第十四話 四月九日(火)少女は部活見学に行った
GW後半になると月曜の恐怖に怯える日々になる…
生徒会室を後にしたユウは、リヒトの向かった部活動支援部の部室へ向かった。目的地に近づくにつれて、騒々しい音と声が耳に入るようになる。
ユウは発生源が目的の部屋からしていることに不安を抱きつつ、部室の扉の前に立ちノックをした。すると、中から返事が返ってきたのでユウはそのまま入る。
「失礼しま……うわっ!」
「ユウ!助けてくれ!」
「ひどいな。それでは俺達が君を苛めているみたいではないか」
「いや、この状況は違わないだろ!」
「ははは!それもそうだな!」
室内でリヒトと言い合っている二人の男子生徒は、リヒトを左右から腕を捕まえて拘束していた。
その正面で一枚の紙をひらつかせている女子生徒は入ってきたユウに気が付くとにこやかに挨拶してきた。
「やあ。今日は客が多いね。ここは部活動支援部の部室だよ。よろしく!」
ユウは一瞬固まってしまったがすぐに我に返り、差し出された彼女の手を握り返す。
状況を掴めないユウは、目の前にいる女子生徒に問い合わせる。
「えっと、リヒトは何故あの状態に?その入部届はリヒトのだし…」
「ああ彼の彼女さん?ごめんね有望そうだったからちょっと強硬手段をね」
「…彼女じゃないです。それより強硬手段っていいんですか?」
「大丈夫大丈夫!ホントに嫌なら先生に言えばそれでお終いだから」
豪快に笑う彼女は明け透けな性格のようで、あっけらかんと対処法を言っていた。それでもリヒトの内心を見透かすようにライン引きしているようで、彼女の観察眼が優れていることに感嘆の声が漏れた。
「凄いですね。そこまでわかっちゃうんですか?」
「まぁね。なんせ私は視るのが得意だから。それに彼は結構わかりやすいよ」
「へぇー。あっ、そういえば自己紹介がまだでした。僕は佐倉ユウといいます。彼とは幼馴染みで、様子を見に来たんですけど」
「そうなんだ。私は三年の滝沢アカリ。よろしくね。それで彼だけど……」
ユウの言葉を聞いた途端、急に真剣な表情になったアカリはリヒトの方を見る。そこには諦めて拘束されたまま無抵抗にしている彼の姿。ユウはリヒトの珍しい姿に笑みが零れる。
「そこのテーブルで話しましょ。彼も座らせて」
リヒトの入部届を渡されたユウはアカリが指した椅子に座ると、彼女の一声に簡単に解放されて納得いかない様子のリヒトが隣に座った。
二人が座って待つと、アカリは対面に座ってリヒトを拘束していた二人はその後ろでホワイトボードを準備していた。
「じゃあ改めてこの部活の紹介をするわ。ここは部活動支援部、文字通り他の部活に対して支援を行っているの。
支援と言ってもやることは様々で、雑用したり、助っ人として補欠入りしたりと、人それぞれ対応できることをするのよ」
アカリの説明と共に後ろのホワイトボードにまとめられた内容が書かれていた。
「基本的に個々で直接だったり人伝で依頼を受けて現場に行くから、この部室はあんまり使われていないわ」
「でも個々で受けてると部員の把握とか出来なくないですか?」
どの部員がフリーで時間が取れるかわからないのでは依頼とかも難しいのでは?とユウは率直に尋ねた。
「これはうちの部と各部活の部長と副部長が使える学園内用のアプリがあって、これを使っているのよ」
そう言ってアカリはスマホを見せた。画面には、コミカルなデザインで支援部進捗表と描かれた表があった。
複数人の名前の横に、『空き』『硬式テニス部』等と表示されている。横に、『依頼する』のボタンがあった。
「これで管理してるの。一応月終わりに報告会をしてるから、そのときくらいしか部員と顔を合わせる機会がないわ」
「なるほど。確かに便利ですね」
「でしょう?他にもいろんな機能があるから、今度教えるわね。さて、説明はこれで終了。ここまで聞いて質問は?」
リヒトは隣のユウを見て、少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「これは毎日活動してるんですか?シフトを組んでいるとかで休みはあるんですか?」
「うちの部は個人で都合の悪い日は定休日にできるし、一応月の半分はノルマとしてあるけどちゃんと理由があれば問題ないわ」
それを聞いてほっとしたリヒトは入部届を提出する。
「なら入部します」
「良かった。貴重な運動系得意そうな子が入ってほっとしたわ」
そう笑うアカリの顔には端から分かっていたように自信に満ちていた。リヒトの入部が決まった中、ユウはアカリの説明でこの部活に興味を示していた。結論を出したユウは鞄から入部届を取り出した。
「僕は事情があって半月のノルマが厳しいかもしれないのですが、入部を許可してくれますか?」
「いいわよ。別にノルマは目安だもの厳しいものでもないし……えっ!?」
「ん?ユウも興味持ったのか?」
「ここなら都合を合わせやすいかなって思って」
ユウから渡された入部届を見て固まるアカリ。気にせず会話していた二人は、急に驚いたアカリを見て不思議そうにしていた。よく見れば、後ろの男子生徒二人も覗き込んだ姿勢で固まっている。
「どうしたんだ?ユウ、入部届になんかしたのか?」
「あー、僕っていうよりシズク先輩かな」
硬直の解けたアカリはテーブルから身を乗り出してユウに近寄った。
「貴方っ、生徒会って!しかも会長の直筆!?」
「あ、はい。ここに来る前に入会の旨を伝えてきました」
「……嘘でしょ」
ユウの返答を聞いたアカリはその言葉を最後に再び動きを止めてしまった。
「あのー?」
「ユウ、お前はやっぱり生徒会に入るんだな」
「ばれてた?……まあ僕も前に進まないとかなって思っただけ」
アカリは我に返ると、深呼吸をしてからユウとリヒトに向かって手を差し出した。
「……これからよろしくね、二人とも。とりあえず受理はするけど、新入生の活動は今週の金曜からだから、その日にここに来てちょうだい」
「あっ、こちらこそ。僕は生徒会がメインになるのでご迷惑をお掛けします」
「よろしくです。俺は委員会もないんでバリバリやっていきます」
アカリの手を取って握手を交わす三人。こうして『部活動支援部』は新しくメンバーを迎え入れた。
二人が部室を出た後、アカリと男子生徒二人は密かに相談した。
「部長。あの子やばくないですか?」
「生徒会長の圧がひしひしと感じるんですが…」
「私だってビビったけど、あの子がいい子なのは確かだから問題ない……はずよ」
そう自信なさげにいうアカリの手にある入部届には、生徒会所属の印と共にシズクの字で『私の大切な後輩を頼むぞ』と書かれていた。
その字を再度確認した三人は深いため息を吐いた。
そんな部活動支援部での一幕を知らぬユウとリヒトの二人は、勧誘の激しい校門前を通り抜けてのんびりと帰路についたのだった。




