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第二話 四月四日(木)少女は親の着せ替え人形になった

とりあえず切りのいい所までは連投します。

「はぁっ……、やっと終わったぁ」


ユウがそう言って帰宅したリヒトを見送った後、リビングのソファに体を預けた。柔らかく支えてくれるソファに癒されるユウにサユリが話しかける。


「お疲れ様、ユウちゃん。はい、お茶よ」


「ありがとう母さん」


湯飲みを受け取り、一口飲むとほうじ茶の香ばしい香りが鼻に抜けていく。程よい熱さが喉を通り過ぎ、怒涛の半日で溜まった疲労が和らぐのを感じる。


「ふう……。あ、そうだ。日曜は学校に行くんでしょ? 私もついて行くから」


サユリがユウの隣に座って言った。


「うん。ありがとう!」


「それまでに、あなたが女の子として生活するのに必要なことをいろいろ覚えてもらいます」「はい、よろしくお願いします」


ユウは背筋を伸ばして返事をした。


「まずは服よね。制服はさっき変更手続きしたけど普段着や下着とか必要なものを買いに行きましょう」


「……はい。あの、今から?」


ユウは不安げに聞いたが、サユリの顔を見れば一目瞭然だった。


「もちろんよ。善は急げっていうじゃない。ほら、早く準備しなさい」


「……はい」


ユウは覚悟を決めて立ち上がった。


***


そして、ユウはサユリと共に街に繰り出していた。服はサユリのお古を着ることで何とか外出できた。


ユウにとって鬼門であった肌着を買い終えた二人は今、ショッピングモール内にある婦人用品売り場に来ていた。


「ユウちゃんにはこれが似合うと思うわ!」


サユリが手に取ったのは、白を基調としたブラウスだ。


「でも、これ胸元開きすぎじゃないかな?」


ユウが言うようにそのシャツは肩幅が広く作られており、ユウの控えめだが形のいい胸が主張していた。


「そうかしら?確かにちょっとセクシーかもしれないけど、ユウちゃんはスタイルが良いから大丈夫よ。それにこのくらい露出があったほうが男の子の目を引くし」


「そう……なのかな?」


「そうよ!ユウちゃん可愛いから自信持って誘惑しちゃいなさいよ」


「なんでっ!?」(この人、元々僕が男であることを忘れていないだろうか…)


嬉々として服を選ぶサユリを憎めずに呆れるしかなかった。

ため息をついて振り向くとこちらに視線を向け続けている彼が目に入る。


「……まあいいや。それでなんでリヒトがいるのさ」


「暇だったところにサユリさんに捕まった。いちゃまずかったか?」


「そういうわけじゃなくて、わざわざ付き合ってくれなくてもよかったのに……」


ユウが気まずそうな顔で言った。


「まあお前のことも心配だったし、渡りに船ってやつだ」


「う、うん。ありがとう」(リヒトは変わらずに接してくれるし、僕もはやく慣れないとな)


ユウが照れくさそうにしていると、「あら?もう決まったのかしら?」と声をかけられた。


「あ、母さん。…ってそのカゴに入ってる服、多くない?」


「別に多くは無いわよ。もう少し組み合わせを増やしたいくらいよ」


「えぇ……」


ユウはげんなりとした表情になった。


「まあまあ、そんなこと言わないで。これも勉強だと思って。ね?」


サユリがユウの耳元で囁いた。


「うぅ……。わかったよ」


この後、サユリによる着せ替えショーにユウの顔から生気が抜けるにそう時間は掛からなかった。途中からリヒトが参戦した瞬間にユウの表情が絶望に染まったのが特徴的だったと、後にサユリは後に語った。


***


「疲れた……」


ユウがげっそりとして言った。


「お、おう。お疲れ」


リヒトもユウの様子を見て気まずそうにする。恨めしそうに睨むユウにタジタジな様子のリヒトをしり目にサユリは満足そうにしていた。


「ふふ、いい買い物ができたわ」


(母さんの買い物に付き合うと毎回こうなるのかな……?)


ユウの憂鬱は晴れないままだったが、サユリは構わずに言った。


「さて、帰ってお昼にしましょう。リヒトもいらっしゃいな」


「いいんですか!」


「元々ユウと遊ぶ予定だったでしょう?」


「あ、知ってたんですね。ユウが大変そうだしどうしようかと思ってたけど…」


「なら決まりね。行きましょう」


サユリが微笑んで歩き出した。


***


昼食を食べ終え、部屋に戻ったユウはベッドでぐったりとしていた。


「大丈夫か?」


リヒトの問いに突っ伏していた体を起こしたユウは力なく答えた。


「大丈夫じゃないです……」


「だろうな」


「リヒトは元気だよね……」


ユウは恨みがましい目を向けたが、リヒトは気にせずに続ける。


「まあ、お前ほどじゃないが俺だって疲れてるぞ。周囲の妙な視線がずっと刺さってたし」


「……全然知らなかった」


「別にいいけどよ。それよりも今日はどうする?このまま外に遊びいくのは大変だろ?靴もまだだし」


「そうだね…。ゲームでもする?」


据え置きゲーム機を指さして問う。


「おっ、このゲーム懐かしいな。久々にやるか」


昔のハードでやっていた協力型アクションゲームのリメイクが発売していたらしい。興味を示したリヒトの反応に、ユウは嬉しそうに準備を始めた。


時計の長針が三周もしたら、ゲーム画面はラスボスを倒し終えてクレジットが流れていた。


「終わったー!手が小さくなっても思ったより出来るもんだね」


「そうだな。最後の方は操作ミス無くなってたな」


慣れた。そう語るユウの笑顔に影は見えなかったが、思わずといった様子で口を開く。


「まあ、なんだ……溜め込む前に吐き出せよ」


「へ?」ユウが間の抜けた返事をする。


「ストレスだよ。ガラッと環境が変わるんだから、なんかあったら言えよ。できる限り相談に乗るから」


ぶっきらぼうに言い放ったリヒトの言葉にユウは驚きを隠せなかった。


「リヒトが優しいなんて珍しいこともあるんだね」


「…悪いかよ」


「ううん、ありがとう。嬉しいよ!」


ユウが満面の笑みで答えるとリヒトは恥ずかしくなったのか顔を背けた。

しばらく沈黙が続き、リヒトは立ち上がると口を開いた。


「今日のところは帰るな」


「うん。今度は出かけて遊びたいね」


「ユウが大丈夫だと思ったら言ってくれ。いつでもいいから」


「わかった。またね」


バタンという音と共にドアが閉まり、部屋に静寂が訪れた。

ユウはゲーム機を仕舞って再びベッドに寝転び、ぼんやりと天井を見つめていた。


(僕は……これからどうすればいいのかな……)


考えれば考えるほどわからなくなる。

ユウは再び目を閉じた。

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