第十九話 四月十三日(土)少女は旧友と再会した
今回、素直に作中の日付を飛ばして月曜日にすれば良かったのではと思っています。
特進科以外は休みの土曜日。ユウは時間を持て余して、散歩をしていた。
目的無く歩き始めたユウはふと古本屋が目に入り、ファッション誌でも買って勉強しようかと店に入った時だった。
「あれ、ユウ?」
「えっ?」
突然名前を呼ばれて振り向くと、そこには見知った顔があった。
「あーやっぱりそうだ。久しぶりだね」
「カズヤ!久しぶり!」
ラフな格好で現れた彼を見たユウは旧友の再会に顔を輝かせた。
「ホントに久しぶり!元気そうで良かった!」
「まあ俺はなんとかな。ユウもその姿でも元気そうだな」
「そういえばなんで分かったの?まだ話してなかったのに」
彼と最後にあったのは中学だったので、カズヤはユウの女の姿は知らないはずだった。不思議に思ったユウが問えば、彼はスマホを見せてきた。
「生徒会の声明文に顔写真載ってたから。同姓同名の見覚えのある経歴で直ぐに察したよ」
「ああ、なるほど」
「それにしても……ユウが女の子になるとはなぁ。流石に驚いた」
「あはは、僕もだよ」
二人は笑い合いながら店内へと入った。
「それにしてもこんなところで会うなんて思わなかったな」
「そうだね。やっぱりカズヤも生徒会に入るの?」
「ああ。だから月曜日に再会するかなって思ってたらまさか今日とはな。リヒトもいないし」
「リヒトなら今日は友人とスポッチャだって。男団体らしいから遠慮した」
「はは、それなら仕方ないさ」
そんな会話をしながら二人は店内を適当に回る。
「欲しいの先に買ってどっかぶらつかない?」
「そうだな。ここじゃ話すのに向いてないし、買って入り口前集合でいいか」
そうしてカズヤと別れてユウは雑誌コーナーへと向かった。ファッション誌でも服の種類を説明している本を購入した。サユリとの買い物の際、コーデを口にしていたがユウには呪文にしか聞こえなかったのが堪えたようだ。
購入を済ませて店の入り口に行けば、カズヤが既にそこにいた。
「ごめん。待たせたかな」
「数分だから気にすんな。それより移動しようぜ」
「そうだね。適当に飲み物でも買って近くの公園に行こう」
そう言って二人で近場の自動販売機まで移動する。そこでジュースを買って、ベンチに座った。
「はぁ……落ち着く」
「ユウはユウだが姿がこうだと調子狂うな」
「それはもう慣れてとしか言えないかな」
穏やかな気候でそよ風が優しくユウの髪を揺らす。依然の姿をよく知るカズヤは、隣に座る少女が鈴を転がすような声で笑う姿に困惑がやまなかった。
「なんとなく察してると思うけど、父さんの薬でこうなったんだ」
そう切り出して一連の出来事を説明した。最中、ユージの薬による被害を受けたことのあるカズヤは苦笑いしていた。
「そりゃまた……大変だったな」
「うん。でもこの体になってから色々楽しいことも増えたから」
「楽しそうでなにより」
「カズヤは?あの日以降会えなかったけど、こうしてここにいるってことは乗り越えたんでしょう?」
問われたカズヤは誰かに思いを馳せる表情を浮かべて当時の事を振り返った。
「まぁ……俺の場合、メイが側にいてくれたからな。一人じゃないからなんとか耐えられたよ」
「え、メイが……そっか。メイの転校はそういうこと」
ユウは納得するように呟いた。当時のメイの思いは聞いていたが、カズヤの見たことのないくらい柔らかな顔を見て、彼の瞳に浮かぶ彼女に思いを寄せていることに気が付いた。
察したユウに暖かい眼差しを向けられたカズヤは気まずそうに眼をそらしながら反撃する。
「ユウはどうなんだ?やっぱリヒトか?」
「えっ、あ、えっと……はい」
仕返しとばかりに放った言葉はカズヤの思った以上にユウへ突き刺さった。顔を赤らめてしどろもどろになるユウを見て、カズヤは盛大に笑う。
「くっ、あはははは!!駄目だ!あのユウがこんな顔するなんて!」
「んなっ、そんな笑うほど可笑しいの!?」
「だってなぁ?あの唐変木で自分に鈍感なユウがだぞ?面白い以外の何物でもない」
「むぅ……」
ユウは顔を真っ赤にして俯いてしまった。以前の姿では絶対にしない行動である。それが余計にカズヤの笑いを誘う。暫くして漸く笑いが収まった彼は涙を拭いながら謝罪した。
「悪い悪い。悪かったって」
「……ならメイとはどうなったの」
「えぇー」
「……中学の知り合い全員に言いふらすよ」
「すいませんでした」
拗ねたように言うユウにカズヤは再び笑いがこみ上げてニヤついていれば返す言葉に速攻で降伏した。冗談とは分かっているが、ユウの人脈を使えば中学のほぼ全員に伝わるのは間違いなかった。
「それで、どうなったの?」
「まぁ……その……お付き合いさせてもらってます」
「おお!」
「そ、そんな反応されると思ってなかったんだけど」
「だってメイの思いは知ってたし、あの時のカズヤを癒して落としたと思ったら感慨深くて」
「まああいつには本当に感謝してるんだよ。今の俺がこう在れるのはあいつのお陰だからな」
カズヤは空を見上げる。その横顔はかつてユウ達と共に過ごしていた時と同じものだった。
「じゃあ僕はカズヤの役には立たなかったかな?」
「いいや、ユウにも救われてるよ。あの時お前がいてくれなかったら俺は完全に壊れてたかも」
そう言ってカズヤは自嘲気味に笑ってみせる。あの日の自分の行動を悔いているのかとユウは悟った。しかし、それは違うとカズヤはすぐに否定する。
「別に後悔はないさ。俺は俺なりに考えてやったことだし、それに……結果的には良かった」
「そっか。それならいいんだ。僕にとってカズヤは大切な親友だから」
「おう。ありがとよ」
「それはこっちのセリフだよ。僕の側にいて、支えてくれてありがとう」
「それはお互い様だろ?」
「そうだね」
そう言って二人は笑う。そこにはかつての日々があった。気が付けば真上にあった陽光は傾き始めていて、空を茜色に染めていた。
「そんじゃ、この話はここまでとして……そろそろ解散するか」
「そうだね。あ、忘れないうちに連絡先交換しとこう」
「了解」
そうして二人は連絡先を交換し終えて、ユウは満足げにカズヤと別れた。
一人になったユウは少しだけ余韻に浸りながらゆっくりと歩き出した。
「カズヤも立ち直って前に進んでるんだよね。僕も頑張らなくちゃ」
ユウのリヒトに向ける感情の整理も、この体での未来の事も、これからの生徒会の活動も、どれもいい加減覚悟を決めないといけないなと改めて思い直したユウは、気を入れなおして自宅へと戻った。
見切り発車したこの作品、プロットどころか登場人物も決めていないから行き当たりばったりの作品です。
ここだけの話、初期設定は主人公がTSして学校に通うぐらいしか考えてなかった。




