第二十話 四月十四日(日)少女は決意した
おかしい。1200文字ぐらいしかなくて慌てて追加したら普通より多くなった。
心機一転気持ちを入れ替えた翌日。リヒトを家に誘ってお昼ご飯を共にしたユウは、一週間ちょっとぶりにリヒトを部屋へ上げた。
部屋に入ったリヒトはユウが女になった日のことを思い出して、首を傾げた。
「なんか前と違うような…」
「そう?特に減ったり増えたりは無かったはずだけど」
少ししてリヒトは違和感に気がつき、ユウに顔を近づけた。突然距離を詰められたユウは、慌ててリヒトを見上げた。
「ど、どうしたの?」
「ん-。やっぱりだな」
直ぐに顔を離して納得したリヒトに、ユウはずっと戸惑っていた。訳も分からずじっとリヒトを待っていると、彼は口にするのを躊躇うように言いにくそうにしていた。
「あー、うん。前と匂いが違ってたんだよ」
「え?僕は別にアロマとかやってないよ?」
「お前の匂いだよ。よくいう女の匂いってやつ?」
「僕の……匂い?」
ユウは自分の服を嗅いでみるが、いつも通り自分の汗の臭いしか感じられなかった。そんな様子に苦笑しながらリヒトの指摘は続く。
「ユウといると香ってくるの甘い匂いは間違いなくお前の匂……んぐっ!?」
言いかけたところで、リヒトはいきなりユウに両手で口を塞がれた。突然のことに驚いていると、ユウは恥ずかしさを誤魔化すように早口で捲し立てた。
「も、もういいから!!ほら、今日は一緒にゲームやるんでしょ!!」
「お、おう」
そのままユウはリヒトの腕を引いてベッドの方へ向かう。そしてテレビ台からゲーム機を取り出した。その顔は耳まで真っ赤に染まっていて、リヒトは内心可愛いと思いながらも黙って従う。彼の耳もまた赤くなっていることに気付かないユウはテンパりながらゲーム機を取り出した。
「よ、よし!じゃあ何のゲームする?」
「あぁ、それならこれやろうぜ」
「あ、これか。うん、じゃあやろっか!」
そう言ってユウはゲームの電源を入れてセッティングを始めた。その間、リヒトはユウの方をチラッと覗き見る。
男の頃とは全然違う華奢な体、柔らかい肌や艶のある髪に鈴を転がすような声も。そのどれもが異性であることをひしひしと感じさせてくる。
(ユウには悪いけど、もう完全に女としか見れないんだよな…)
ユウの性格などは変わっていないし親友だと今でも思っているが、リヒトはどうしたものかと迷っていた。
そんなリヒトの葛藤に気付かないユウはリヒトのすぐ隣に腰を下ろした。
(いっそ打ち明けてしまおうか…。いや、既に色々抱え込んでるしな)
しかし、結局リヒトはその事を言わずに二人で遊ぶことにした。今はただこの時間を楽しむだけで良いと思ったからだ。
「そういえばリヒト。昨日カズヤに会ったよ」
「…元気にしてたか?」
「それはもう、追いかけたメイと仲良くやってるみたいだよ」
「ん?追いかけたって…まさかあいつが転校したのって!?」
「そうだよ」
ユウの言葉に呆気にとられるリヒトは、しばらくしてため息をついた。
「はぁ……。ったく、あの馬鹿は……」
「でも、結果的に良い方に転がったよ。前よりもいい表情してた」
「そっか。ま、アイツららしいっちゃらしいな。それで、どんな話したんだ?」
「えっとね―――」
そうして二人はしばらくゲームをしながら談笑を楽しんだ。
日が暮れ始めて窓から強く差し込んできた西日に気が付いてゲームを辞めた二人は、片づけをしてリビングに向かった。するとそこには先客がいた。
「あら、おかえりなさい。二人とも」
ソファーに座っていたのはユウの母であるサユリだった。彼女はテーブルに置いてあるティーカップを手に取り、優雅に紅茶を飲んでいた。その姿はまるでどこかの貴族令嬢のようであった。
「そろそろ帰る時間になったからって…どうしたの?」
サユリが動きを止めてジッと二人を見ていた。ユウは首を傾げていたが、リヒトはその眼差しに含む意図を読んで苦笑した。
「別に今言っても困らせるだけだから言ってないですよ」
「……そう。これからも仲良しでいてあげてくださいね」
「はい、勿論です」
笑顔を浮かべているリヒトを見て満足そうな顔をしたサユリは、再び視線をユウに戻した。
「それと、本人が気づいてないだけでリヒト君は分かってるんでしょ」
「まあ今は分かりやすいですからね」
「母さん?リヒト?何の話をしてるの?」
「ふふっ、ユウちゃんは可愛いって話よ」
「へ?」
いきなり話を振られたユウは、目を丸くしてリヒトの方に振り向いた。リヒトが苦笑いしているのを見ると、ユウは頬を膨らませながら抗議する。
「僕の事を話してるのはわかるけど、流石にそれは違うってわかるよ!」
「ははっ、内緒だ。可愛いのはホントだぞ」
「むぅ……」
少しだけ不機嫌になりながらユウはリヒトの背中をポカポカと叩く。サユリがそれを微笑ましく見ていると、リヒトが振り返ってユウを抱きしめた。
「ッ!!?」
「拗ねるなって。お前は可愛いよ」
「〜〜っ!!!!リヒトの意地悪!!」
ユウはそのまま赤くなった顔を隠すようにリヒトの胸に顔を埋めた。その様子にクスクス笑うリヒトは、頭を撫でながら優しく囁く。
「ごめんな、俺も余裕がないんだ」
「……」
「ユウ、こっち見て」
そう言われて顔を上げたユウの顔はまだ赤かった。そんなユウの顎に手を添えて上に向かせると、リヒトはユウの額に軽く口づけた。小さなリップ音がユウの耳に届いた瞬間、彼女の顔がりんごの様に真っ赤に染まり動きが固まった。
動けないユウの視界に入るリヒトの顔は耳まで赤くしていたが、それ以上に彼から向けられる熱の籠った瞳がユウの心を揺さぶった。
「あ……う……」
「好きだよ、ユウ」
「ぇ、んと……その…」
「答えはいつでもいいから」
その言葉を最後にリヒトは再びユウを抱きしめた。ショート寸前のユウをそっと抱きかかえてソファーに寝かして、リヒトは荷物を持って立ち上がる。身近な上着をユウにかけたサユリは、ニヤニヤしながらリヒトを肘でつつく。
「結局言っちゃったわね」
「すいません。我慢できませんでした」
「これからどうするつもり?」
サユリは苦笑するリヒトの今までの発言を思い返して、ユウの答えが出るまではどうするのかと尋ねた。
「今まで以上にユウが許す限り溺愛するつもりです。もう我慢せずに攻めます」
お邪魔しました、とユウの家を出て帰るリヒトをサユリは玄関まで送った。
そして、ドアが閉まると同時にリビングに戻るとなんとか意識を取り戻したユウがソファーに座っていた。
「あら、気が付いた?……少しは落ち着いたかしら」
「……僕はどうすればいいんだろう」
「いずれ思いは形になって言葉に出来るまで、今まで通りにしていればいいのよ。……ユージさんがそうだったように」
そう呟くサユリの表情は、とても幸せそうであった。
「あの父さんが?」
「ええ、ユージさんもあなたと同じで自分の気持ちに鈍感だったのよ」
「そうなんだ……。僕も同じなのかな……」
「ふふっ、きっとね。……ほら、今日は休みなさい。夕食は私が作るから」
「うん、ありがとう。母さん」
そう言ってキッチンに向かうサユリを見送ってから、ユウは自室に戻ってベッドの上に横になった。
(リヒトに好きと言われて嬉しかった。僕も彼のことを好きだ。……けどリヒトのそれと同じかは分からない)
頭の中で考えをまとめるユウは、先ほどの出来事を思い出す。
リヒトから初めて告白された時はとても驚いたし、恥ずかしいという感情もあったが、不思議と嫌だとは思わなかった。しかし、その先がぐちゃぐちゃになって纏まらなくなる。
もし自分がリヒトの事を異性として好きなら、嬉しいはずだ。だが今のユウにはそれがよく分からなかった。
「……今は保留かな」
まだ整理がつかないユウは、この気持ちを一旦棚上げする事にした。するとユウの腹が鳴って空腹を知らせる。
「はぁ……夕飯食べよう」
ユウは起き上がって一階に降りると、既に夕食の準備が終わっている事に気づく。テーブルを見るとそこにはユウの大好物であるオムライスが置かれていた。
「母さん!これって!!」
「ふふ、あなたの大好きなオムライスよ。今日は貴方にとって節目になる気がしたから」
「どうした?ユウに何かあったのか?」
いつの間にか席についていたユージが不思議そうにユウをサユリを交互に見ている。
「えっと、その……」
「ユウちゃんがリヒト君に告白されたの。あなたの時と同じで保留になったけどね」
「へぇ、あいつもやるじゃないか。……にしてもユウも俺の子だな」
「……父さん?」
ニコニコしているユージの笑みの種類が変わり、ユウは違和感を感じた。サユリはそんなユウを見てクスクス笑う。
「あのね、ユウ。リヒト君の事が好きならそれでいいのよ。だけど、それは今すぐじゃなくて良いの。ゆっくりで大丈夫だから、自分の心に従って答えを出しなさい」
「……分かった」
「そうそう、似た立場のユージさんからヒントを貰ったら?」
「ん?俺の時は割と直ぐに気付いたからな。リヒト君を見てればわかるぞ、きっと」
「うーん、とりあえずリヒトを見るようにするよ」
ユウはユージのアドバイスを聞いて、まずはリヒトを良く見ようと心に決めた。
そして、食事を終えて風呂に入ったユウは早めに寝る事にして、布団の中に潜り込んだ。
「おやすみなさい」
誰に言うわけでもなくユウは眠りについた。
日割りで話数切ってるからこんなことになった。
文字数の調節って難しいですね。
 




