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第十六話 四月十一日(木)少女は売られた喧嘩を買った

区切りが悪くてやや多めになりました。

ちょっとシリアス入れてみました。

藤堂からのメールから一夜明け、ユウはいつも通りリヒトを盾に勧誘の人波を潜り抜けて教室に着いた。


「おはようございます。佐倉さん、海原さん」


ユウとリヒトが机に荷物を置いたところで声を掛けられた。二人が振り向くと、藤堂が笑顔で立っていた。


「おはよ、藤堂さん」


「おはよう、藤堂」


「昨日のことなんですけど、ちょっといいですか?」


そう言いながら藤堂は二人の近くまで寄ると、スマホを取りだして見せた。


「まずはトークアプリの登録をしましょう」


「俺もか?」


「ええ。あなたには佐倉さんのことで聞く時があるかもしれませんし」


「了解。…登録完了っと」


二人と登録を終えた藤堂はスマホを操作すると、呟きアプリを開いた。


「昨日連絡を受けてから一夜明けた今朝の生徒の呟きの一部です」

画面には十数個の呟きコメントが映っており、軽く拝見するだけで皆似寄った反応をしていた。


「…でもこの二つは違うね。書き方から同じ新入生かな」


「ご明察。過去のコメントから一年であることは確かです。他に確認できたのも一年ばかりなので、

声明文が周知されるまでは気を付けてくださいね」

そう言いながらスクロールして見せてくれた内容には愚痴のようなものから陰湿なものまであった。


「これは一人にはならないように立ち回らないとだね。完全に特定されてるみたいだ」


「ならカナとリサにも話しておくよ」


ユウは些か過激な発言をしている者が抱く自分勝手な欲望に身の毛がよだつ。リヒトも顔をしかめて嫌悪感を露わにしている。

そんな二人の様子を見た藤堂はクスッと笑みを浮かべていた。


「私に出来るのはここまでです。後は頑張ってください」


「ありがとう、すごく助かったよ。……あ、藤堂さん。一つだけ聞きたいことがあるんだけどいいかな」


「どうしました?」


「カリンって呼んでもいい?」


「…私で良ければ喜んで!ユウと呼んでも?」


「うん、よろしく!」


「じゃあ、私はこれで失礼します。何かあったら相談して下さいね」


そう言うと藤堂は足取り軽く颯爽と自分の席に戻っていった。隠し切れていない喜色が浮かんでいる彼女にリヒトは苦笑した。


「……あいつめっちゃ浮かれてるな」


「あはは、そうだね」


リヒトの言葉に渇いた笑いをするユウは一転、真顔でリヒトを真っ直ぐ見つめる。


「…今日、相手は放課後に接触を図ると思う。対応の準備をしといてね」


「わかった」


予鈴と共に担任の矢吹が入ってきて二人の会話は終わった。

昼休みになり、教室でいつものメンバー(隣のクラスからタイチもやってきた)で昼食を食べている時にユウは話題として先日のことを切り出した。


「三人にも耳に入れておいてほしい事があるんだ」


カナ、リサ、タイチに噂の事と生徒会の対応をユウは簡単に説明した。三人とも噂を耳にしていたのか、状況を飲み込むのは早かった。


「むかつくけど、相手にするだけ無駄だよね」


「生徒会を馬鹿にしてる自覚がないんでしょうね」


「俺のクラスにもいたな。それで、どうするん?」


三者三様に噂の元凶と踊らされている人に対して思うところはあるらしい。


「ユウとしてはやってくるタイミングで墓穴を掘らせるつもりだとよ」


「マジ?ユウにしては過激だね?」


「僕はソレを許すつもりはないし、敵対するからには陥れるつもりだよ」


計画を聞いた三人は驚いたが、思いを語るユウの顔を見て納得した。中学時代に二度だけあった事件の時に浮かべていた顔だと。その時の結末を知る三人は目配せをしてこの話を終わりにした。


「そういやユウとリヒトの弁当はおかずが同じだな」


「ああ、タイチは知らなかったっけ。昨日から僕が二人分作ってるよ」


「え?なにそれ羨ましいんだけど」


タイチは手元の菓子パンを見比べて物欲しそうにしている。リヒトは弁当をタイチから守るようにずらし、ユウは黙って首を横に振る。


「くっ、俺とて弁当がいいのに!」


「諦めて家庭的な彼女を作りなさいな」


「不純な動機じゃ見つからないだろうけどね」


「チクショウ!」


悔しがるタイチを見ていたカナとリサは追い打ちの言葉をかけてこれ見よがしに自分の弁当を食べた。リサは手作り、カナは母は作ってくれた弁当を一口食べて美味しいそうにする二人を見てタイチは項垂れた。

他愛ない会話をしながら食事を終えて解散すると、ユウは予定通り動き出す。


(さて、始めよう)


一人になったところで声をかけられたユウは、手に持っていたスマホを操作してから仕舞いゆっくりと振り向いた。


「初めまして、佐倉さん」


そこには一人の女子生徒が立っていた。


「初めまして。何か用ですか?」


「あなたにちょっと聞きたいことがあって来たんです。少し時間いいかしら」


ユウは相手の目的がなんなのかを察したので、あえて少し挑発することにした。


「いいですよ。ここで聞きます」


「……いえ、場所を移しませんか?ここは少し賑やかですから」


「そんなに時間は取れないのでこの場で無理なら日を改めて貰えますか」


「ほんの少しなのでお時間は取らせませんから!」


「そんなに人目を気にする内容なんですか?でしたらお断りしますね」


「…少しくらい良いじゃない!融通が利かないわね!」


案の定簡単に先ほどの態度を翻して激高し始めた女子生徒はユウの腕を掴もうと手を伸ばした。予測していたユウが軽いステップでその腕を避けると、女子生徒は更に怒りを露わにしていた。


「なぜ避けるのよ!大人しく着いてきなさい!」


ユウは怒鳴り散らす女子生徒の行動で野次馬が集まってきたことを確認した後、冷たく蔑んだ視線を彼女に向けた。


「ごめんなさい。僕は今あらぬ噂に踊らされてる人達に狙われてるようなので、接触は避けてるんです。先輩方は理解しているようなんですけど、一年生は生徒会に喧嘩売ってることがわからないみたいなんですよね」


「何がよ!貴方がいなければ私だって推薦されていたのに、どうして貴方なんかが!」


「…本当ですか?今の姿を見てとてもじゃないですけど基準を満たしていないように思えますが」


「貴方だってそうじゃないの!会長と中学が同じだからってだけで推薦されて、いい気になってんの!?」


ユウ達の言い争いに野次馬がざわめき立つのをユウだけは感じ取っていた。


「そもそも推薦を受けるには元々ある既定の基準値に満たした上で生徒会顧問を含めた生徒会全体の承認を得る必要があるんですよ」


「それが何よ!」


「僕は条件を満たしたから招待を受けただけなんですよ。それを否定するんですか?」


「……っ」


ユウの一言で相手は言葉に詰まった。ユウは話の流れを変えるために、相手に問いかけることにした。


「貴方はどうして僕を貶めようとするんです?」


「それは……」


「言えない事情があるならいいですけど、そのせいで会長にも迷惑をお掛けしているんですよ」


「……は?なんでそうなる訳?」


「僕の説明で納得出来るとは思いませんし、どなたかお願いできませんか?」


ユウの思った以上に凝り固まった思想にお手上げだと周囲に説明をお願いする。

野次馬をかき分けて現れたのは、風紀委員の腕章を付けた男子生徒だった。


「風紀委員の斎藤だ。生徒会に対する侮蔑的発言を含む様々な要因で彼女の身柄を拘束する」


「お手数をおかけしますがよろしくお願いします。彼女が更生出来ることを祈っています」


「何よ!放しなさいよ!風紀委員ならあっちを捕まえるべきでしょ!」


人混みから更に二人、同じ腕章を付けた女子生徒が現れて暴れる彼女を抑えつけた。


「一年F組松本リリ。君では彼女に関係なく生徒会に入ることは叶わない」


「えっ、なんで私の名前を…」


「根も葉もない噂は足が付く。君の仲間にも近々風紀委員からの通達があるだろう。話は指導室で聞こう。連れていけ」


未だに抵抗を続ける松本を引きずるように連れ去っていく。風紀委員の斎藤は周囲の野次馬を散らしてからユウと向き合った。


「今年も無事に問題児を確保できた。協力感謝する」


「僕の方こそ助かりました。今後ともよろしくお願いいたします」


「そうだな。生徒会役員になる君とは長い付き合いになる。こちらこそよろしく頼む」


互いに握手を交わしてからユウはその場を後にした。

昇降口で待ち合わせていたリヒトと合流した後、校舎を出て帰宅しようと校門に向かうユウの前に一人の女子生徒が立ちふさがった。


「……何か?」


「あんたは……リリの何を知って邪魔するのさ」


「何も。彼女は勝手な勘違いで道を間違えて周囲に迷惑をかけた。邪魔も何も、やってきた害意を振り払っただけです」


「そう……。なら、あの子にはもう関わらないでくれる?」


怒りに声を震える彼女はユウを睨みつける。ユウからしたら八つ当たりにしか見えないその姿に呆れるしかなく、吐き捨てるようにユウは言う。


「僕としては最初から関わり合いたくなかったので、彼女に言ってください。最後に……」


ユウは彼女に至近距離まで近づいてその瞳をのぞき込む。


「また僕の大切な人達を傷つけるようなら―――」


「ッ!!?」


「――僕の全てを以て相手をします」


覗き込むユウの瞳を見た彼女は激しく歯を震わせて恐怖に体を竦ませ、視線がユウから離せずにいた。忠告を終えたユウは翻り興味を失せたようにリヒトとその場を去った。

ユウから視線が切れた瞬間、彼女は腰を抜かしてその場に座り込んだ。彼女はしばらく動けず、恐怖に体を震えさせていた。


「ねぇ、大丈夫?」


そこに偶然通りかかった女子生徒が彼女を心配する。その声で我に返った彼女は涙を浮かべながら立ち上がって走り去っていった。


「あれ、行っちゃうの?どうしたんだろう……」


残された女子生徒は不思議そうに首を傾げていたが、気を取り直して帰路についた。

日付をサブタイトル(各話のタイトル)にすると、日を跨いだ表現が使えないことに気が付きました。

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