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綺麗な星に還るまで  作者: 鈴川掌
北海道編
9/30

第八話 願いは一つ(修正版)

 本日はこの小説をご観覧いただきありがとうございます。

 空が夜の様に暗くなる、今日は生憎の曇天(どんてん)で日は一度も差さないがここまで暗くなるのは、異常事態だとすぐにでもわかる、彼らが言っていた、夜景空間に行く前のわかりやすい合図というのは、これの事だろう。覚悟は出来ている、早雲先輩に言われる前に、もうこの覚悟は決まっていた、私は家族を守る為に、家族に関わる全員を守りたい。ただ一つその為ならば人だったものを撃つ覚悟などできている。

 その覚悟が決まったのは、私だけだろうか?それとも他3人も来られるのだろうか?すると少し不安に思うが、それは杞憂だったようだ。白鳥先輩そして車石先輩もやってきたが、彼だけが来ていない。

「車石先輩、結局彼はまだ戦える状況ではないんですか?」

「多分だけど、理恵が言っていた記憶の欠損のせいで来れないんだと思う」

 彼は一人で4人分の働きをしたんだ、今ぐらいは休んでも誰も文句を言うまい、ただ問題は。

「敵、ちょっと違和感あるよな」

 そう白鳥先輩が口にだす、その通りだ。目に見えるのは大量の人型で今まで居た、蟹やら魚やらの中型は存在せず、蝙蝠(こうもり)の様な外見の大型が一体のみであった。

「今回は大型が一体と、無数の人型だけなのか?」

 私だけが見えていない訳ではなく、全員の目にそう映っている。しかしならば絶好の機会だ、試したい事がある、それを試す為に車石先輩達に人型を任せよう。

「車石先輩、白鳥先輩、人型を任せてもいいですか?」

「空を飛ぶ奴には、私じゃ不利だからいいけど銃美もこっちなのか?」

「そうですね、車石先輩が狩り漏らしたものを白鳥先輩が対処するという感じでお願いします」

「ダメそうだったらすぐに言えよ、アタシがカバーしてやるよ」

「頼りにしてます」

 そういい人型に対して彼女達が先陣を切る。

 精神を集中させろ、最初に天成した時の様に。すると世界が(にび)(いろ)に代わり体の正面は焼けるように熱く、それでいて背中は凍りついてしまうぐらいに冷たい、苦悶の表情を出さずにはいられない。そこにこの場には何とも似合わないが、それでいて私には一生忘れる事の出来ない少女が目の前に立つ。

「」

 吸った息で肺が焼けているのか凍っているのかわからないが声が出ない。

『驚きました、そちらから俺?いえこの見た目なら私ですね。私に話しかけてくるとは』

 こちらも驚いた、前回は話もできず頭の中に直接話しかけられるような感覚だった。

『ああこの言葉ですか?これは彼から頂いたものです、今唯一ここには居ない、彼の』

 今唯一この場には居ない彼、青池君の事だろう、ならばこちらの要件もわかるはずだ。

『はい、わかります。そして貴方もその資格を有しています』

 ならばと思う。

『しかし貴方と彼は同じ様で違う、失うモノも違います、それでも進みますか?』

 私の願いは今も昔も変わらない、家族をそしてその周りを守りたい、それができるのなら何を失っても構うものか。

『では、証明は完了しました。ご武運を』

 その言葉を最後に、地獄の様な暑さも寒さも消え去った。自分を中心に9つの球体が広がり私は、一番近くにある球体に手を伸ばす、私の証明は既に完了している。

「今ここで、守るべきものを守る為に、力を貸して頂戴『解放』!」

 黒しか無い喪服の様な衣装に白色のアクセントが付き弓も大きさは増している。恐らく彼もこの力を使って戦い、記憶を失ったのであろうそれ位自分には…人間には過ぎた力を抱えているという、感覚も脳が理解出来ていた。

「これで今回は、一気に叩く!」

 蝙蝠型に向かって一直線に跳躍する、すると蝙蝠は大きく口を開け、耳を(つんざ)くような音を出しながら飛び出す。超音波というべき空気の振動で、下に居る二人も動けなくなっている、マズイと思い矢を生成する。前までであれば一本ずつ生成して打つのが精一杯だが今は違う、一本の矢が生成されると同時に、弓の周りの空中にも矢が次々生成していき20本から30本の矢を同時に放つ、全てが全て狙いを付けれる訳ではない、それでも私の未来が視る未来と、同じ所へと矢は誘導される様に飛んで人型を貫き、その頭のズタ袋に風穴を開ける。

「サンキューな、弓」

「それよりアイツをどうにかしねーとやべーぞ」

 確かに白鳥さんの言う通りだ、空を高速で飛べる彼が居れば、難なく追いついて斬れるかもしれないが、先ほどの大量の誘導弾であっても威力が足りず、だからと言って、力を最大まで溜めて放てば、威力は問題ないだろうが、外してしまったらこの状態は保てないであろう、それを行うにしても今では無い。今ある武装は弓と大剣とリボルバー。弓と銃で数打てば当てる事は、できても極限の一発でなくては致命的な一撃を与えられない、まずは煩く飛び回る蝙蝠を捕まえる(かご)でも必要だ。

「こうなったら、一回試す流氷!その弓で一度左に誘導してくれ」

 なにか作戦が白鳥先輩にはあるらしい、ならばその作戦に今は乗るしかない、この形態が何時まで持つかもわからないが、何もしなくても時間制限があるのは確かであろう。

「準備はいい?撃つわよ?」

「了解だ!」

 先ほどまでは浮いていたが地面に着地し、敢えて蝙蝠に当たらないように、そもそもの機動力で当たりはしないが、雨の様な矢を降らす。

「ここだ!」

 銃声は鳴ったものの、どこに行ったかもわからない銃弾。しかし矢の雨は続く。するといきなり蝙蝠は、何かにぶつかったかのように、その場でよろける。まさか当てたのか?あの中、蝙蝠にも撃った場所を把握されているだろうに、どうやって?それは後程聞くとして、もう一度高く跳躍して全体を見渡す。チャンスは蝙蝠がよろめいている今しかない、今見ている世界とは別の世界を見る、そして蝙蝠がどこに移動するかを見極める。その世界では、蝙蝠は反転し先ほどまでとは逆の進路へと、逃げようとしている。

「車石先輩、蝙蝠の反対を塞ぐように剣の巨大化!」

「お、おう」

 一度逃げ場を失った蝙蝠は、更に反転して逃げようとする未来を視た。

「白鳥先輩、そのままそこににできるだけを弾幕を張って!」

「おーけー、りょーかいだ」

 これで逃げ道を二つ塞いだ、正面には私、左右には行けないこれでチェック、蝙蝠は誰も居ない奥に逃げようとする未来が視えた、これでチェックメイト。限界まで矢の面積を増やした巨大な矢を放つ、恐らくどれほど今から回避体制を取ろうが、この音速にまで至らんとする矢の速さと質量であれば!そのまま蝙蝠型が打ち抜かれ消滅していく、その瞬間解放が解けいつも通りの、真っ黒な衣装と黒い弓に戻り、そして天成も解け先ほどまで着ていた普段着に戻る。

「車石先輩、着地お願いします」

「おうともさ」

 という声と同じタイミングで抱きかかえられる、この人は恐らく言われる前から準備していたのだろう、本当に繊細で人の事をよく見ている優しい先輩だ。

「弓は天成…解けちゃったけど、どうなってるんだ?また資格剥奪か?」

「いえ、多分これは強大な力を使った副作用で一時的に天成が出来なくなっているんだと思います」

「そっか、じゃあ後は、アタシ達が人型を倒し終わるまで見学でもしていきな」

「お言葉に甘えてそうさせてもらいます」

 そうしてその時に気づいた視界が狭く、左に居る白鳥先輩の顔が見えづらい事に、左目の前に左手を掲げても全く見えてない事に、これが失うモノか?両目や家族との記憶じゃなかったのは幸いか…。

「ん?弓どうかしたか?」

 異変に気付いたのか、車石先輩がこちらを見る。

「いえ疲れちゃって、最近訓練も増やしていたので肩こりも酷いなぁーって、思ってただけです」

「そっか、わかった、なんかあったらすぐ呼べよ?駆けつけるから」

「わかりました、じゃあ先輩方のお帰りを待っていますね」

「任せとけ、アイツもお前も活躍し過ぎだ、こっちに出番を寄越せってもんだ」

 ハハっと笑いながら背を向け人型の方へ向かう先輩方を見ている事にする。


「弓のやつ凄かったなー、アタシもあんな力使えないかなー」

「でもあれは多分瞬と同じで、何かを代償に使えるものだと思う、それ程の覚悟を弓は見せてくれたんだ、後の人型位は、私達でどうにかしないとな」

「それもそうだな、あんまり前に出すぎんなよ?刃菜子」

「わかってるって」

 そう雑談をしながらも残った人型を掃討しに、アタシ達は前線に到着する。

「さぁて、残りはアタシ達が相手だ、纏めてかかってきな」

 掛け声と同時に刃菜子が突っ込む、彼女の能力は剣のデカさを自在に操る。確かにこの力であれば、対人型相手にはこれ以上ない力だろう彼女一人で何体倒したかは、わからないが相当な数の人型を(ほふ)っているはずだ、だからこそ彼女の絶望も今なら少しわかる。

 しかしこの違和感はなんだろう?大型である蝙蝠は倒した、そして今回中型は居らず、人型のみ、敵の戦力が着々と減ってきているということだろうか?咆哮の様な声が遠くの方で聞こえた気がした。

 周りを見るが何も見えない、嫌な予感がする。上を見る、すると巨大な狼のような何かが刃菜子を口に含まんとするべく口を開け落ちて来ていた。

「刃菜子!あぶないっ!」

 また今度も仲間を守れず、見ているだけなんて、もしそれをやったらアタシが、アタシを許さないそう考えていたからか、彼女の背を押し出す事に成功する、しかし私は。


「銃美?」

 銃美の声がしたものの、後ろに彼女は居ない、すると無線から声が聞こえる。

「痛ってぇぇぇぇぇぇ」

 否、無線越しからでもなくても空から、彼女の絶叫が木霊する。

「銃美?どこに居るんだ、報告を」

「犬っころに…腕を噛まれてる…凄い速さで移動してるのか…意識も飛びそうだ」

 目視できた、大きな狼が空中に居る。反撃をしているのか銃声も聞こえる、大体の位置は把握できた。

「銃美なんとか降りれるか?銃で相手を怯ませたりして…その後は私が受け止める」

「さっきから…撃ってはいるけど…離さねぇ、でも今離れる方法を思いついた…これしかねぇ、あとは頼んだぞ…刃菜子」

 何をするつもりだろうか?その時3発の銃声が聞こえると同時に彼女が下に落ち始める。しかし狼も銃美を逃がすつもりが無いのか、空中で反転しもう一度彼女を飲み込むべく彼女に迫る。

「流石にアタシの腕の一本じゃ逃がしてくれないか…っじゃあもう一本…くれてやるよ」

「銃美?お前何をする気だ?」

「皆で…生きて帰るんだろ?その為ならこのくらいっ!」

 今度は銃声が5発した後に遅れてもう1発の銃声が響く。

「刃菜子…すまねぇ後は頼んだ…」

 意識を失ったのか力なく落ちる彼女を、何とか空中で抱きかかえる。彼女は…左腕と左足を自ら切り落とし、あの狼から逃げて来たのか。彼女を弓の居るところまで送り寝かせる。

「車石先輩…これは…」

 弓はこの惨状の報告を求めるが、今は悠長に話している時間は無い。

「弓、止血をしてやってくれ、あともう一回あの姿になれるか?」

「天成だけならもう5分程度で、できると思います、だけど解放は…わかりません」

 解放とはなんの事だろう?でもわかった5分間私一人で、二人を守るんだ。

 弓達を隠す様に、防空壕の様に、限界まで剣を巨大化させ、力を思い切り込め殴り剣を叩き折る。

「車石先輩、何をやって?」

「これで一先ずお前ら二人の身は隠せただろう…それじゃあ5分後の加勢…任せたぞ」

「わかりました…無茶だけはしないでくださいね」

「おうともさ、任せとけって、じゃあまた後でな…」

 銃美のこの姿を見て不安であろう弓に今できる精一杯の笑顔を送る。

 勢いよく飛び狼の前に立つ。唸り声の様な重低音が体に圧し掛かる、怖いけど銃美の腕と足を奪ったお前を、私は許さない。それに私は弓に危機を知らせてもらって、瞬に救われ、そして今度は銃美に助けられた。ならば今度は私が皆を助ける番だ。

「来いよ、犬っころ…その場でワンって泣かせてやる」

 煽りが聞いたのか、獲物を見つけて突っ込んできただけなのか、こちらに突っ込んでくる、

私は折れた剣を自分が一番使いやすい3m程の剣に変える、剣先が無い分少し不格好だが、戦う分には申し分ない。

 鋭い右前足の爪で引っ掻いてくるが、剣を盾にし受け止める。

 重い、私みたいな小さい体だったらすぐに吹っ飛びそうだ、だけど私が皆を守るそう決めたんだ、力を振り絞り逆に狼を横向きになるように弾き飛ばす。

「今度はこっちのっ番だぁー!」

 首を叩き斬るように上から剣を振り下ろすが、しかし狼は吹き飛ばしもなんのそのと言わんばかりに、棘のある尻尾で逆に私を吹き飛ばす。

「ぐっっっっ…っふっはーっふー」

 弾き飛ばされ、棘に刺されたのかお腹から血がにじむ、必死に呼吸をしようとするが、それを待ってくれる敵は居ない。狼はその大きな口で私を飲み込もうとしている、だが足以外での攻撃ならこちらにも反撃手段はある。

「よくも…よくも、やってくれたなー!」

 剣を前に突き出し巨大化させ、狼の口の中に剣を突っ込み剣ごと投げ飛ばす。すかさず追い打ちをかける為すぐさまダッシュで近づく。

「まだだぁぁぁぁー」

 剣を口から引き抜き口がもう閉じないように思い切り口を横に斬り払うが、口を閉じなくなった事がなんだと言わんばかり左前足の鋭い爪で私を突く。棘が刺さった時とは違う、ぐちゅりという皮膚を貫き、筋肉を貫き、内臓を貫く、そして私という体に風穴が開く。

「あっがっ……それ…でも…」

 瞬の顔を思い出す、守人の皆の顔を思い出す、理恵の顔を思い出す、両親の顔を父の顔を思い出す。そう父さんの様に皆の憧れになれなくてもいい、瞬の様に自分がどうなろうとも残った全人類を守るという覚悟も、弓の様に近しいものの為なら何を失っていい覚悟、なんてものない。それでも例え自分が死ぬとしても大切な人が生きている世界に、自分は居なくても私は、自分の命を懸けて守るよ。

「舐めるなぁぁぁぁー」

 片手で爪を引き抜き今まで自分を刺していた左前足を斬りおとす。流石に足を切られて焦ったのか少し後ろに引き下がる狼。

「今度こそ…ゼェ…こっちの番だ…」

 勢いよく走りだすが、お腹が痛い、剣を持っている両腕からも力が抜けそうだ。だけど精一杯振るう、どんなに小さな傷でもいつかは致命傷になるかもしれないから。

「お前達がどれだけ人を使おうが…人を傷つけようが…私は、私達は…負けない!絶対にこの行いをしたことを…絶対にぃ…後悔させて…やる…」

 しかし私は気づいていなかった、狼が口に何かを溜めている光が集まっているのを、気づいたのは、撃たれる瞬間、咄嗟に剣で体を守り剣の巨大化をするが凄まじい威力で止める事ができない、瞬が何時だか言っていたでっかい弾を撃ってきたタコの話を思い出す。しかしこれはそれとは違う、一発の弾頭では無くビームだった、押し殺したと思っても止まる事はない。

「畜生ぉぉぉ、止まってくれ、止まってくれよぉぉ」

 背中が結界に触れた感覚がした、結界にヒビが入り始める何とかそれを背にして時間を稼ぐ、もしかしたら、ここで耐え続ければ被害は亀裂で済み、5分経っていれば弓が加勢に来れるかもしれない。その考えも空しくヒビ割れは進み亀裂になり私の体は夜景空間から追い出される、ああ弓達は無事だろうか…私の剣で守られているだろうか?瞬はこの光景を見ているだろうか?

「ごめんな…皆……ごめん…瞬…」

 それだけ呟き意識は、私から離れていく。


 右目で外を見る、太陽が雲の隙間から光一つ見せない生憎の空模様。左目で外を見る、右目で見た時とはまるで違う、夜の様な暗い景色が広がる。刃菜子先輩はレイダーとの戦いに出向いた、なのにどうして俺は戦えずにいるのだろうか?自分が傷つくのはいい、だけど他の皆が傷つくのは見ていられない。考え、考え続ける。なぜ今の自分は戦えないのかを。

 その時急に扉が開く、理恵ちゃんだった。

「お元気ですか?瞬君」

「元気ではないかな、刃菜子先輩が戦いに行って俺だけが戦えずにいる、こんなもどかしい気持ちは初めて?なような気がする」

「そうですか…では銃美さん達が、寮に居なかったのもそういう事なんですね」

 決して自ら死地に行きたい訳ではない、だけどなぜだろう?皆が行って自分だけ行けないのは嫌なんだ。

「瞬君は、なぜ今、自分が戦えないのかわかりますか?」

「何か大切な事を忘れているから?」

「ええ、そうだと思います」

 優しく彼女は頷く。

「瞬君、貴方は私を早雲さんと呼んでいた事は覚えていますか?」

「俺が理恵ちゃんを?苗字で?覚えてないなー、初めてあった時とか?」

「いいえ、高校に入る前いえ貴方が虐められている事を隠し、それを私が助けてから少し経ったとき貴方は、私を早雲さんと呼ぶようになりました、それまでの姉弟という関係性ではなく、他人として生きる為に」

 全く記憶にない、なんで俺は理恵ちゃんにそんな事をしてしまったのか、虐めを受けていた事を申し訳なく思っていたとしても、他人扱いする必要はないはずだ。

「覚えていないという様子ですね、ではお教えします、これは簡単な話です」

 そういい彼女は淡々と説明していく、なぜ俺と理恵ちゃんが他人となったかを、俺は虐めを受け、しかし理恵ちゃんや両親には、一切バレないように隠し続けた、ペンが無くなれば買い足し、痣が出来れば肌を隠し、顔に傷ができてもそれは違うよと理由を作って、理恵ちゃんがなぜわかったかというと、川に落とされる俺を目撃し、彼女は懸命に川を泳ぎ俺を助け。なぜ今まで隠していたかを俺に聞いたという。それに俺は。

「「迷惑をかけて、ようやく持てた関係性を失いたくなかったから」」

 二人の声が同時に聞こえた、自分では無意識であったが自分の口でも発していたらしい。そして思い出す、なぜ失いたくなかった関係性を捨てたのかを。

「自分も幸せじゃないと、理恵ちゃん達に俺から幸せをあげる事はできないから、だから自分が幸せになる方法を探したんだ」

 そして空に亀裂が発生する。

「思い出したよ、早雲さん…自分がどうやったら幸せを感じられるか、だから…行ってくるね」

「はい、瞬君…行ってらっしゃい、どうか無事に帰ってきてくださいね」

 早雲さんはいつもこんな苦しい想いをして、俺達を見送ってきたのか、ならばやはり皆を無事に連れ帰って安心させてあげなくては、そう想い天成をする。

警告アラートが響き渡る、なんとも不快な音であった。これを聞かなくてもいいよう、夜景空間にすぐ入りたいが、解放はまだする必要はない、亀裂へ急ぐがその時、小型サイズの物体が落ちている事に気づき、もしかしたら人型レイダー関連で詳しい事がわかるかもしれないと急行する。

 それがレイダーでもなく、近づくと人である事が目視でき、地面に落ちるより先に抱きかかえる、それが刃菜子先輩だと気づくのに時間はかからなかった。

 お腹から血を垂れ流しながら彼女は目を虚ろにし、意識がない。

「刃菜子先輩?刃菜子先輩!」

 必死に呼びかけ、彼女の体を揺する。

「んぁ…私は…今どこに…?」

 意識が戻るが彼女の焦点は合っていない。

「刃菜子先輩!俺ですわかりますか?」

「あぁ…声が聞こえる…でもすまない…上手く聞き取れないんだ」

 必死に抱きかかえるが彼女は刻一刻と呼吸が浅くなり、血が流れ続ける。

「せっかく刃菜子先輩に言われた通り、思い出せたんですよ?皆を助けに行けるようになったんですよ?なのにこんなのって、あんまりじゃないですか…」

「ごめんなぁ…私の言葉を後で瞬ってやつに伝えてくれ…」

 いきなり名前を呼ばれドキッとする。

「瞬…私は死ぬと…思うけど…全然…お前のせいじゃ…ないから……私が…望んで…戦えたんだ…あんなに…怖がっていた…私が…お前のお蔭で…戦えたんだ……お前の居る世界を守りたいって…思ったら…戦えたんだ」

 刃菜子先輩が俺の為に?なんで、どうして?それより血を操る力を使って何とか血を止められないか、輸血できないかを模索する。

「瞬…私はお前にとっての…理恵に…なりたかった。お前の憧れを一心に背負う…理恵に…でも理恵には敵わないって…わかってたから…違う方法で…お前の心に残りたい」

 血を一時的に止める事には成功する、あとは輸血を上手くできるかどうか、絶対に、絶対に死なせはしない。皆で帰る、皆と一緒に居る、それが俺にとっての幸せなんだ、だから死なないでくれ…。輸血が無事に上手くいったのか彼女の瞳に光が宿る。

「あぁ瞬…お前だったのか…ずっと抱きかかえて…くれてたのは…私はお前達にわがままばかりいって…子供みたいな事をし続けた…両親にも…弓にも…銃美にも…理恵にも…そして瞬にも沢山迷惑を…かけた…皆に悪かったって…代わりに…伝えてくれ…そして…最後のわがままだ…許してくれ」

「最後なんて言わないで、絶対に助けるから生きる事だけに集中してよ、刃菜子先輩!」

 その言葉とは裏腹に彼女は、輸血して一瞬奇跡的に覚醒をしただけで、弱り続けている事は、火を見るよりも明らかだった。だけどそれでも現実から目を背けて自分にできる限りの治療をし続ける。

「はは…やっぱ優しいなぁ…瞬は………」

 そう言うと少し黙り、もう手を動かす事もままならないだろうに、彼女は手を俺の頭の後ろに回す。

「刃菜子せんぱ?」

「瞬…………」

 小さな胸で俺の頭を抱きかかえる、まるで子供を抱くように優しく、赤ん坊を泣き止めさせる様にゆっくりと、彼女の微弱になりつつある心臓の音が、とても心地よく感じる。

「へへっ…親愛のハグだ…皆に…伝えてくれ…理恵…銃美…弓…そして瞬…皆、皆…大好きだ!…へへっ…私が…唯一父さんに…胸を張って…報告できる…事…だからな…最後に良い…思い出がで…ぃ…ぁ……」

 彼女は最後の力を使いきったのか、俺の頭を抱きかかえていた腕が力なく解ける、目も虚ろになりいくらさすっても、再び呼吸をすることも目を動かす事も無い。

「あぁぁっ…あああああああ…あぁああ」

 涙が止まらない、早雲さんに一度別れを告げたあの日の何倍も心が痛い、もう少し早く来ていれば、もう少し早く止血と輸血の考えに至っていれば、沢山の後悔が押し寄せる、しかしこのまま泣いているだけでは、彼女の命がそれこそ無駄になってしまう、でも一度彼女を安全な所へ移そう。

 バーニアで飛びながら最初に出て来た病室に戻る、そこには早雲さんが座って待っていた。ベッドに寝かせる時に彼女に聞かれる。

「刃菜子さんに何があったんですか?大丈夫なんですか?急いで医師に処置をお願いしに行かなくては…」

 急いで病室を出ていく彼女を止めこちらを向かせ、静かに首を振る。

「そんな…なんで…こんな事に…」

 彼女の瞳から涙が滝の様に溢れる、それを見て全ての覚悟は決まった。


 誓おう、もう誰も犠牲は出さないと、そう頭で考えると世界が移り変わる。初めて天成した時も初めて解放をしたときもここにやってきた。綺麗な青空がどこまでも広がる空間。

「おい、全部やるよ…俺の全て」

 いつもは、言葉は発せないだが今は、今の俺であれば言葉を発せると分かっていた。

『それがどういう意味か、理解して言ってますか?』

「知るか、けど大体の予想はつく、けど一つだけ条件をだす」

『できる限りは譲歩します、それでもできない事はありますが…』

 この条件が飲まれないなら飲まれないでもうどうだっていい。

「過去も未来もくれてやる、だけど守人になってからの記憶だけは忘れないようにしてくれ、今回もそれがなかったら大切な人を守れた」

『わかりました、けれど本当にいいんですか?貴方が言っている事は、ひょっとしたら今よりもっともっと辛い思いをする事になるかもしれないのに』

「それでも、やるよ。だって俺の幸せは、願いは皆の幸せを守る事なんだから、それが今回はできなかった、だからもうこれ以上の犠牲は出さないと、刃菜子先輩に誓って俺はこの信念を抱き続けるよ」

『わかりました、証明は完了し、契約も完了しました、後は貴方が思うように進んでください、行きつく先がどれほど悲惨で苦しいものだとしても』


 世界が元に戻る、早雲さんが心配そうにこちらを見ている。

「じゃあ今度こそ行ってくるね、早雲さん…刃菜子先輩をよろしく」

「これ以上の犠牲は…すみません…わかりました、留守はお任せください」

 窓から外に飛び立つ。

「『新星(しんせい)解放(かいほう)』」

 そう唱え、解放のもう一つ先へと至る。服装が変わっていく、羽織は外れ極限にまで動きやすい装飾に変わり、左手には盾を、右手には2mはあろうかという大太刀を持つ、俺はバーニアを起動し夜景空間に入る。


 まず夜景空間に入り驚いたのは、高さ数十メートルはあろうかという大剣が地面に突き刺さりそこには血だらけの、白鳥さんが居たのでそこに急いで向かう。

「白鳥さん!大丈夫?流氷さんは?」

「青池か…私は大丈夫だ、早く弓の加勢に行ってやってくれ」

 そういうが、これ以上犠牲は出さないと誓ったのだ、刃菜子先輩にやったように血を操る力を使い止血し、不出来ではあるが簡易的な義足を血で作る。

「これで先に地上に戻っていて、そして病院に行ってすぐに治療を受けて」

「ああ?そんな事できるかよ!敵を前にして尻尾を巻いて逃げろってのか?」

「そう言ってるんだよ、誓ったんだ、早雲さんと刃菜子先輩に、それとも白鳥さんは、早雲さんをこれ以上悲しませたいの?」

「なんで刃菜子が?って、刃菜子になんかあったのか?」

「今は気にしないで自分が生きる事だけ考えて、何があったかは全部終わらせてから話すから…」

「チッ、わーったよ、理恵さんを悲しませない為って言うなら我慢する、刃菜子の事は後でなにがあったかしっかり教えろよ?」

「わかってるよ」

 そう言うと彼女は納得する、わかりやすい性格だ、彼女は自分を助けてくれた早雲理恵という人物に、とても一回じゃ返せない恩を抱いている。だから彼女の望まない事はしない、端的に言ってしまえば、早雲さんという人物に嫌われる事を、極度に恐れているという事が理解できた。刃菜子先輩の事は、今は伝えるべきではないと言う事も、理解してくれている。

「それでも早く弓を援護してやってくれ、なんとか牽制しつつ時間は稼げているがもう体力は限界の筈だ」

「わかってる、それじゃあ行ってくる」

「ああ!行ってこい」

 右手で背中を思い切り叩かれる、より一層集中できる…ありがとう白鳥さん。


 車石先輩のお蔭で、天成がもう一度でき、解放もいつでも使えるだろう、しかし彼女からの通信がないのが気がかりだ、しかも使えた所で当たらなければ何の意味もない、誰かが動きを止めてくれなければ、アイツを一発で消し飛ばす威力の矢を射っても、一度外したらそれこそ終わりだ。それに先ほどは上手く使えた未来予知も、アイツは視た未来とは違う動きをしていて、この能力も対して当てにはならないことに苛立ちを覚える。

「流氷さん?聞こえる?俺ができる限り動きを制限させるから、全力の一撃をアイツに打ち込んで」

「青池君?なんでここに?……いいえわかったわ、任せるわよ」

 私がそういうと彼は残像を残して私の前を横切る、そのまま狼に近づき高速で切り刻む。しかし車石先輩が相対した時もそうであったが、奴の回復速度は異常だ、だからこそ車石先輩の大剣も余り効果が無かった、彼の言う通り彼がアイツの動きを完全に予知すら要らない位動きを制限してくれる事を信じて、今一度あの力を使う。

「『解放』」


 流氷さんが解放と言ったと言う事は、彼女も俺と同じ様な力を使えるのか、だったら頼もしい事この上ない。ならば俺もコイツの動きを止めてやる。ハエを落とすが如く俺自身を叩き落とそうとしてくるが関係ない、盾で受け止め逆にカウンターを入れる、喉元を斬り、そこからはこちらの独壇場だ。

「お前が原因なのはわかっているだから…お前は手も足も出せずに殺す!」

 高速で縦横無尽に動き残像を作る、狼はどれが本物かわからずに攻撃をし続ける、どれを攻撃しても正解だ、だって質量はそこに残り続けてあるのだから。しかしその攻撃をいくら続けようと先頭に居る俺こそが本体と見破られなければ、俺に攻撃が直接当たることはない。前脚を斬り狼は仰け反る、まるで誰かに斬られた事を思い出して恐怖するように、棘が生えている尻尾も危険だろう、だからこそ斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。そうして足の全てと尻尾も消え。顎の筋肉も斬りおとし口を開く事しかできないダルマを作る。

しかし狼も諦めない、何かを口の中で溜めて撃ち込もうとしている、なにかがマズい、奴の狙いは攻撃を当てる事の出来ない俺では無く、ただ向こうで力を溜め続ける流氷さんである事に気づくのは、そう時間はかからなかった。

「流氷さん!撃って!」

 俺はもし間に合わなかった時の為に、流氷さんをいつでも回収できる位置まで移動する、あの狼が何をしようとしているかはわからないが、用心するに越した事はない。


 彼からの合図が聞こえ、彼はこちらに向かってくる。未来を視てもコイツはその場から動けずにもがき苦しむだけ、しかしこちらに向けて何かを撃とうとしている。私の一撃とお前の一撃どちらが強いかの勝負。彼がこちらに向かってきたのは、もしもの時に、私を助ける為なのであろう、しかしそれは余計なお世話だ、私の残っている力を全て乗せる、これに撃ちかてるものなら、撃ちかって見せろよ…犬野郎!

「これが私達人類の一撃だ!くたばれぇえええええええ」

 怒りを、憎しみを込め、あのレイダーという存在に向かって射つ。あちらも何かを撃って来はしたが、そんなものは意味も無く撃ち消される。狼は跡形もなく消え、そして無限に続くと思われていた夜景空間に風穴があき、どこまでも続くトンネルの様なものが見えて私の意識は遠のく、最後に誰かに抱えられた気がしたが、それが誰かなんて聞くまでもないであろう。


第八話 完


 本文を読んでいただき誠に感謝します

 ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。

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