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綺麗な星に還るまで  作者: 鈴川掌
北海道編
7/30

第六話 失意の現れ(修正版)

 本日はこの小説をご観覧いただきありがとうございます。

 アイツが全速力でアタシ達が元居た所に移動した時、亀裂が入り旭川の街並みが一瞬見える、その瞬間アタシはここに来るまで居た守護省の一室へ戻ってくる。外からはサイレンとも違う、警告アラートだろうか?そう思える禍々しい音。あそこに行くまで一緒に居た理恵さんはそこには居らず、まさか亀裂が発生した事で何かあったんじゃ?と不安になり急いで扉を開くと、そこには理恵さんも部屋に入ろうとしていた所だったらしく、彼女と勢いのままぶつかってしまい「きゃっ」という甲高い声が廊下に響く。

「り、理恵さん?ご、ごめん、焦っていて」そういい手を貸す。

「大丈夫です、私も少し銃美さんと瞬君がいきなり居なくなってしまって、それに亀裂まで発生してしまって、色々守護省の方が(せわ)しなくなってしまいました、それより瞬君は?」

「そうだ亀裂!アイツが何かを見つけたのか、ジェット機みたいな速度で移動して、その瞬間亀裂が出来て、それでここに戻ってきたんだ、亀裂はどうなってる?」

「亀裂は発生直後に、何事もなく消えてしまいました。でも瞬君が戻ってきてないのは不思議ですね、まさか亀裂内部に取り残されたなんてことは…」

 彼女の表情がどんどん青ざめて行くが、その時窓の外からコンコンという音がした、振り返る暇もなく。

「瞬君!」と彼女が駆け寄り窓を開け、アイツは「ありがとうございます」と言いつつ窓から入ってくる。

「入るなら玄関から入って来いよ」

「いや亀裂から外に出ちゃって面倒くさかったから」

 面倒くさいって…まぁわからない事は無いが、それより聞きたかった事を聞かなければならない。

「なんでお前、あんな切羽詰った顔して飛んでいったんだ?」

「人型二体が思った以上に侵攻していて、危ないかもと思ってすぐ処理しようとしたけど、人型が最奥、こっちから見たら入口か、そこに辿り着いたら亀裂が発生して一体は外に落ちた」

「一体は外に出た!?それって大丈夫なのかよ?」

「わからないよ、でも俺もすぐにもう一体を追って外に出たら、亀裂は無くなってたし外に落ちたはずの人型もどこを探しても居ないし」

 色々な情報が交錯して、アタシもコイツも論調が激しくなってしまう。

「ところで瞬君、その手に持ってる、小さな男の子が着そうな服はどうしたんですか?」

 理恵さんがそういい彼の手を見てみると、確かに男児が着そうな、怪獣がプリントされた服を片手に持っていた。

「そうだった忘れてた、俺は色々確認したい事あるから、早雲さんたちは先に帰っていていいですよ、それじゃ」

 そう言い残し、守護省の慌ただしい人混みの中に消えていく、アイツの背を見送っている時にふとあの禍々しい音が鳴りやんでいる事に気づく。

「理恵さんそういえば、アタシが帰ってきた時に聞こえたあの音って何?」

「ああ、あれは前回の亀裂が出現した後に避難を呼びかける為に作成されていた、警戒アラートです、銃美さんが病院に居た時に発表されたものなので、知らないのも無理はないですね」

 やはりそういうモノだったのか納得だ、あんな禍々しい音が響いたら誰だって身の危険を理解して行動に移すだろう、納得していると彼女は帰る準備をしている。

「待たなくていいの?アイツの事」

「ええ、先に帰っていていいとの事ですし今日は、お仕事をしたお二人と明日帰ってくる二人の為に買い物をしなくちゃいけません。お買い物、手伝ってくれますよね?」

 小悪魔の様な笑みを浮かべつつも清らかな瞳でアタシを見つめる、このような誘われ方をされてしまっては、断われる訳がないじゃないか。

「わかりました、お嬢様それで?どちらへ向かわれますか?」

 やられたままなのは不服なのでこちらも仕返しに執事の様な振る舞いを見せる、彼女は満面の笑みで手を取り「行きましょうー」と進んでいく、あぁこんな感じの関係をなんていうのかはわからないが、凄い心地のよい気分だった。


 守護省の研究室に入り男児ものの服を手渡す、研究員には?な顔をされたが「いいから調べてください」とお願いし、次は報告をしに行く為に、あの怖いおじさんの部屋に行かなくてはならない、今までは早雲さんに任せていられたが、今回抱いた自分の仮説が仮にも真実だった場合は、彼女だけに任せる訳にはいかない。部屋の前に着き深呼吸をし、ノックをする。「どうぞ」という低い声が聞こえ部屋に入る。

「失礼します」

「なんだ?お前か、ここに来るのは早雲だけだと思っていたが珍しい事もあるものだ」

「世間話はいいです、本題に入ります」

 そういうと彼はこちらの目をじっとみる、流石に普通の事ではないと気づいたらしい。

「すいません、名前知らないんですけど、なんて呼べばいいですか?」

 自分で真剣な事を話そうとした癖にこういう事を言うのはどうかと思うが、認識が怖いおじさんで完結してしまっていたせいで、なんて呼べばいいのかわからない。

「はぁ…円山だ、円山(まるやま)(いっ)(せい)、円山でいい」

 円山ってもしかして?と思うが、こちらを聞くのはこの要件の後でもいい。

「円山さん、これは俺の妄想だと思って聞いてください」

「わかった」そういい彼はコーヒーを口に含み飲み込む。

「もしかしたら、レイダー特に人型は、元人間かもしれません」

 ただ粛々と自分が感じた仮説を話す。

「なぜそう思う?」彼はこちらの話を聞き流さず、真剣な表情で聞き返す。

「今回亀裂が発生したのは、人型が恐らく北海道を包む結界に触れたからだと思います、そして一体は結界に出る前に排除しましたが、一体は結界の外に出ました。しかし俺は、ほぼ同タイミングで結界の外に出たはずなのに、人型の姿は無くそこには、男児用の服が漂っているだけ、これが仮説一つ目です」

「そうか」短く、本当に短く返事をし黙る円山さん。

「二つ目の仮説は、ずっと疑問に思っていた事です。なぜ人型は俺達を攻撃せず、ただ進むだけなのだろうか?と、その理由を今日見た気がします、人型は…ただ地球という大地に戻りたいだけなのではないのだろうか?と、自分の子供だけでも地球に戻そうとするべく、初めて理性的で献身的な行動を見せました。まるで一人の子供を逃がす為に、自分が犠牲になる事を選んだ親の様な…」

 その仮説を聞いた瞬間彼は、少し動揺を見せた、もし自分が同じ状況に陥れば、自分もそうするであろうと言わんばかりに。

「それともう一つ、亀裂が出る前円山さんは空が夜の様に暗く見えましたか?」

「いや、夜のように見えたなんて事は無いが?太陽が雲に隠れたとかではなく?」

「じゃあ多分あの景色を見られるのは、俺達守人だけなんですね。白鳥さんに確認は取っていませんが、恐らく俺と同じ様に夜かと思う位の暗さになった瞬間に、亀裂内であろう空間に転送されました。今日以降俺達守人が急に姿を消したら、亀裂内の空間に入っていると思ってください」

「わかった、わざわざすまないな」

 最後に、最初から気になっていた事と、最も重要な事の二つそれだけを話して、外に出よう。

「円山さん、円山さんは…いや星奈さんは…娘さんですか?」

「そうだが?」短く当たり前の事だと言わんばかりに答えた。

「そうですか…最後に一つだけ、俺の仮説が正しかったら、俺だけに連絡をください。皆に伝えるのは…俺がやります」

「わかった、苦労をかけるな」

「いえ、そちらの苦労に比べれば何かをぶつけられる俺達の方が楽ですよ」


 次の日の朝、俺の仮説が正しい可能性が高いとの報告が、円山さんから伝えられた。


 頭の中で情報を整理する、既に朝食の後片付けも終わったであろう、早雲さんの部屋がある1号室をノックしようとするが、中から白鳥さんだろうか?彼女と小説の話か何かで盛り上がっている彼女の声が聞こえ、ノックはせずに部屋を後にする。これは多分お告げだ、自分で気づき、自分で仮説を立て、それが真実である可能性が高いと言われたのだ。

彼女に頼るな、彼女にこれ以上の重荷を背負わせるな、というお告げだろう、口や頭では姉離れしたと思っていても、どうしても彼女に頼る事が多くなってしまっている。自分への戒めだ、話すのは今日の入浴後そう決める。それまでは昼に帰ってくる刃菜子先輩や流氷さんと久しぶりに直接話でもしよう。

 昼になると刃菜子先輩や流氷さんが、実家から帰ってきて、少し物静かで寂しかった寮内も賑やかになる、二人からは根室の道の駅のピンズと、紋別のゆるキャラを(かたど)った最中を貰った。

「最中はわかるけど、刃菜子先輩、道の駅のバッジって、もうちょいなんかなかったんですか?」

「えぇー?いいだろう?ピンズは財布とかに付けれるぞ?」

「そりゃつけれますけど、お菓子とか根室にしかない名産品とかあるじゃないですか」

「この道の駅のピンズも根室でしか手に入らない物だぞっ!」

 だめだこりゃ、まともなお土産を買ってくるとは最初から期待はしていなかったが、まさかのこれとは思わなかった。

「流氷さんはありがとうね、この最中…というか前々から思っていたけど、流氷さんてゆるキャラとか好きなの?」

「なによ?なにか文句でもあるの?」

 ギラりと睨みを聞かせてくる。

「いやそのキツイ性格に似合わず可愛らしい、趣味してるねって思っただけだよ」

「ワルカッタワネ」

 このネタで話しを続けるのも面白そうだが、後々が怖いのでこの辺で自粛しておく。

「お土産、早雲さんと白鳥さんの分も買ってあるんでしょ?二人とも早雲さんの部屋に居ると思うから、渡して来たら?俺はシミュレーション室に行ってるよ」

「ええ、行ってらっしゃい」「理恵と銃美に渡したら、私も行くー」

 一目散に早雲さんの部屋に向かう刃菜子先輩に対して、俺の前で立ち止まる流氷さん。

「なに?どうかした?」

「いえ、どこも悪くないならそれでいいわ、少し思い詰めていた表情をしていた気がしたから、気になっただけ」

 どうやら表情に出てしまっていたらしい。

「大丈夫、なんでもないよ」

「そう、ならいいわ」

 刃菜子先輩の後を追い流氷さんも部屋に向かう、その背を見て俺もシミュレーション室に歩みを進めた。

 シミュレーション室に入り天成をする、いつも通りの設定で人形と相対する。一度生身でも倒せた人形相手にどのように攻めるかを考える、前回は人型が亀裂を作った、どういう訳かは、わからないがその後人型は自然消滅をした。

しかしあれが魚型やカニ型ましてや、大型の竜型や報告にあった熊型だった場合は、俺はどうする事もできない、だからこそ奴らに結界を触らせる前に雑魚を、人型やカニ型を速攻で叩く、それしかない。ならばこれから意識して戦う事は。一つ、早期決着を目指し巨大な力を持つ敵に備え相手取る時間を増やす、二つ、若しくは最初から大型を叩く。

 そうこう考えているとカウントダウンが0になり人形が間合いを詰めてくる。意識しろ、最低限の動きで攻撃を避け、最大限の一撃で相手の急所を…。

「斬るっ!………あっ」

 ガッシャ―ンという音が響き渡り、そこには人形だったものが、辺り一面に散らばっている。

「大丈夫か?瞬?」

 そこに約束通り刃菜子先輩が来て、その惨状を目の当たりにする。

「瞬…お前…力入れ過ぎだ……」

 本当に申し訳ございませんでした…それしか言葉が見つからない。

 当初の予定であれば、シミュレーション室で刃菜子先輩と人形を交互に使い、スコアでも競ったりしようかと考えていたが、その予定はご破算だ。

「刃菜子先輩、なんか他にしたい事あります?」

「えー?ないかなぁー」

「じゃあ映画でも見ますか?」

「いいなぁそれ、皆も誘って映画鑑賞会にしよう!」といい早速皆を集めるべく寮内を奔走する彼女、なんだろう悪い方悪い方へと考えすぎていたのかもしれない、彼女のポジティブさを見習う事も重要か。

「で…集められて見るのがこれな訳?」

「まぁいいじゃないですか、偶にはこういうのも私は好きですよ?」

「アタシは、あんまり好きじゃねーなぁこういうやつ」

「瞬の馬鹿ぁー、こんなのを見るっていうなら、鑑賞会なんてするんじゃなかったー」

 賛成2反対2中立1と、なかなかの悪印象だが、そんなに嫌なのだろうか?ゾンビ映画。適当に借りた物で、中身は全く知らないが、大体こういうのはゾンビを壊滅させて終わ

りなんじゃないのだろうか?と思い再生する。

 しかし再生すると、思いの他話は重たかった。ゾンビウイルスのパンデミックが起き、主人公は感染してしまうが、他のゾンビと違って意識もあり理性もある、が人々はそれでもゾンビだ!と言って居場所を追い出され、最後まで信じてくれた友人がゾンビに襲われて主人公は助ける事ができたが、救助隊に撃ち殺される、そういうお話だった。結論から言うと見るんじゃなかった、少し今日の夜話そうとしていることと似ている気がしていたから、でも助かったというべきか刃菜子先輩と白鳥さんは、すぐダウンして見れていない事、それだけが唯一の救いだった。

「貴方が映画を誘ってきても、二度と乗らない事にするわ」

 そう流氷さんに言われたのはショックだったが。


 夜ご飯はすき焼きらしい、全員ではないが今生きている守人が一つ屋根の下に集まるのは、初めての事でその記念だという事だ。刃菜子先輩が目を輝かせてお肉を取り食べていく、白鳥さんと途中で肉の取り合いが起きるも、早雲さんは見越していたのか新しいお肉もありますといって追加していく。

「貴方お肉は食べないの?」

「食べてはいるけど?」

 いきなり流氷さんに質問される、刃菜子先輩達の様にがっつく程ではないが、普通に食べている。

「いえ、あの二人を見ていると男なのにそんなに食べない貴方が異常なのか、あの二人が異常なのか、わからなくなったの…気にしないで」

「いや俺は、すき焼きならしらたきとかが好きなんだよ、でもあの二人の食い意地は異常かなぁ…」

「やっぱりそうよね…」

 彼女達二人の食いっぷりを見る、見ているだけでお腹が膨れてくる。流石に食後すぐする話でもないから、皆には先にお風呂に入ってその後でもう一度共用スペースに集まってもらう事にする。

「今日も洗い物を手伝って頂きありがとうございます、瞬君」

「いえいえ、俺はただ洗われたものを、拭いているだけですのでお気遣いなく」

 皿やコップを手渡され、それを拭くそれだけで一刻一刻と時間が過ぎていく、レイダーとの戦いなんてなく、皆で毎日テレビを見たり、ゲームをしたり、ご飯を食べたり今日の様な日が続けばいいのになんて考えていると、早雲さんから話をふられる。

「瞬君、皆を集めてでもしたい話ってなんですか?」

 やはり気になるか、でもそれは皆が来てからでいい話だ。

「これまでの話とこれからの話…内容は、皆が集まってから話しますよ」

「そう…ですか」

 皆のお風呂が終わり、全員に予定通り話をする。

「なんだよ?改まって、ゾンビ映画で眠れなくなったか?」

「刃菜子―お前じゃないんだから、そんな事ある訳ないだろー」

「なんだと銃美ぃー」

 いつの間にか名前で呼び合うようになっている彼女達、波長がすぐにあったのだろうか?すぐに話がそれるので手を叩き「ハイハイ注目―」と話を戻す。

「話は二つ、重い話題と、軽い話題どっちからがいい?」

「じゃあ軽い方からお願い」流氷さんが答え、異議を唱えるものも居なかった。

「じゃあ軽い方、昨日昼頃に俺と白鳥さんは、あの場所に行った。いちいちあの場所っていうのも面倒くさいからここからは…夜景空間とでも呼ぶね?」

「まんまだな、おい」「ネーミングセンスの欠片も無いわね」

 二名からの酷評を受けたが気にせず進む。

「その時二人、刃菜子先輩と流氷さんは空が暗くなった?」

「いえ?」「なってないぞ?」

 成程やはりあの空間にある程度、近づいている守人じゃないと入れないとか、そういうものだろうか?

「白鳥さんはあの空間に入る前、外が夜見たいに暗くなったのを見た?」

「ああ、それは見たよ、そして気づいたらそのぉ夜景空間?に居たからな」

「場所が特定の地域でしか起きないのか、それが今後どうなるかは、わからないけど少なくても敵が現れる合図がこのいきなり世界が暗くなるって事なんだと思う」

「それについてなんですけど恐らく敵はもう旭川からしか侵攻してきません」

「それはなぜ?」

「言の葉を先ほど受け取りました、一体何故?どのような理由があってというのはわかりませんがそういう事だそうです」

 それはありがたい事だ、旭川にしか現れないって事は、もしもの時の避難も大分円滑に進むであろう。

「じゃあ次は重い方、人型レイダー…」

 言っていいのかを悩む、これは伝えず隠し通した方が、よいのではないかと考える。

「瞬?」「どうしたの?」「どうかされました?」

「大丈夫、でも覚悟して聞いてね。人型レイダーは、もとは人間である可能性が高い」

 その言葉を言った瞬間、場の空気が凍る。

「どういう事だよ?それ…」

 刃菜子先輩が意味を問いなおす。

「言った通り、要は蹂躙されて死んだと思ってた、99%以上の人類はレイダーに利用されている可能性が高いって事」

「何を根拠にそんなこと言っているの?青池君」

 冷静に流氷さんが根拠の提示を求める。

「根拠というか余程の偶然じゃなければ、そう思うしかないって事が昨日あった」

「昨日?何があったんだ?」

「まさかあの服ですか?」

 早雲さんの問に首を縦に振る。

「昨日俺達は敵の攻撃を受けて亀裂がまた発生した、その時に外に出た人型レイダーが一体、亀裂が発生した瞬間に外にでて、俺も1秒もしないうちに後を追った、だけどそこには何もなく、宙に浮いていた男児ものの服があっただけだったんだよ」

「もちろん本当に偶然そこに風に乗って服が飛んできたのかもしれない、だけど出たはずのレイダーは居なくて、なぜか服だけが残っていた」

「じゃ…じゃあ…私が嬉々として倒していた、敵は人間だっていうのかよ?瞬は…私が…人間を殺したって言うのかよ!」

 震えながら、こちらに行き場のない怒りを向けてくる刃菜子先輩。

「そうは言っていないよ、刃菜子先輩。普通のレイダーと違って人型は多分亀裂の外に出たら消滅するんだと思う、自分達が蹂躙して殺した人間を利用して亀裂を開く手伝いをさせている、そういう事だと思う」

「そうじゃない、そうじゃないんだ、私は…人を………だって…私は…ックソッ」

 刃菜子先輩には余りの衝撃の大きさだったのか、黙って二階に行ってしまう。

「ごめん、こんな楽しいはずの日に、こんな話をしてしまって、でも知らずにいるよりは教えた方がいいと思ったんだ」

「ごめんなさい、残りは後日にしてもらっていいかしら?少し整理する時間を頂戴」

「アタシもちょっと一人にさせてくれ」

 各々自室に戻っていく、しょうがないこうなる事は予想していた。でもこれで皆に嫌われるんだったら、ちょっと悲しいな。

「瞬君は大丈夫なんですか?今の話をして、考えても何も思わなかったんですか?」

 早雲さんが震えた声で尋ねる、彼女もいますぐにでも吐きそうな、そんな表情(かお)をさせてしまっている、本当に申し訳なく感じあの頃の様に心が痛む。

「何も思わない訳はなかったけど、それより怒りが湧いてきたり、助けたいと思ったんだ。早雲さんだけには話すけど、恐らく人型は意識も記憶も残っているのかもしれない、あれが本能のままに動く獣であればどれ程よかったんだろうね?」

 だからこそ、意志を持たない獣ではないからこそ俺は…死が救済なんて思わないけれども、でもそれしか人類に危害を与えず、彼らを救うには消滅させて上げる事しか俺にはできない。

「でも俺は大丈夫、皆を守る為にはこの吐き気とも、怒りとも、向き合って戦えるよ」

「そう…ですか……」

「じゃあお休みなさい、早雲さん」

「はい…お休みなさい…」

 例え人殺しと言われたとしても戦って見せる、それしか皆を守る(すべ)はないのだから。


 瞬があの話をしてからもうすぐ、3週間が経とうとしている、外はもちろん家の中でも暖房が必須になってくる位の寒さが、北海道を包みこむ。なんとか皆を笑わせようと奔走しているが、空回りしている気がするのは考えない事にしている、あんな話題があったんじゃ誰だって暗くなってしまう。

私は寒いのは苦手だ、手が(かじか)んで、外が暗くなるとあの日の事を思い出してしまうから。唯一救いなのはレイダーの侵攻が無い事だけだ、私はあの日から訓練も碌にできずにいる「お前じゃあ、父さんにもなれないし、瞬にとっての理恵にもなれない」そういう夢を見て今日も早朝に起きる、本当は眠れるだけ眠っていたい、この時間に起きたって寒いだけだ、でも私が私自身の頭がそうさせてくれない。

 気持ち悪い、気持ち悪いという言葉が頭の中を支配する、瞬の話を聞いたあの日からずっと、そうだ…私は人を殺してしまった。それが自分達の為だと分かっていても、この手に人の血が付いているような気がしてならないのだ、手が真っ赤になるまで綺麗に、入念に洗う。そこに瞬が外から寮に入ってきた、こんな時間からトレーニングでもしてるんだろうか?

「おう!瞬、朝から調子いいなぁー」

 なんとかいつもの自分を取り繕う。すると瞬は笑いながらこう言った。

「いつレイダーが来てもいいように、守人たるもの自分の調子だけは整えとかないとね」

 ああ強いな、本当に強いよ、瞬は。

凄いなぁ瞬は、私はこんなに」

「こんなに?どうしたの、刃菜子先輩?」

 どうやら口に出ていたらしい、なんとか言い逃れようとするが多分それも上手くいかないだろう。

「瞬、ある女の子の話をしてもいいか?」

 私は瞬に自分の弱さを知ってもらいたくて、聞いてみると瞬は無言で椅子に座り、私の目を見る、優しいな瞬は、その優しさに今だけは(すが)らせてくれ。

「その女の子には、父親と母親が居て、父親は教師をやっていてさ、何人もの生徒を送り出してきて同窓会?みたいにもよく呼ばれて、買い物に行っても「先生?」「先生だー」って教え子にいつも囲まれていた、それ程皆に好かれる先生だったんだ」

 瞬は一度も目を逸らさず、じっと見つめたまま聞き続ける。

「でもその女の子は、父親の事が嫌いだったんだ。幼い子供の心理なのかはわからないけど、自分より教え子を優先していたからなのか、自分より目立っていたからなのかはわからない、でもとにかく嫌いだった。だからその女の子は近所のガキ大将と喧嘩して大暴れしたり、帰る時間になっても帰らずに遊んだり、逆に普段やらなかった勉強に取り組んだり…とにかく父親の気を引こうとした、子供が必死に考えた幼稚な行動。それでも父親はこっちを振り向いてくれなくて、それである日いつも以上に外に居たんだ、寒い寒い秋の日の夜に、これなら父もこちらを向いて探してくれると思って、でも父親は来てくれなかった。父親はいつまでも帰ってこない娘を探しに出た時、事故にあって死んじゃったんだ」

 気づいたら瞬が近くに居て、ハンカチを渡してくれる、あぁそうか、泣いちゃっていたんだ、私。

「それでな、父親の葬式には多くの人が来てた、誰もが父親の為に泣いていた、でも女の子は泣けなかった皆は、直接言葉にして言わなかったけど「貴方が夜遅くまで外に居なかったら」「貴方がいい子にしていたら先生は死ななかった」って遠回しに言っていたんだと思う、それに気づいた時、私はなんて大変な事をしてしまったんだって、皆の大切の人を私が奪ったんだって、誰もが父親を憧れの人とか尊敬してるとか言っていた、だから私はこう考えたんだ、父親は皆の憧れの人だったんだから、私が父親の変わりに皆の憧れになりたいって。それだけの事をして初めて許されるんだって」

「でね?瞬、私は守人になって街の人からもちょこちょこ感謝されたりして、私も父さんの様になれたんだって思ってたんだ…思ってたのに私がやっていたのはただの人殺しだったって知ってきっと罰が当たったんだ、皆からの憧れを奪っといて自分だけは、皆の憧れになれるなんてさ、でももし…この人型の情報が出回ったら?私が訓練からも逃げている事を皆が知ったら?私は軽蔑されると思う、そしたら剣を持つのが怖くなっちゃったよ」

 えへへと笑って見せる、すると瞬が抱きしめてくれた。

「大丈夫だよ、刃菜子先輩。俺もね?大切な人の幸せを奪ったくせに、自分では回りを幸せにしたいって考えてる、だからね大丈夫、大丈夫だから」

「瞬は違うだろ?瞬は誰も傷つけてないだろ?」

 瞬はゆっくりと首を振る。

「俺はね、大切な人を、早雲さんを傷つけたよ、自分だけが傷つけば、周りは傷つけないと勘違いして、虐められている事を隠して隠し続けて、それが早雲さん、理恵ちゃんにバレた時凄い泣かれたんだ、私が皆の憧れだった早雲理恵を辞めて、貴方の姉として振る舞ってしまったのが原因だったんでしょ?って、なんで相談してくれなかったの?って、辛かったでしょう?痛かったでしょう?って、でもね、俺はその時まで理恵ちゃんに家族に迷惑をかけないで、自分でどうにかするのが、理恵ちゃんにとっても俺にとっても、幸せな事なんだって、理恵ちゃんが泣いてくれて初めて家族の幸せを願うなら、同じく家族である自分も幸せじゃないといけないんだって気づかされたんだ」

 そんな当たり前の事すら知らなかったんだよ、だからねと彼は続ける。

「刃菜子先輩のそれは罰じゃないよ、刃菜子先輩がやった、宗谷奪還作戦で少なくても俺と流氷さんは、刃菜子先輩が世界を、北海道を守った英雄だってわかってるから、例え俺達がやっていることが怪物退治と人殺しなんだと世間から言われても、俺達だけは軽蔑もしないよ」

「でも私はもう戦うのが怖いよぉ、例え人型が人じゃなかったとしても、守人としての任務が失敗してまた街に亀裂を作ったりしたら私は、みんなから嫌われちゃうんじゃないかって、そう思いたくなくても、思っちゃうんだ」

「大丈夫俺だって、理恵ちゃんを悲しませてから今の状態になるまで(おおよ)そ1年位かかっているんだから、苦悩にぶち当たった人にすぐ戦え!動け!なんて言わないよ、だからね、もう少し悩んでいてもいいし休んでいてもいいんだよ、刃菜子先輩。」

 彼がそう言うとそこに居たはずの彼は居らず。

「あれ?瞬?」

私は彼から貰ったハンカチを握りしめ一人洗い場に立っていた。


第六話完


 本文を読んでいただき誠に感謝します

 ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。

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