第十三話 四月九日(火)少女は生徒会室へ行った
書き方が変わっていたりするかもです。「」や()の使い方とか…
あれ?( )←これ最近使った記憶が無い。気のせい?
「さあ、冊子持って校内案内行くわよ!」
教室の扉を勢い良く開けて中には入らずに叫ぶ矢吹。素直に教室を出ると、鍵を閉めてから歩き出す。素直に整列してついていくと、チラッと振り返った矢吹が驚いていた。
「皆いい子過ぎない?良いんだよ。ありがたいけどさ、覚悟してた分拍子抜けしたからついね」
そういって最初に案内したのは食堂。理由は一番利用回数が多いだろうかららしい。中々の在籍人数を誇るこの学園では当然食堂も広く、売店も含まれているここはサッカーコートが入りそうなほどの広さだった。
「メニューも多いし美味しい!値段もお手頃かな」
「お昼は学食派が多いわね。別に弁当でもここで食べても問題無いわ」
「そうそう。朝も売店はやってるから買えるけど、朝錬の終わるタイミングは混むから気を付けてね」
矢継ぎ早に説明された生徒は昼前もあって何人かはメニュー表にくぎ付けだった。ガタイが良い男子ばかりの中、一人カナが紛れていたのをユウは見て見ぬふりした。
「とりあえずざっくりこんな感じね。他にも施設はあるし、どんどん行くわよ」
次の場所へ移動を始めると、メニューを見ていた生徒たちは名残惜しそうに進みだした。肩を落とす男子に後ろから見ていた数人の女子が声に出して笑った。
次に案内されたのは体育館。二階にはギャラリーもあり、一般的な体育館である。だが、体育館を案内されたのは二度目だった。
「ここが第二体育館ね。第一は見たと思うけど、こっちは後から作られたから比較的設備は新しいわ」
クラス一同慣れてきたのか、平然と話を聞いている。
次は図書室。ここの所蔵している量が図書館並みらしいと、ユウは前のめりに説明をしていたリサを思い出しながら見渡す。
「結構広いでしょ。本好きには天国みたいな所だから、是非とも通って欲しいところね」
「蔵書数は?」
「んー……確か五万冊くらい?正直私も見るのは初めてなのよね」
「ごまんっ!?」
いつの間にか後ろに来ていたリサから小声で言われた所蔵数に驚く。
そんなことしているうちに案内は進む。
特別室の集まる中央棟、入学式で一度来た講堂、生徒会室など。そして最後に案内されたのは校舎裏にある部室棟。ここには運動部と文化部の部室が集まっており、部室はどこも同じような作りになっていた。
「これくらいかしらね。それじゃ教室に戻るのと、この後ある部活動説明会の会場にそのまま向かうのどっちがいい?」
説明もなしに急に部活動説明会の存在を明かされて、戸惑う生徒たち。そこに一人が挙手した。
「説明会はもうすぐなんですか?」
「そうね。後三十分もないくらいかしら」
「ならトイレ休憩を挟んで向かうんでいいんじゃないですか」
発言した生徒、源藤は見渡してクラスの反応を見た。ユウは流石学級委員長を内心拍手しながら視線があった源藤に肯定の意を込めて頷いた。
そのまま源藤の案は採用され、近場のトイレを案内してから会場である講堂へと向かった。
***
部活動説明会が始まり、運動部から文化部まで一組三分で忙しなく紹介された。紹介されたのは部のみで、同好会は最後に簡潔に名を読み上げただけだった。
何事もなく終わり、教室に戻ると矢吹が一枚の用紙を全員分配った。
「それは読んでわかる通り入部届。今日の午後から三日間の木曜日まで部活見学が自由になるから、好きに見て回ってください。お昼に学食も開放されてるから寄ってもいいわよ。それじゃ解散!」
思い思いに教室を出ていくクラスメイトをしり目にユウはリヒトに一つの袋を差し出した。
「これ、食べて」
「えっ!いいのか!」
「別に朝ごはんいつも作ってるからそんな負担にはなってないからね」
恥ずかしそうに差し出された袋を見たリヒトは満面の笑みでお礼をして早速中身を取り出した。
三段の青色の弁当箱に詰められた白米とおかずの数々を見て瞳を輝かせるリヒトを、ユウは嬉しそうに眺めていた。
「僕も食べよっと」
リヒトに渡した袋とは別の袋を取り出した。一回り小さい二段の弁当箱にリヒトは驚いた。
「そんな量で足りるのか?!」
「うん。この体はそんなに入らないみたいでね。それより食べてみて。口に合えばいいけど」
「ああ、いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
リヒトは弁当に箸を伸ばし、唐揚げを口に運ぶ。サクッとした食感の後、肉汁が口の中に広がり、味が染みる。
「ユウの料理はやっぱり美味い!」
「ありがと。そんなに美味しそうに食べてくれると作り手としては嬉しいな」
「いや、本当に美味しいよ。毎日食べたいくらいだ」
「…いいよ。毎日作るね」
世辞ではなく本音で言ったリヒトの言葉に、ユウは本気で作ることを決意した。
ただの願望が漏れただけで実際は無理だろうと思っていたリヒトは驚きながらユウを見る。彼女の眼は真っ直ぐリヒトへ向けられていた。
「本当か!?」
「本気だよ。あ、でも食材とか買わないとダメだから……そうだ。今日の帰り一緒にスーパー行っていい?」
「行こう!荷物持ちなら任せてくれ!」
ユウとリヒトは握手を交わす。傍から一部始終を見ていたリサが口を出す。
「バカップルみたいね。ユウは最早新妻のようで見てるこっちが赤面しそうよ…」
「……そっか。僕は婿じゃなく嫁に行くのか」
「あら、否定はしないのね」
「まぁ……悪くないかもね」
リサは頬に手を当て、弁当を食べているリヒトから視線を外さないユウを生暖かい目で見つめている。
「リヒトの胃袋を掴んだわね。これはもう決まりかしら?」
「んー、僕の気持ちの整理がまだだからそっとしといて」
ユウはそういって止まっていた箸を進めた。代わりにリヒトが食べ終えて、リサと雑談を始めた。
二人は昼食を終えると、荷物を持って教室を出る。ユウは生徒会に、リヒトは部活動支援部に向かう為途中で分かれた。
久しぶりに一人で行動しているユウは新鮮な気持ちで廊下を歩く。そのまま生徒会室に着くと、ノックをして返事を待った。
「どうぞ」
中からは聞き覚えのある声が聞こえてきたのでユウは扉を開ける。中にはいつも通り書類仕事をしている生徒会長がいた。ユウは軽く挨拶をする。
「こんにちわ、シズク先輩」
「ようこそ。今日は君一人かな?」
シズクはユウの後ろを確認して、誰もいないことを不思議そうにしていた。
「ええ、用事があるのは僕だけですから別行動してます」
「そうか。それで、ここに来たってことは答えが聞けるのかな?」
シズクは筆を止めてユウを楽しそうに見つめる。彼女の顔は確信めいた顔つきでユウの言葉をジッと待つ。ユウはそんなシズクに対して敵わないな、と内心苦笑いしながら思いを告げる。
「はい。不慣れな点はあると思いますがよろしくお願いします!」
「ありがとう。私は君を歓迎するよ」
「シズク先輩、改めてよろしくお願いします」
ユウは右手を差し出して握手を求めた。シズクはその手を握り返し、お互いに笑顔を浮かべる。
「さて、では早速だが君の入部届けを貸してくれる?生徒会は忙しいから兼部するときはこっちに優先してもらうよう一言記しておかないといけないんだ」
「はい。えっとこれですね。でも、僕は正直部活やれる余裕ないですよ?」
「大丈夫だ。その辺りの事は私に任せてくれたまえ」
ユウは言われた通りに記入された用紙を渡す。受け取ったシズクはサラサラと書き込んでいく。
「これでよしっと。それじゃあ来週の月曜日から来てくれ。放課後にメンバーの顔合わせをしよう」
「わかりました。貴重なお時間を頂きましてありがとうございました」
「やめろやめろ。私とお前の仲だ、これからもよろしくな」
「はい!」
ユウは元気よく返事をして生徒会室を後にした。その後姿を見送るとシズクは口角を上げて笑う。
「昨日の今日であの顔になるか……。ふむ、これは面白くなりそうだ」
再び仕事に戻ったシズクの表情は先程よりも明るくなっていた。




