝っぱらから仲が良いねぇ」
「……その声はカナか。今日も元気だな」
「まあね!それよりもさ、二人の間で何かあった?」
「いや、特に何も」
カナの言葉を即座に否定するリヒトだが、カナはニヤケ面で二人の顔を交互に見る。
「ふぅん、そっか。どっちも無自覚?」
「……どういう意味だよ?女子達のあの視線と関係あんのか?」
「なんでもないよー。それじゃ私は行くから。また昼休みにでも遊ぼうね〜」
ひらりと手を振ってカナは自分の席に戻っていった。残されたユウとリヒトはお互いに首を傾げている。
「貴方達の登校したとき、どんな状態だったか覚えてる?」
カナとすれ違うように二人の元へやってきたリサは、諭すように聞いてくる。
「なんかしてたか?」
「えーと、確か……あ、僕か」
「リヒトは相変わらずね。ユウがリヒトの袖をずっと掴んでたのよ」
「無意識だったから言われるまで気が付かなかったよ」
最後まで気が付かなかったリヒトと苦笑いで答えたユウを見たリサは、あまりの衝撃に驚愕した。
「あ、貴方達。距離感バグってるわよ」
「「え?そう?」」
「あっ、駄目ね。後で聞きだすわ」
揃って首を傾げる二人に投げやりになったリサは諦めて席に戻っていった。その後、担任の教師が来て朝のHRが始まった。
初回とあって簡単な内容で済ませる授業が多かったが、ユウは中学来の授業に久しい緊張感を感じた。何事もなく四時間目が終わり、昼休みの時間になると昼食を食べ終えたユウとリヒトの周りに友人が集まってきた。
「さあ二人とも、白状してもらうよ!」
「話せる範囲でいいから話しなさい!」
「よく知らんが吐くんだ!仲間外れ良くない!」
カナ、リサ、タイチが一斉に詰め寄ってくる。一人内容を知らない者もいるが、揃って理由を問いただす。ユウは内容的に昨日の一件を話す気は無い為、どうしようかとリヒトに助けを乞う。
「悪いがこればっかりは話せないな」
「えぇー、つまんない!」
「面白さを求めてユウに嫌われてもいいなら俺は止めないよ」
「……それだけはヤダ」
リヒトの言葉を聞いて途端に黙り込む三人を見てユウはホッとした。そして、昨日の出来事を思い出して思わず顔が熱くなる。
(思い出すたびにこれだとまずいな……なるべく気を付けよう)
ユウは話題を変える為にタイチに話しかけた。
「そういえばタイチは部活は入ったの?」
「ああ、高校は柔道部に入った。家との掛け持ちで部の了承は得てるぜ」
渡橋タイチの実家は柔道教室を開いていて、中学では部活に入らず家業を手伝っていた。
そんな彼が、高校でどんな部活に入るかと思えば結局柔道をすることに彼以外は呆れていた。
「よっぽどだよね。この柔道バカは」
「まあそうでしょうね。柔道バカだもの」
「うるさいな。新しい人と組み合えるのは貴重なんだぞ!」
「何でも柔道に直結してるから柔道バカなんだよ」
「そんなこと無い!それに俺より強い奴はいるはずだし、いつかは世界だって目指してみたいと思ってる」
「……全国区のレベルで満足せずに向上心があるのはいいけどね」
カナが溜め息混じりに言うと、タイチは得意げな表情で腕を組んだ。
「へっへーん、もっと褒めてくれても良いんだぜ」
「調子に乗るな」
「いって!?殴ることねえじゃんか……」
リサに頭を叩かれて落ち込むタイチに誰も慰めの言葉は掛けなかった。
ユウは周囲のタイミングを見てリサを手招きする。そっと彼女に耳打ちで相談する。
「……その、友達の好きと異性の好きの違いって分かる?」
「ッ!?もちろんよ!」
一瞬動揺するも、すぐに平静を取り戻したリサは胸を張って答えた。ユウは安堵して肩を撫で下ろしたが、次の瞬間には固まってしまった。
「見ていてもどかしかったもの。荒療治で教えてあげるわ!」
「いや、そこまでは……」
「いや、やるわよ。今やるとあなたが困るだろうから、夜に即効性のある技を教えるわ」
珍しく表に出してニヤついたリサに怯えながらお願いをしたものの、ユウは若干聞く相手を間違えたかと不安になった。
「ん?どうしたの?リサがニヤつくの珍しいじゃん」
流石にユウが慌てふためく動きに感づいたカナが近寄ってくる。リサを見て驚きながらも面白そうなことを探してるカナには絶対に話すまいとユウは口を閉ざした。
「カナ。今週中に面白いことになるから我慢しなさい」
「え?何それ?気になるんだけど」
「私も詳しくは知らないわ。でも、きっと驚くわよ」
「ふぅ〜ん……。あ、そうだ。ユウは何か部活入るの?」
リサの曖昧な返事に首を傾げたものの、すぐに別の話題に変えた。
「僕は部活動支援部だよ。別にリヒトと一緒だけが理由じゃないから」
「ふ~ん?それも理由の一つなんだ?」
「別に友達と一緒って人もいるくらいだし良くない?」
「うわ、これは手強い」
本気で不思議そうにするユウを見てからかうのは無理だとカナは判断した。
「ならリサは?広報委員とはいえ部活に入ってるんでしょ?」
「私は文芸部よ。前々から決めてたわ」
「えぇ~、つまんない!なんか面白い事無いの?」
カナが駄々をこね始めてリサは面倒くさそうに切り捨てた。
「そうね。午後の授業が始まるけど準備は大丈夫?」
「ゔぅ~……準備する」
そう言ってカナは渋々離れて自分の席に離れていった。厄介払いできたとすっきりした表情のリサといつの間にか立ち直ってたタイチもそれぞれ戻っていった。
嵐のように荒らすだけ荒らした友人達が去っていった後、ユウとリヒトは顔を合わせてそっと息をついた。




