第十二話 四月九日(火)少女は委員会の加入を避けた
どうせなら決まったタイミングの方がいいかと正午に合わせました。
GW後の更新は、ペースが不明なのでどの程度の頻度になるかわかりません。
ご了承ください。
帰り道をサユリに見られて家でからかわれて逃げるように就寝した次の日。
ちょっと早めに起きて支度をしてからいつもの様にリヒトと合流して登校していると、校門から昇降口にかけて沢山の人で賑わっていた。
「なにあれ?」
よくよく見ると色んな服装の人がいて、この集まりが部活勧誘だと気づく。
「そうか、ユウは昨日の一件があって忘れてたか」
「あー……うん、すっかり忘れてた」
「こりゃ大変だ。あの人ごみの中じゃ通れないかもな」
「それは嫌だなぁ……」
ユウは人混みが苦手なので、できれば避けて通りたかったのだが、流石にそんな事は言ってられない。仕方なく覚悟を決めると、リヒトの背に隠れて制服の裾を掴んだ。
「リヒト、ゴー!」
「まあそうだわな。離すなよ」
小柄なユウでは運動部の勧誘に飲み込まれるのは簡単に想像出来るのか、リヒトは苦笑しながら盾になって進む。
「大丈夫か?」
「うぅ~……」
人の波を掻き分けて何とか校舎内にたどり着くと、既に体力を使い果たしたユウはふらつきながらも自分のクラスを目指す。すると廊下の先から誰かが歩いてくるのが見え、ユウは咄嵯にリヒトの後ろに隠れてしまった。
「おや、おはようございます佐倉さん」
「あ、はい。おはようございま……」
挨拶されたので反射的に返事をして顔を出すと、そこにいたのはクラスメイトの藤堂カレンだった。
彼女はリヒトに隠れていたユウと目が合うなり微笑んだ。
「佐倉さんは朝の洗礼を浴びたみたいですね」
「……知ってたんですか」
「はい。この学校の先輩から前々に聞いてました」
カレンは先輩達からの情報を事前に仕入れていて、朝錬中のほとんどいなかった時間帯に来ていたらしい。恨めしそうに見つめるユウに藤堂は思わず笑みを零す。
余った時間で他クラスの友人と話に行く途中だった藤堂はユウの頭を軽く撫でてその場で別れた。
「…リヒトといい頭を撫でるのは何故?」
「俺は無意識。気づいたら撫でてた」
「なんか温い眼差しだったんだけど」
「まあ藤堂の場合、ユウのいじけた姿に心打たれたんじゃないか?」
「……保護欲に?」
「それもある」
「えぇ……そんなつもりなかったのに」
「とりあえず教室行くか」
「はーい」
二人して教室に入ると、ユウは自分の席に座ってリヒトは隣の机に座る。周りを見ると、もう半分程来ていた。だがもう始業十五分前でこの人数は少ないだろう。
「あれかな。皆勧誘に塞がれているのかな」
「多分そうだろ」
心配する二人の想像通り、まだ教室にいない者達は昇降口にたどり着けずにいた。予鈴のチャイムが響くと、蜘蛛の子を散らすように勧誘していた先輩達が立ち去った。
数分後にはクラスメイトが次々と入ってきて、教室内に疲れた表情の人で溢れた。
「あー……やっと終わった」「今日も一日頑張るか」「…疲れた」「す、凄かったね」「汗臭かったー…」
教室内の席が埋まり始業のチャイムが鳴ると同時、担任の矢吹が入ってきた。
「皆おはよう!朝の洗礼にだいぶ絞られたみたいね!次代の後輩が出来たら教えるのは自由よ!」
開幕教室内を見渡して疲れた顔ぶれを見たのだろう、清々しいほどに眩しい笑顔で挨拶してきた。
「今日は入学二日目!ということで今日は決めること決めていくわよ!」
黒板には、『委員会』と無駄に達筆な字で書かれていた。その横にいくつもの委員名が並んでいる。
「まず最初に委員会を決めます!」
矢吹の説明では、この学校の委員会は人数の割に少なく、七個らしい。委員会は部活よりも優先されるようなので、活動が活発な部活に入る予定の人は気を付けるように注意を促した。
学級委員、風紀委員、図書委員、保健委員、環境委員、体育祭実行委員、文化祭実行委員と書かれた下に二つずつ点を書いていく。
「ちなみ全部で十個、二人ずつ入ってもらうからよろしくね」
「先生質問です」
一人の男子生徒が手を挙げて発言の許可を求める。
「何?」
「運動部に入ろうと思っているんですけど、どの委員会がいいとかありますか?あと活動時間も」
「ああそうよね……。うーん、基本的に全部放課後ローテーション制だから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思うわ。ただ、風紀委員は活動多め、体育祭実行委員と文化祭実行委員は当日の三か月前から激務になるかな」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。他に何かある?」
矢吹の言葉に反応する者はいないようで、全員首を振って否定した。
「この学校の委員会は内申点高いって評判だから、是非やってみてね。じゃあ順にいうから挙手してね」
そう言って矢吹が教室を見渡して、風紀委員から始めた。
最後の内申点のくだりで目の色が変わった人がちらほらといたらしく、スムーズに決まっていく。
最後の文化祭実行委員まで淀みなく決まっていき、ホクホク顔の矢吹は準備していた十枚そこらを束ねた冊子を前から配っていく。
「とんとん拍子で進んでくれて助かるわ!次はこれ、学校についての説明よ」
校内の施設について書かれていたり、教師陣の紹介と一年生の授業を受け持つ先生の挨拶が入っていた。後半のページには部活動紹介で埋められていた。同好会含め五十近くあるそれがびっちりと紹介されており、クラス全員その多さに唖然とした。
一週間は部活動勧誘期間なのでじっくり探してね、と矢吹は言うと部活の紹介はしなかった。
そのまま学生証を渡されてから校内を実際に歩いて紹介することになった。
「案内は休み時間空けにしましょ」
そう矢吹が言った直後、チャイムが鳴った。ユウが一息吐くと、あっという間に教室内が騒がしくなっていた。
「二人は委員会入らないの?」
後ろからやってきたカナとリサは、ユウとリヒトの机に腰掛ける。
「リサは図書委員だっけ。カナはテニスやるから入らない感じ?」
「正解!全力で取り組むから、兼任でやれる自信ないもの」
「リヒトは前から委員会嫌いよね。……そういえば昨日うちのクラスに生徒会の勧誘があったらしいわね」
そういいながらユウをジッと見つめるリサ。あの日、教室には数名残っていたまま行われた勧誘だった為あっという間に噂が広がっていた。
「なんでも会長自らやってきてべた褒めしていったとか。旧知の中で好待遇の扱いを受けていたとかもあったわ」
「…保留中です。噂早くない?」
「そりゃあんな大声で勧誘されたんだもの。知らない人の方が少ないんじゃない?」
「まあ、うん。そうなんだけどさ」
ユウがリヒトに救援の視線を向けると、目をそらしながら頬を掻いていた。
「……ユウは割と前向きに検討してるだろ。俺とてなんかの部活入るか」
「えっ、リヒトが一つの部活に!?」
中学時代、しっくりこないとかいって色んな部活を転々としてたのにっ、と驚愕するユウ。リヒトはバツが悪そうに頭を掻くと、先ほどの冊子の一ページを指差す。
「えっと、『部活動支援部』?『種目別に派遣して他の部活動を支援しています』って、これなに?」
部活名と紹介文を読んでもよくわからないまま情報を探す。するとリサがあることに気付いた。
「『所属人数 運動系三人、文化系八人』ってこれ外部助っ人として派遣してるのかしら?」
「たぶん。一応一回部室にいって確認はするけど、本当なら俺でもできそうだなって思って」
「へぇー、そんな部もあるのね。よく見つけたわね」
「そうそう。一昨年設立したばかりで、部員集めてるみたい。それに『運動得意な男子歓迎』だってさ」
「ユウは生徒会入りたそうにしてたし、負担をかけたくないしな」
そう言いつつユウの頭を撫でる。その優しさを甘受していると、リヒトが少し視線を逸らしたことをリサは見逃さなかった。
「ふーん。生徒会はほぼ毎日あるって聞くし、帰りも遅いんだろうねぇ」
「ッ!?」
リヒトが動揺して手の動きが止まる。リサの言葉で気が付いたカナも追撃する。
「助っ人を呼ぶような運動部なら大体下校時刻までやるもんねぇ」
「……リヒト?」
先ほどの言葉とリヒトの動揺具合から図星だと察するユウ。言葉を紐解いていくと、まるでユウの帰宅時間に調整しようとしてるみたい。思わずユウはリヒトの顔を覗けば、照れた顔が映る。
「い、いいだろ別に。ユウを一人で帰すのが嫌なだけだ」
「わぁ、惚気られた」
カナは呆れ顔でリヒトの背中を叩くと、リサはニヤニヤしながらユウを肘で突いた。
「……ユウ、良かったわね」
「あ、ありがとう……」
「はいはい。じゃあ聞けること聞けたし戻ろうかしら。時間もそろそろだしね」
そういって聞きたいこと聞いて去っていくリサとカナ。そのまま席に着いたタイミングでチャイムが鳴った。まるで図ったようなタイミングにリヒトはむっとしていた。




