第十七話 四月十二日(金)少女は注目を浴びた
ご都合主義もタグに追加した方がよろしいでしょうか。
一人の少女を陥れて少女の仲間を威圧した翌日、いつもの様にリヒトと共に登校し、勧誘期間が終わって静かになった校門を通って平穏に教室まで着いた。
「おはようございます」
「おー佐倉ちゃん!聞いたぜぇ?昨日の騒ぎ!」
「お前……本当に凄いな」
「大丈夫だったのか?」
朝のホームルームが始まるまでの時間、ユウとリヒトの席の周りに集まってきたクラスメイト達はユウの昨日の騒ぎを聞いて盛り上がっていた。
予鈴が鳴ってクラスメイトから解放されたユウのスマホが短く震えた。担任がまだ来てないのを確認してからユウはスマホを覗いた。
『今朝、広報から生徒会の声明文が発表されたから確認しておいてね』
カレンからの通知が入っていた。彼女を見ればユウの視線に気づいて小さく手を振った。ユウが微笑んで返すと、彼女は嬉しそうに笑っていた。
(今日は部活動の集まりがあるけど、掲示板に寄ってからにしよう)
そんなことを考えている間に担任がやってきて、ユウは思考を中断させられた。
「今日は教科書配布するよ!」
HRを始めるなり、矢吹の言い放った言葉に数人苦い顔をする。
「そんな嫌な顔している君達には教科書を運んでもらおうかな。台車が足りなくって取りに行かなきゃきけないのよ」
「「「えぇ~?」」」
「なら課題を出すからそっちやってる?」
「「「運ばせて頂きます!」」」
「よろしい。じゃあ行くよ。皆は静かにしててね!」
そう言って矢吹は勉強嫌いの生徒数人を連れて行った。
扉が閉められた途端、クラス中の視線がユウへ向いた。矢吹からくぎを刺された手前、騒ぐことを恐れて視線のみを送ってくるクラスメイト達にユウはため息を吐く。
「最初に言っておくけど、これは僕と彼女の問題でもう終わったことであって勝手に何か動いて僕含めた関係者の顔に泥を塗る行為は絶対にしないこと」
そう言って立ち上がると、ある程度深い内情はぼかして顛末を話した。風紀委員に連行されるまでの流れを話し終えると、カレンが立ち上がった。
「この話に出てきた噂に対しての生徒会からの声明文が今朝発表されています。皆さんも後で掲示板の方確認してくださいね」
「「えっ」」
生徒会がそこまでしてユウの噂を振り払おうと動いたことに驚きの声が上がる中、カレンは一仕事終えたように満足げに自分の席に戻っていった。
そうしてクラスメイトの疑問に答え終えたユウが席に着くと、タイミングよく扉が開いた。
「おまたせ!教科書が届いたよ!…あっ、そこに置いておいて。ありがとね」
一人一つ両手で抱え込んでいた段ボール箱を教卓の脇に置いていく。
矢吹は近い箱から順に、中の教科書を配布していった。配り終えた大量の冊子を並べると、それぞれの説明を始めた。
「まず国語、数学、英語、歴史・地理、公民、化学、生物、保健体育、家庭科、情報、道徳の必修科目。美術、工芸、音楽、書道が選択科目だよ。選択科目は決まった後に各授業で配られるからここにはないよ。じゃあまず国語から―――」
教科ごとにやる内容、担当の先生等々を説明していく矢吹だが、生徒達は先程のユウの話が頭から離れず上の空だった。
「……以上だけど、何か質問ある?」
一通りの説明を終えて問いかけるが誰も反応しない。仕方なく矢吹は次の工程に進める。
「じゃあこれから選択科目について説明するよ。まず―――」
黒板に選択科目の四科目を書いた。そのまま科目ごとの説明を終えると、記入用紙を配り始めた。
「この時間中に第三希望まで記入してね。ちなみに集計と調整に時間がかかるから、選択科目は二学期から始まります」
そして役目は終えたとばかりに矢吹は教卓の椅子に座り、教室内での自由行動を許可した。
教室内で飛び交う言葉は僅かに賑やかにし、選択科目に対して活気を見せていた。半数ほどは苦手科目に対する逃避の言葉が混じっていたが、矢吹は気にしないことにした。
無事全員が書き終えて、記入用紙が矢吹の元へ集まる。
「来週からは通常授業になるので、教科書とノートを忘れないように!」
チャイムが鳴り、同時に生徒達が動き出す。
「よっしゃー!飯だ!学食行こうぜ!」「弁当持ってきてない奴いる?一緒に食べようぜ!」「私も行きたい!」
ぞろぞろと学食組が教室を出ていく中、弁当を取り出したユウはリヒトに相談する。
「食べ終わったら掲示板寄っていい?声明文確認したいんだけど」
「ああ、構わない。俺も気になっているからな」
「ありがとう」
そう言ってユウはリヒトの分の弁当を渡した。
途中から購買でパンを購入したタイチが合流し、食事を終えてユウは三人を誘った。カナとリサは今朝のうちに既に見ていたようで、二人とは教室で別れた。
***
掲示板に貼られている紙を確認しようと廊下に出たユウ達三人だったが、掲示板の前には人垣ができていた。
「おい、これって……」「やっぱりそうなんじゃない?」「いやでもさすがに……」「じゃあ何だって言うんだよ」
人混みの中から漏れ聞こえてくる会話を聞きながら、三人とも困惑していた。
(まさか、ね)
「……とりあえず行ってみるか」
「……遠くから覗くだけにしない?」
「それしかないな。入れそうにないし」
人混みを避けるように移動してようやく見えたその掲示物に、ユウは目を見開いた。
「えっ!?」
「どうしたんだユウ、何かあったのか」
「いや、僕の顔写真がでかでか載ってたから………あっ!」
思わず大きな声を出したユウに、周囲の視線が集中する。ユウが失敗を悟り観念していると、周囲の生徒は掲示板とユウを交互に見た後再びユウに固定された。
「えっ、あの人が佐倉ユウ?」「マジか」「嘘でしょ、本人?」
ざわめきが大きくなり、リヒトとタイチも気づいた。
「ここまできたらいっそ突っ込むか」
「…そうだね。行こうか」
覚悟を決めてユウが掲示板へ歩みだすと、人混みが左右へと避けていく。さながらモーゼのごとく割れる人混みに、不本意ながら少し楽しんでるユウは笑みを浮かべた。
「えっと、生徒会からの声明文は……あれかな」
掲示板の真ん中辺りにある貼り紙に『生徒会役員推薦者について』と書かれた見出しの下には、候補者としてユウの写真がでかでかと印刷されていた。
「……確かにこれは顔バレするわなぁ」
呆れ半分感心半分の感想を漏らすタイチの横で、リヒトは眉間にシワを寄せていた。
「……ユウ、お前いいのか?だいぶ騒がれてるぞ」
「んー、大丈夫。どうせなら顔を売っていこうか」
ユウは言うが早いか集まっている人混みの方に振り返ると、自信に溢れた笑みを浮かべた。
「この度はお騒がせしました、佐倉ユウと申します。今期生徒会役員の一員として精一杯務めさせていただきますので、皆様よろしくお願いします!」
ユウの挨拶を聞いた生徒達は一瞬静まり返ったが、すぐに歓声と拍手が巻き起こった。ユウは振り返って二人にこっそりと話す。
「今のうちにここから逃げよっか」
「俺は部活の方向違うからここでお別れだ」
「おけ。またな、タイチ」
そういって人混みが割れるように左右に広がってくれるうちにその場を足早に去っていった二人。あまりに自然な姿に周囲の生徒がリヒトの存在に気付いた頃には遠く離れていた為、話しかけられる者はいなかった。
悠々と掲示板から抜け出した二人は、そのまま『部活動支援部』の部室に向かった。
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