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第十八話 四月十二日(金)少女は部活へ参加した

一応『ご都合主義』キーワード追加しておきました。

『部活動支援部』の室名札を見つけた二人は、そのまま部室に入ろうとした瞬間に扉が勢いよく開かれた。


「やあ良く来た二人とも!君らで最後だ、入りたまえ!」


「「あ、はい」」


「なんか求めてたリアクションと違う!」


部長の滝沢アカリは驚かそうと扉の前に立ち塞がるように飛び出したが、二人に真顔で対応されて逆に揺さぶられたアカリは渋々道を譲る。

ユウとリヒトは彼女の不満げな顔にくすりと笑うと、横を通り抜けて部室に入る。後から頬を膨らませたアカリが入り扉を閉めた。

部室内には二十人弱が集まっており、やや狭い空間で顔合わせが行われた。


「じゃあ新入部員自己紹介よろしく!」


「初めまして!私は二年生の花咲サキです!」


「一年D組の矢吹ゲンと言います。よろしくお願いします」


「一年A組の佐々木ミワです」


「一年X組、高尾シンジ」


「一年C組、中野ソーゴです」


「一年B組、海原リヒトです。よろしく」


「同じく一年B組、佐倉ユウです」


「うん、ありがとう。私達も順に紹介しよう!まあ皆覚えられないけどね」


「部長の滝沢アカリと俺、副部長の吉野マモルだけは覚えておいてくれ」


そう言って全員が自己紹介を終えると、部活動内容についておさらいを始めた。


「じゃあ改めて部の説明を混ぜながら今後の動きを決めていくよ。

 まず、この部は他の部活動に対して雑用から臨時選手まで様々な形で支援していく部だ。とりあえず、新人さんにはマンツーマンで付いてもらってやり方を覚えてもらう」


「それと、個々でやれることが違うから先にこれを記入してくれ」


副部長から配られた二枚の紙に、新入部員達は目を通した。

一枚目には運動系の野球・サッカー・テニス等々が並んでいた。二枚目には文化系の裁縫・吹奏楽(楽器記入欄付き)・演劇等と、その他雑務として書類整理・掃除・交渉等もあった。

それぞれ『得意・可能・不得意・未経験』の変則四段階評価式でチェック項目があった。


「得意は本業と同じぐらいの力量を自負するってレベルね。逆に不得意はいくらやっても足を引っ張る自信があるレベルね。

 数回しかしていなくてわからないのは未経験にチェックでオッケー!」


「五分くらい時間を取るから今書いてくれ」


各々筆記用具を取り出して記入を始めた。そんな中、ユウは挙手をする。


「佐倉さんどうしたの?」


「僕は諸事情で一週間前に男から女になったもので、この体での経験はほとんどないんですけど…」


「ええっ!?…………とりあえず男の時の経験も含めて書いて」


「わかりました。色々とすいません」


ユウが事情を話せば、リヒトを除いた新入部員含めた周囲の部員全員が驚愕してユウを見た。特殊すぎる事例だと自覚しているユウは申し訳なさそうに謝ってから記入を始めた。

全員が書き終えて回収されたプリントを、アカリとマモルが流し見る。


「今年は豊作ね。そう思わない?」


「そ、そうだな。では各員補助についてもらう部員を振り分けよう」


不安げに場を見守る新入部員を傍に、二人はプリントを出来る系統の似た部員に渡していく。

渡された先輩部員に名を呼ばれて順に組み合わせが出来ていく中、アカリは最後の一枚を離さずにいた。


「佐倉さん。貴方の担当は私ね」


「えっ、大丈夫なんですか?部長って忙しいんじゃ…」


「平気よ。それに、生徒会役員ならこっちの方が都合良いの」


アカリの言葉に再度視線が集中する。中にはあんぐりと口を開けて固まる先輩部員もいた。

周囲の様子に苦笑しながらアカリは説明をする。


「この子が噂の推薦者よ。朝に生徒会の声明文出てたでしょ」


「「「ええっ!!?」」」


信じられないような顔で叫びをあげる数名の先輩部員達。流石に呆れてきたアカリはそれらを放っておいて話を戻した。


「まあこいつらは放っておくとして、話を戻すわよ。

 一応このアンケートを基に貴方達も部員一覧に載せるわよ。そこで、これから皆のスマホにこのアプリを入れてもらうわ」


そう言ってQRコードを差し出したアカリ。促されるまま、新入部員がアプリを入れた。


「じゃあアプリを立ち上げたら設定していくわよ。よく聞いてね」


画面に映ったのは、簡単なプロフィール画面だった。性別や名前・学年など基本的な情報に加えて、得意分野である運動系と文化系の分類、そして備考欄があった。

備考欄には、『部活内で何が得意か』『何をやりたいのか』などの質問があり、それに答えて記入すればいいようだ。


「これでよしっと!詳細は後で私が入れておくからこれで登録終わり!」


「皆はこのトークアプリをやっているか?部のグループに招待しておきたい」


部員達は頷いて各自トークアプリを開いてQRコードの画面を差し出す。全員の登録を終えると、マモルがスマホを操作する。

すると、部室内でたくさんの通知音が鳴った。


『部活動支援部グループに招待されました』


「質問があればトークに落としておけば、誰か暇な奴が答えるだろう。問題が発生したら俺か部長に個人トークで頼む」


「じゃあ今日はここまで!来週からはそれぞれペアで相談して動いてね。以上解散!」


解散の声と共に、新入部員達は帰宅の準備を始める。だがその途中、シンジは副部長に声をかけた。


「副部長、一つ聞きたいことがあるんですけど……」


「ん?どうした?」


「豊作と言われたことに対してどもったのは何故なのか気になったので理由をお聞かせ願えますか」


「……いや、それはだな……二連続の衝撃に立ち直れなかったんだよ」


マモルはチラリとユウの方を見る。


「別に隠す必要無いし、どうせアプリの詳細に載るから見せるが……ほれ」


「一体どういう……ッ!?なんですかこれ!」


シンジが渡された紙――ユウのアンケート用紙に目を通すと、驚きの声が抑えられなかった。不思議そうにやり取りを見ていた周囲も、彼の声に目をしばたかせてそちらを見た。

それに気づかぬシンジは思わずユウに詰め寄り問いただした。


「これ未経験がほとんど無いじゃないですか!」


「運動系も文科系もある程度小さい賞は貰える程度にやってたから」


「…調べれば出てきますか?」


「うん。大体県内レベルの入賞ばかりだから、隅に乗る程度だけどね」


「凄いな……」


シンジは感嘆のため息を漏らしながらユウを尊敬の目で見た。他の部員も同じように驚いている。

そんな彼等を見て、アカリは満足げに微笑んだ。


(ふふん!私の目に狂いは無かったわね。私の身に余る人物な気もするけど)


実はアカリは、このユウという少女を入部させるにあたって生徒会から彼女の経歴を聞かされていた。

彼女は、男時代に団体戦で助っ人として海原君と入って数々の勝利を勝ち取ってきたとかなのだとか。

文武両道にして才色兼備。それが彼女に対するアカリの評価であった。

今はただの少女にしか見えない彼女に秘められたポテンシャルがどこまでのものかわかりかねていた。


「まったく……。底知れないなぁ」


先輩部員に質問されてタジタジになってるユウを見ながらアカリは呟いた。

五十ある種目に対して九割が可能にチェックが書かれたユウのアンケートを思い浮かべて、一躍人気者になった彼女を暫く眺めていた。

その後、疲弊したユウの姿に見かねてリヒトが強制的に辞めさせた。静かに怒れるリヒトの姿を見た部員達は、以降リヒトを怒らせないようにびくつきながら接するようになった。

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