第五話 知らぬが仏(修正版)
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いきなりビンタをされた、初対面の人に名前を確認された後、ビンタをされるという経験は、金輪際得られる事のない貴重な経験かもしれない。そのような事を考えてしまう位には、いきなりの出来事であった、早雲さんも口をポカンと開けたまま固まっている、このような間抜け面を晒している彼女はとてもレアだ、すぐにでもカメラに収めようと思ったが、それはビンタをしてきた本人が許してくれない。
「それが、理恵さんがお前から受けた痛みの一部だ。次に理恵さんを悲しませてみろ、こんなもんじゃすまさねぇーからな?」
そう告げると早雲さんを連れて、そそくさと歩いていってしまう、早雲さん、彼女に俺の何を告げ口したんだ…。
その事を引きずり寮に帰ると、彼女達はまだ帰ってきておらず、叩かれた理由の心辺りも無い為、ここは同じ女性二人の知恵を借りる事にした。
「それで私達に頼った訳と…」
「そういう訳なんです」
「なんか失礼な事、理恵に言ったんじゃないか?」
「まぁそれ以外に原因はないでしょうね」
余りにも不可解だった為、通話アプリを起動し助言を求めたが、片や紙にペンを走らせながら、片やゲームの音を流しながら答える。説明中にも本のページを捲る音やまるでゾンビの呻き声を出しながらカチャカチャする音が聞こえている、開始時点で真面目に聞く気はないのだろうとは思っていた。
「少しは気遣ってくれてもいいんじゃないかな?」
「瞬ならどうにかなるって」「そーね」
投げやりな返答が返ってきた瞬間通話を切った。その後二件のメッセージが入ったが、頑張れという看板を持ったゲームキャラと可愛いウサギのスタンプが送られてきた瞬間、今度はスマホをベッドに投げた。
シミュレーション室に入り相も変わらず天成もせずに、因縁深い人形の前に立ち、抜刀する。カウントダウンが終わり、人形は一瞬で間合いを詰めてくる、人形の刃はこちらから見て右から左への一閃、それを右手の木刀で受け止め、そのまま人形の刃を抑えたまま左手の木刀で真上から斬りおとす、しかし人形は抑えていた木刀から強引に抜け出し左手の攻撃を防御する、ならばと今度は開いた右手で人形の胸を突く、しかしそれも寸での所で軌道を逸らされ、そのまま相手のカウンターに繋がってしまう、人形は突きに行った体制で前のめりになっている所を左に避けてから頭に一撃を食らわせようと試みるが、こちらも左の木刀で相手の刃の軌道を逸らし今度は防御が間に合わないように左手で相手の刃を下に向けさせ、体を捻りながら渾身の一撃を右手の木刀に乗せ首を斬り抜く。今度は前の様にこちらの攻撃など、気にもせず次の攻撃を仕掛けてくる事無く、そのままシミュレーションが終了した。
すると後ろから拍手が聞こえてくるが、まぁ相手は大体察せる、彼女であろう。
「お疲れ様です」
タオルを差し出してくれる彼女、俺はそれを快く受け取る。
「早雲さん…ありがとう」
タオルで汗を拭くと、彼女は手を差し出しタオルを回収する、恐らくここに来たのは十中八九白鳥さんに関わる話であろう。
「それで意味も理解できず、ビンタをされた後輩を慰めにきてくれたんですか?」
「それは二つ目の理由ですね、一つ目の理由はまた天成もせずに、人形と戦っていることを叱りに来ました」
ごもっともな意見だ、いくら安全面に配慮されているといっても木刀対木刀である事は変わらない、基本的身体性能が上昇した天成後であれば、蚊に刺される程度かもしれないが人体にその衝撃を受ければ最悪死ぬ可能性もある。
「まぁ勝つ自信もありましたし、実際勝てましたし…」
「そんな屁理屈を捏ねてもダメです、もう二度とこんな真似しないでくださいね」
「分かりました…」
彼女の不安そうな顔を見て、堪らず了承してしまう。
わかればよろしいと満足気な表情を残し、申し訳なさそうに今回の本題に入る。
「銃美さんの行動は、私を想っての行動だったんです、それだけは理解してあげてください」
「それは…そうでしょうね、流石に俺もあの人が誰彼構わず人を叩くような性格とは、思ってもいないですし、理由があるとしたら早雲さんが俺の何かを、言ったんでしょうね」
そもそも誰彼構わず暴力を振るう人間であるならば、早雲さんは禁めこそすれ、あれほどまで尽くしはしないだろう。ならば理由は俺に対する愚痴か、苦言かそれともアレか。
「昨年までの私と貴方の関係性を話してしまいました、ごめんなさい」
正面を向き深々と頭を下げる早雲さん、やっぱりアレの話かそれならば、彼女の怒りも打倒な気もする。
「別にいいですよ、早雲さんがこの人になら、打ち明けられると思って話したんですよね?なら文句は無いですよ」
「でも…この話題にはもう触れないと、ただの先輩と後輩に戻る事を約束したのに、私は貴方の了承も得ず貴方の過去を話してしまいました、きっと私は誰かに自分の弱さを、晒し楽になろうとしただけなんです」
「お相子ですよ、それなら俺も刃菜子先輩と流氷さんに話しちゃいましたし」
すると彼女は驚いたような顔をし、すぐに嬉しそうな顔をする。
「そうですか…瞬君がこの話を他人に…それは嬉しいような、悲しいような」
「喜んでください、貴方のお蔭で虐められ痛みを知った子供が、これを話せるような友人を持ったんですから」
「だからですよぉ、瞬君に友人が出来たら一緒に居られる時間も、減っちゃうじゃないですかー」
早雲さんとこの関係になれただけで、姉弟としての家族としての、縁を切った事への後悔がほんの少し軽く感じられる。
「でもだから、白鳥さんはあれだけ怒っていたんですね、納得です」
この話には裏がある。表だけの事情を聞けば青池瞬は、拾ってもらって、育ててもらって、助けてもらっておきながら、自分が辛かったからという理由だけで、家族という大切なものを捨てたという屑になり。
裏を知れば、青池瞬はその家族から大切なものを与えられ、育てられ、自分の意志で進む事を許してもらった、これまた勝手な子供にはなるが、決して捨てた訳ではなく、手に入れる為に行動する事を認められ、親や姉から与えられたものを、返そうとするただの親孝行の一環に過ぎないのだ。
「まぁ、でもそんな第一印象じゃ、仲良くなるのは到底難しそうですね」
「そんなことないですよ、貴方が仲良くなりたいならそれも可能です」
どうやってだろうか?この恥ずかしい想いを、彼女に打ち明けろとでも言うのだろうか?
「本当の事を言う必要はありません、ただ貴方は私を私達を、傷つけたくなかったそう言うだけでいいんです」
それは殆ど全て話しているのと、変わらないのではないだろうか?本人も納得してもらってその上、俺の本音を隠すためにはどうすればいい事かを考えると、自分にとっても、彼女にとっても、悪くはない案を思い付いた。
「白鳥さんって、もう激しい運動とかしても大丈夫なんですか?」
「ええそれは大丈夫だと思いますよ、元々精神的に追い詰められていたというのが、一番の要因ですし」
ならばと、早雲さんに少しお願いをする、これは代弁者としてある程度の地位を持ち、守人の監督責任も任されていて、守護省にもよく行くことの多い彼女にしか頼めない事だった。
「それくらいの事ならすぐにでも許可もでると思いますけど、一応何時がいいとかありますか?」
「んー、じゃあ明日でお願いします、白鳥さんには俺から伝えておくので」
わかりましたと言い、彼女はトテトテと足音がなりそうな小走りで寮を後にする。
早雲さんがこんなに積極的に行動してくれているのであれば、俺もしっかりと彼女の所に行かなければならない。
早雲さんが一階で暮らしていはするものの、二階というのは女子専用という事もあって少しドキドキしながら登る、特に一階と変わっている所は無い、強いて上げるのであればフローラルな香りがする位だろうか?
1号室は流氷さん、2号室は亡くなってしまった円山さん、3号室は刃菜子先輩、そして4号室が白鳥さんと、部屋番号の下に書かれている表札を見ながら、4号室の前に立ち、一度深呼吸をする、そしてドアをノックしようとしていた時、隣から肩を叩かれる。
「なにしてんだ?お前…」
「白鳥さん?てっきり部屋に居るのかと思ってたんだけど…」
「風呂に入ってたんだよ、んで戻ろうとしていたら挙動不審にしているお前が、アタシの部屋の前に居た」
確かに幾ら寮とは言え、女子の区域に入り、あろうことか深呼吸をしてからノックをする姿は、大層変質者そのものであっただろう。
「これには理由があってね」苦しい言い訳が始まる。
「今日白鳥さんにビンタされたからもう一度、ビンタをされる事への心構えというかなんというか…あはは…」
「ああ昼のあれか、謝れって言うんだったら謝らねーぞ?それはお前が受けるべき報いだ」
そうその報いに関連する話をするために、遥々二階までビンタをされる覚悟で来たのを忘れていた。
「それの事なんだけど、もう少し詳しく話せば本当は誤解っていうのがわかるんだよ」
「誤解?どういう事だよ」
「いや早雲さんを悲しませたのは確かなんだけど、それにはれっきとした理由があってね」
「へぇー?どんな理由だって言うんだよ?あぁん?」
早雲さんやっぱり無理そうだよ、怖いよ?この人。今すぐにでも胸倉を掴まれて、殴られそうだよ。しかし本題はしっかり伝えなくてはならない。
「その理由を知る、チャンスを上げるよっていう、話をしにきたんだ」
「チャンスだぁーあ?そんな事関係ない、理恵さんを悲しませた理由を、もし本当に説明できるならここで証明しろ、ここで、今!」
「嫌だよ、話したくない。早雲さんを慕ってくれる気持ちは嬉しいし、俺は早雲さんと共通の趣味も持ち合わせていないから、そういう話をしてくれる人が居るっていうのは、早雲さんにとっても俺にとっても、早雲さんの気を休める事のできる友人は貴重だと思うから」
「理恵さんの気を休ませないようにしてるのが、お前だって言ってんだけど?」
話が進まない、だから結論だけ話して後は、乗ってきたら良し、乗らなかったらその時はその時だ。
「明日の昼、守護省が受け持つ森の中で実践的な戦闘訓練をする、もちろん俺と白鳥さんの二人でね。それにもし、白鳥さんが勝てば早雲さんと俺の事全て話すよ、俺に負けても俺の本心は話してあげる」
「あぁん?なんでだ?その条件を出されようが、アタシにはそれを飲む意味が無い」
「意味はあるよ?一つ、白鳥さんは、次から俺たちと一緒に任務にあたるから、特徴を知る必要がある、二つ、入院で鈍りに鈍った体を動かせる、そして三つ、白鳥さんは仲間を救えなかった、だから白鳥さんが弱くて救えなかったのか、それとも指揮系統の問題なのか、それとも二人がよわっ」
バシンという音が響く、昼のビンタとは比べ物にならない位には痛かった。
「全員生還したからって、調子に乗ってんじゃねーぞ?お前」
ドスの聞いた声で迫られドアを背にする、息が顔にかかり、恋愛小説であれば、さながら女子から迫られたキスシーンともいえる距離感で彼女は怒りを必死に抑えつつも、滾らせた視線を向ける。
「わるかったよ、言い過ぎた。でも一つだけ言わせて白鳥さん、明日の訓練は12時から始まって暗くなり始める16時には終わる、その間一本でも取れたら白鳥さんの勝ちでいいよ」
「なめてんのか?」
「なめてなんかいないよ、ただ本当に俺は早雲さんや両親以外にその理由を言う気がない。白鳥さんが早雲さんから感じた、何倍もの悲しみや苦しみを俺は直接見て感じた。だから言っておく。たかだか早雲さんが白鳥さんに話した情報のみが全てだと思うんじゃねーよ」
こちらも早雲さんの痛みは、自分だけが知っているという態度に腹が立っていたので、少し怒りの気持ちを混ぜて言い返す、実際彼女には俺が理由を言ったところで納得はできないであろう、そもそも理由も言うつもりが無い。
「だから明日一度でも俺に勝って、それは杞憂だったって思わせてよ、それじゃ」
迫られていた腕をどけ、俺は一階に戻る。少々言い過ぎたかも知れないと、後悔するのは今日の夜にしておこう。
アイツの言葉には何一つ嘘を言っているようには思えなかった、本当に理恵さんの事を想い、理恵さんを気遣っているように見えた、ならばなぜ?アイツは彼女を傷つけたのだろう、昨日までは真意がどうだろうと彼女の心に深い傷を残した奴を一発叩けばいいと思っていたが、あの目あの言葉を聞くと、真意が気になった。アイツの策に乗るのは癪だがそれを知るためにアタシは、残る時間を稽古場やシミュレーション室での訓練に充てた。
翌日、早雲さんが作ってくれた朝食を頂く、席に着いているのは、俺と早雲さんと白鳥さんの三人、明日からは刃菜子先輩と流氷さんが帰ってくる為、また賑やかな食卓となるだろうが、今日はそうもいかない。喧嘩を吹っ掛けた一年坊主と、その喧嘩に乗った三年ヤンキー女子と、その原因を作った人が一名、皆気まずいのか少し話題を出そうとするが、やはりギクシャクしてしまって話は長く続かない、一番に食べ終わったのは白鳥さん、食器を流し台に置くや否やすぐに稽古場の方へ向かっていく、その後俺と早雲さんも食べ終わり食器を洗い始める。
「よかったですね、模擬戦闘受けてもらえて」
「まぁ実際は、挑発して、怒らせて、無理やり参加させたようなものですけれど」
「はい、そう聞いています。でもダメですよ?亡くなった人をダシにするのは」
「反省してます…」
窘めるように言葉を発するが、顔は朗らかそのものであった。
「まさか瞬君が、他人にそんな態度を取る日が来るなんて、夢にも思っていませんでした」
「そうですね、自分でもそう思います」
早雲さんが最後の食器を洗い終わり、その食器を俺が拭き終わると、頭に軽くデコピンをされる、決して痛くもないが大げさな反応をする。
「すみません、痛かったですか?」
「いーや、全然痛くないですよ?それじゃあ昼また。白鳥さんを、お願いしますね早雲さん」
彼女は呆れた顔を見せ「わかりました」と答える。
「俺はもう先に行っているので、待ってますね」
「いってらっしゃい」
「いってきます」そう伝え寮を後にする。
稽古場に籠り何時間たっただろうか、アタシの武器はリボルバー型の銃、リロードは不要で、固有の能力は弾丸を見えなくする事、果たして銃程速いものを更に見えなくする必要性があるのかは疑問に思うが、今日はそれを遺憾なく発揮するつもりだ。出て来た的を西部劇のガンマンの如く早打ちで射貫く、長い息を吐き集中状態を解く、すると稽古場の扉の方から声がかけられる。
「銃美さん、時間です」
「わかったよ、理恵さん」
気がつくともう昼になっていたらしい、彼女がもし来なかったら、アイツから逃げたと思われるのは少しぞわっとする。しかしアタシはそれ程までに集中できていた、前回戦った時から肉体も集中力もそこまで劣化せずにいる。これも彼女の献身的なサポートのお蔭なのだろう。
彼女が用意してくれた守護省の車に乗り込み、アイツが待つであろう場所に向かう。
彼女、白鳥さんは予定の時間より少し早く来た、隣には早雲さんが居るので彼女が全て白鳥さんが遅れないように、手配しておいてくれたのであろう。
「白鳥さん、これ」俺はそう言って、イヤホン型の無線を投げる。
「どちらかが戦闘不能になるか、戦闘をするべきではない状況になった時、訓練を監督する早雲さんが、訓練の中止を言う為だけのもので、そっちの声がこっちに筒抜けになるなんて事はないから安心してよ」
イヤホンを繋げながら話かける、そうして早雲さんに目をやると彼女は理解したのかインカムを頭に着け。
「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト」という風に声を出すと互いのイヤホンから彼女の声が良く聞こえてくる。
「わかった、で?いつ始めるんだ?こっちはいつでも準備はできてるぞ?」
「焦んないでよ、まさかその恰好のまま戦うつもり?天成してやるちゃんとした模擬戦なんだから」
天成と唱えいつもの服装に変化する。
「わるかったよ、急かしすぎたな。……天成」
気怠そうに唱えると、彼女を光が包み服装が変わっていく、色は雲と青空が丁度よい感じで調和した水色のような色と、服装は刃菜子先輩程ではないがとても動きやすそうな和装に変化した。
「じゃあ俺はあっちにいくから準備できたら、早雲さんに連絡してね、そしたら早雲さんがカウントダウンか何かで開始を告げてくれると思うから」
そう告げアイツは森の中に入っていくが、しかし疑問に思った事があった、これはどうしても確認したい事だったのでルール違反に、当たるかもしれないが理恵さんに相談する。
「理恵さん、これもし遭難したらどうするの?」
「大丈夫ですよ、位置情報は二人のスマホやイヤホンから発信されていますし、そもそもそこまで広い森でもないので天成した貴方達であれば、すぐ森の外へ出られると思います」
「教えてくれて、ありがとう理恵さん、こっちはもう準備できたよ」
「わかりました、ではカウントを数えさせていただきます」
3…2…1…0
始まった、さぁどこからでもかかってこい、どこから来てもいい様、常にトリガーには指を掛けておく。しかしアタシの予想が甘かったのか、集中しきれていなかったのか、それともアイツの事を見くびって舐めていたのは、アタシの方だったのか、模擬戦は一瞬で終わりを告げた。
「来る!」
足音が聞こえたその瞬間トリガーを引く、しかし当たりもせず後ろの木に弾痕が残るだけ、一体どこに?と思うが否や、その時に全ては終わっていた、横腹に強い衝撃を受け宙に舞い、更に上から地面へと叩き落とされ、意識が朦朧とする、アタシが最後に見た者は、空中に浮く彼の姿だった。
今回の模擬戦はなにも、白鳥さんの鈍った体を慣らすためのものではない、自分のまだ良く分からない能力についての実験が殆どで、そもそも勝たせる気も無い。だから彼女には負けても本心は打ち明ける事を約束した。
戦闘開始位置を決め自分の手を切る、当たり前のように血は出てくるが宗谷地方奪還の時は半ば無意識ではあるが、自分で形を変えれた、その感覚を思い出し前回同様、血の壁を作ってみると、それは簡単に再現でき、体に戻そうとすれば傷口に血液が戻っていく、次に血で手裏剣の様なものを作りそれを投げる、今度も自分の思った通りの形を成し、それでいて自分の思い通りに動かせるが、それと同時に立ち眩みを起こす。成程自分が触れていれば血は自分の中にあるのと変わらないが、触れてなければ血を抜かれているのと変わらないという事だろう、自分の元に血でできた手裏剣を戻す。しかしそれでも少量であれば外に出して自由に動かせるという事、それができるならと血で薄く小さい壁を二つ作る。
「早雲さんこっちは準備できました」
早雲さんがカウントダウンを開始し0になる、0になった瞬間なるべく音を出さず空に浮く。そして先ほど作った血の壁で歩いているような音を出しつつ進ませる、少し時間が経った時一発の銃声が鳴り、響きわたる、銃声の下へ最高速で向かい白鳥さんの死角に入り横腹を蹴る、勿論天成をしているので普通の蹴りではなく10m程白鳥さんが飛ぶ、追い打ちをかけるよう宙に浮いた白鳥さんを蹴り落とす、これで彼女は意識を失った。
彼女を抱きかかえた所で早雲さんが無線で止めにかかる。
「瞬君それ以上はダメですよ?」
「わかってますよ、天成も解けてしまってますし、今から早雲さんの所に持っていきますので、看病してあげてください」
「わかりました、準備しておきます」
早雲さんが居る守護省の部屋に入ると、そこは和室なのか床は畳になっており、そこに布団を用意している早雲さん。
「ゆっくり、銃美さんを布団の上に置いてあげてください」
言われた通りに、白鳥さんを布団の上に置くと、彼女は掛布団を乗せこちらを向く。
「瞬君…なぜここまでやってしまったんですか?」
「ちょっとした実験をしたかったって言うのと、一度で模擬戦を終わらせる為ですね」
白鳥さんには悪い事をしたと思っている、自分も連戦ができるかはわからなかったし、そもそも白鳥さんだけがあの奪還作戦で生き残ったのは、彼女が並外れた実力を持っていて、それで彼女だけが生き残れた、という可能性もあった、だからこそ最初から本気を出さざるを得なかった。
「そうですか…言い分はわかりました、ですが私の言いたい事がわかりますね?」
「貴方がやった事は、昔俺がやられていた事と同じと言いたいのでしょう?」
「そうです、銃美さんが弱者とは言いませんが、貴方が一方的に勝てる戦いを相手に仕掛け、結果その通りに進み彼女は気絶するまで追い込まれました」
「ごめんなさい」
素直な気持ちが出る、幾ら何も知らない人が知ったような口を聞いてきたのが無性に腹が立ったとしても、ここまでやる必要はなかったと理解する。
「わかればよろしい」
すると彼女が目を覚ます。
「ここは?」
「守護省の一室です」
「そうか…アタシは負けたんだったな」
「そっちがその気ならもう一戦できますよ?」
「いや、いい…負けを認めるよ」
「ならよかった」と話した途端、まだ昼だというのに空が暗くなる。
雲が太陽を覆い隠したにしては暗すぎる、俺は窓の外を見るとそこにはありえないはずの光景が広がっていた。満天の星空が永遠に続く場所。あの中に居る、目の前にはレイダーが見え、いつでも戦えますと言わんばかりの臨戦態勢。
「早雲さん?白鳥さん?」
「叫ばなくても聞こえているよ」
白鳥さんが後ろから歩いてきて、成程いつも通り守人のみが、この空間に入ったのかと理解し、なぜいきなり?亀裂も無く、いきなり夜の様に周りが暗くなったことは…一旦考えるのはやめ天成する。
白鳥さんも納得はしないものの、やらなくてはいけないという考えになったのか、遅れて天成をする。
「人型が多いけど、今回は後ろに大型もいないし、ていうか蟹型も居ないけど」
魚型とも言うべきレイダーが20体程、魚の形をしているが、胸鰭とも言える所から数本の異様な触手が生えている、他レイダー同様ならば異形そのものを囲う輪はないので、爆発の特性はないのであろうか??
「浮いてる魚は任せますね」
「わかった、そっちこそヘマするんじゃねーぞ?」
そんな口が聞ける時点で、気絶の悪影響はなさそうだ。
戦闘が始まる、魚型は白鳥さんに任せ、こちらは人型を倒していく。人型は他レイダーと違い空中を浮遊する事がなく、歩行が主な移動手段で、足を切れば這いずるしかない等、無力化は簡単であり、そして今の所爆発する事もなく、体を真っ二つにする、ズタ袋の頭と体を切り離す、そうする事が致命的な一撃で、そうすれば輪の付いていないレイダー同様消滅していく。
しかし自分の戦闘スタイルと、この質ではなく量を追求し質の部分を埋める、人型というのは、自分と相性が悪かった。今回は前回の襲撃より数も少ないはずなのに、ジリ貧になっていく、刃菜子先輩という広範囲に攻撃できる者が、どれ程重要かを理解する、
「おいちょっと、相手を変われ」
「いいけど、その銃じゃ厳しくない?この量を捌くの」
無線で白鳥さんから、そう言われるが6発装弾式の銃では、この量を相手するのは厳しいのではないだろうか?
「っは、心配すんな、アタシのこれは見た目だけだ、リロードなんて必要ねぇよ」
「成程ね、じゃあ頼むよこっちは残り何匹?」
「そいつ動きが速いわ、銃弾を見てから避けるわ、で相性が最悪だから能力を使って10体倒せた位だと思うが…」
そういえば彼女の能力はなんなんだろうか?そう思いながらも、すばしっこく動く魚型に追いつくべくバーニアを稼働させ一気に上へと上がる。魚型と同じ目線まで上がると、水槽に餌を入れられた魚が如く一直線に突っ込んでくる、それをギリギリで避けてカウンターを食らわせようとするが、それよりも先に触手に触れられる。
「なっ」
左手が触れられ左手の痺れが止まらなくなった、流氷さんが居てくれたらと思う事はこれ以上ないだろう。
「回避は大きく、詰める時は相手に捉えられない速度で切り込む」
口に出し自分に言い聞かせる、もしこれで右手も痺れたようなら、試合は終了青池瞬の一生は終わる、だからこそ気を引き締める。
痺れを確認し、ここぞとばかりに魚型が食らいついてくる、ある程度近づいた瞬間バーニアを切り急降下し、もう一度バーニアを起動させ敵に切り込む。
それを繰り返していくうちに、被弾もせず魚型の殲滅が完了し、下を見ると白鳥さんも凄い速さの早打ちで的確に、そして動きながらも人型の急所を打ち抜いてみせる、あの正確な早打ちを見ると早期決着をつけておいてよかったと、心から思う、最後の一体を打ち切り周りに敵が居ない事を確認して下に降りる。
「お疲れ様」
「ああ、お疲れ」短い言葉しか交わさないが連携もできた、これからも問題なく過ごせるであろうと思っていると彼女の方から口を開く。
「なぁ?いきなりで悪いが、お前が言っていた本心ってなんなんだ?」
「あぁ、それを言うのを忘れてたね、簡単な話だよ俺の、本心は心から早雲さんに幸せになってほしいと、思っているそれだけだよ」
「どの口が言うんだよ、幸せから遠ざかっている原因の一つだろうが」
「それは…確かにそうなんだけど色々とあるんだよ、事情ってもんがさ…」
そこで異変に白鳥さんが気付いた、本当はもっと早く気付くべきだったのかもしれないし、でもこれからの事を考えると気づかないで正解だったのかも否、不正解だったのかもしれない。
「ところでどうやって戻るんだ?奪還作戦の時は相手の全滅が、空間から出る唯一の方法だったが」
「俺たちもそうだったけど……ん?」
だいぶ遠く、俺たちが最初に居た方向に人型二体が居るのが見える、もしあそこが境界線なのだとしたらマズイと思いバーニアを全開で起動させる。
「ちょ…おい…」
突然の行動に困惑した声を白鳥さんは上げるが、今は話している場合ではない。
「間に合えっ」
余りの速度に体に圧がかかる、しかしどれだけ急いでも人型が辿り着いてしまった瞬間、空間に亀裂が入り旭川の街が見える、外に出ようとする人型二体を止めようと、必死に手を伸ばすが、一体のレイダーがまるで我が子を庇うが如く体を投げ出し、俺を止めにかかる。しかしその行為の意味はわからなかったが、人型の決死の覚悟も空しく刀はその人型を貫く。外に出してしまったレイダーを追い、急いで亀裂の外に出る、しかしそこには人型レイダーの姿はどこにも見えず目の前には、風に煽られ飛んでいく男児ものの服だろうか?それがどこか虚しく、空を漂いながら落ちていくだけであった。
第五話 完
本文を読んでいただき誠に感謝します
ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。




