第十話 偽りの星(修正版)
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―12月某日―
刃菜子先輩を見送ってから約一か月経ち、雪が深々と降り積り、完全に辺り一面の銀世界となった北海道。その間にあった事を纏めようと思う。これから先何があってもいいように、解放の代償が無くなっている可能性が高いとは言え、決して忘れる事の無いようにと。
刃菜子先輩の葬儀が済まされ、彼女の部屋にあった私物は娘を忘れないで欲しいという母親の願いで、服以外の飾りつけ等はそのまま置いておくという事に決まった。
それ以外にも白鳥さんは、義手義足を付けてリハビリをしている、もう守人として最前線では戦えないかもしれない、しかし天成はまだ自分の意志で行えるらしく、もし俺と流氷さんの防衛が失敗して亀裂が出来た時の最終防衛線としての役割を、早雲さんが守護省に進言して、彼女の要望通りに事は進んだ。これは事実かはわからないが、守護省に立ち寄って聞いた話では、早雲さんが代弁者としての言葉をよく降りてくるようになった代わりに、他の代弁者に言葉が降りてこないという事象が発生し、故に彼女の発言力が守護省でもかなり高いものになっているのではとの事だった、本人が望んでいるか望んでいないかべつにして、人々を納得させて従えるカリスマ性というモノが彼女、早雲理恵という人間のもつ才能なのであろう。
そんな話を聞いたのも束の間、12月上旬にレイダーの襲撃があった、が敵は大型を引き連れている訳でもなく物量で攻めてくる訳でもない、なんとも拍子抜けな襲撃であった、これを機にどんどん敵の数も減っていてくれればいいのだが…と心から思う。それと同時に流氷さんの一撃で開いた大穴は未だに塞がる気配はない、その穴を一歩踏み出すとまるで自分達の戦っていた場所は箱庭のような空間になっており、その外は地下道とも言っていい薄暗さと辛気臭さのあるこれまた無限の広さにも思える、大きな洞窟の様な空間であった。これも夜景空間と同じ箱庭なのかもしれないと、一応早雲さんに報告をしておいた。
白鳥さんの退院が決まった、本当はもっと安静にするべきとの事だが、もう病院には居たくないとの事らしい、どうやら早雲さんを自分が独占している事に、少し申し訳なさを感じているようだった、俺と流氷さんはそんな事気にしないというのに、なんだかんだ、彼女も優しいのだ。一応ちょくちょくお見舞いに言ってはいたがその時の彼女は義手と義足をいつも外していて、退院日に初めて彼女が義手と義足を付けている姿を見た。こう言えば彼女が怒るかもしれないが、刃菜子先輩同様、守れたかもしれないモノを見せつけられているようで心が苦しかった。
12月中旬二度目のレイダー襲撃があった、前々から気づいてはいたが武器は常に帯刀していなくても夜景空間に入った時点で手元に召喚されるらしい、休養日との事もあって各々が自由に過ごしていたので正直焦った。この日の戦闘は大型が一体と中型、人型が多数、大型が速い段階から動き始め、終始劣勢を強いられる展開となり、俺の解放を使う事になった、解放を使う事で程なくして鎮圧ができたが、左の肩甲骨に少し痛みがあったので病院に向かったが特に異常はないとの事で、痣が少しあるとの事だったが、数日もすれば綺麗さっぱり無くなっていた。恐らく解放時の速さでどこかにぶつけたのだろう。
12月二度目のレイダー襲撃から数日が経ち、早雲さんに代弁が降りたそうで、その内容が興味深いものであったため、守人含め全員が集合した、その内容とは代弁者が同行する必要があり危険ではあるが、夜景空間に自由に出入りができるというモノであった、真実かはわからない、だがこれが仮に真実であれば何か現状を変える事ができるかもしれない、そう思い守人が集まり天成をし、早雲さんが跪き希う。するといつも夜景空間に入る時に感じる、引っ張られるような、そこに置かれるような、何とも言えない感覚で夜景空間に到着する事ができた、いつもと違うのは本来この空間を亀裂が入らない限り感知すらできない早雲さんがここに居るという事。そして何よりレイダーが目の前に居ない事、守護省からもし彼女を連れて夜景空間に入る事が本当に出来たのならば、彼女を連れて大穴に向かって欲しいと言われた事を思い出す、守護省としても、一北海道民としても守人が実質四名離脱した不安要素しかないこの現状から、少なからず希望を求めているように感じる。
天成した俺達であれば大穴までの移動は簡単であったが天成出来ない彼女ではとても長い距離という事で誰が運ぶかのじゃんけんをし、勝ったのは白鳥さんであった。
「じゃあ俺は先に行って、危険が無いか見てきますね」
「気を付けて」「気を付けてくださいね」「気を付けろよ」
それじゃあと言い、先に空高く飛び立つ。高度高くから敵が見えないかを辺り一帯を注視する、改めて思う、この空間はとても綺麗なものであると、今は巨大な大穴が開き不格好ではあるが本当に綺麗であると、この景色を見た事の無いものには、見せてあげたいと心から思う。そういう意味では、今日ここに早雲さんを連れてこられたのは個人的には喜ばしい事だった、しかし彼女から見てこの空間はどう見えるのだろう?友人を奪った憎き場所なのかそれとも俺と同じ一定の安らぎを得られる場所なのか、できれば後者であってくれると嬉しい…と考えながら何事もなく大穴に着いた。
彼が飛び立ち異常なしとの報告を受け私達も進んでいく。ここが瞬君含め彼女らが戦っていた空間…三人の命が散った場所。でも不思議と怒りは湧かない、命を奪ったのはこの空間ではなくレイダーという事が、わかっているからだろうか?瞬君はこの空間が綺麗だと言っていた他の面々はどうなのだろうか?
「皆さんはこの景色をどう思いますか?」
「この景色って?」
銃美さんが聞き返してくる。
「言葉足らずでしたね、この夜景空間という景色をどう思いますか?」
「うーん…普通の夜景かな」
「弓さんは?」
「私はちょっと気色悪いですね、なんか綺麗すぎるというか作り物感があって」
確かにこの景色は現実とは、思えない程美しいものであった、だからこそ現実離れしすぎていて逆に不気味に思う…確かにそう言われればそう思う。
「理恵さんは、どう?この景色初めて見てみて」
「私は…」
私はどうなのだろうか?この景色は綺麗だと思うのか?それとも汚く見えるのか、答えはわからない、確かにこの景色は美しい、だが弓さんの言う通り作り物と言われればそう思う、実際先日彼も大穴の外に出れば、この景色は箱庭の中に造られたようなものだったと言い、残念がっていたのを思い出す。
「瞬君から聞かされてはいましたけど、自分の目で見るのは初めてなのでどう伝えたらいいのかわかりませんが…安心するような感じ…でしょうか?」
「安心というと?」
弓さんが理由を聞いてくる。
「先ほどこの景色を見て、ここで円山さん、緑ヶ丘君そして刃菜子さんという尊い命がここで散らされたという事実が頭に浮かびました、けれど不思議と怒りは湧かなかったんです、変でしょうか…」
「あぁー確かに理恵さんの言う通り敵さえいなければ心地よい空間な気もする、地元に帰った感覚かな?」
「確かにそう言われれば、そんな気も…んー?」
弓さんは頭を悩ませてしまったが確かにそうだ、地元に居る、家に居る、決して行ったことは無いけれど、どこかで見た事のある風景の様な、確かにそんな感覚な気がする。
それともう一つ聞いておきたい事があった、解放について。守護省から聞いてはいるがそれでも、自分で今一度本人から聞き把握しておきたかった。
「弓さん、解放の件についていくつか確認してもいいですか?」
「いいですけど…守護省に報告した以外の事は私にもわかりませんよ?」
それはそうであろう、瞬君も弓さんも嘘を吐く理由がない。それでも本人の口から聞きたかった、今わかっている事は2つ。力の行使にはなにか代償が伴う事、そして何故か瞬君は一度目の解放時には記憶の欠損という代償があったのに対し、二度目以降の解放には何も代償が伴っていない事。
「そうそれだ、アタシは解放なんて使えないからわからないけど、どんな感じで使えるようになったんだ?」
確かにそれも気になる、どのような事を想い抱いていて、解放という力を得たのか。
「説明するのは難しいですね…ただ覚悟が決まって、自分でできると思ったらできたっていう感じだったので」
覚悟とは?何に対する覚悟なのだろうか?
「あ、あと天成時にあった女の子と、会話というか一方的に話しかけられましたね」
「え?あの子供、話せたのか?アタシの時はなんか頭の中に直接話しかけられているみたいで、少し気持ち悪かったんだけど」
「私もそうだったんですけど、なんかがあって言葉を獲得したとかなんとかって」
その話は守人ではない私にはわからないが、恐らく天成するとき見た女の子というのが私達代弁者に言葉を与えている人と同一人物と考えていいのだろう。
「じゃあ瞬君の二度目の解放以降の代償が無いという事はついて、なにか知っていますか?」
「それなら彼が報告した通り、未来を代償にしたって事しか、聞いていないですけど…」
「未来を代償にしたって、大丈夫なのか?アイツ…」
「本当に不安ですね、こればかりは後で本人に直接聞いてみるしかなさそうです」
そうこう話している内に、彼が待つ大穴の前まで辿り着いた。
「ここが…弓さんが開けたという大穴…」
「少し大穴に入ってみます?早雲さん」
「そうですね、お願いします」
彼に抱きかかえられ大穴に入る、後ろを振り返ると私達の居た空間は一つの巨大な部屋の様になっており、大穴は先ほどの空間よりも更に巨大な空間に感じるようで、どこか窮屈のようにも感じる不思議な空間だった。
どこまでも続く洞窟の様で薄暗く、それでいて周りが見えないなんて事はなく、はっきりとこの空間内を認識できる、不思議な空間。一定の距離を進んだ所で景色は変わらない、本当に無限にこの景色が続いているように感じる。
「瞬君もう大丈夫です、戻っても」
「いいんですか?」
「はい、ここに来れば何か現状を変える何かに出会えると思いました、言の葉も頂きましたし、けれど今は何も感じません」
わかりましたと彼は答え、方向転換し、もと来た道を真っすぐ引き返す。
『聞こえますか?聞こえていますか?誰かお願いです、聞こえていたら返事を…』
頭の中に声が響く。
「瞬君ここで一度止まってください、今…何かが…」
彼から離れ先ほどまで居た地点に戻る、確かに何か聞こえたはずだ、代弁の時とは違う誰かの声が。
「聞こえます、聞こえますよ」
声を張り上げ返答をする、一見するといきなり大声をあげている変人にしか、見えないかもしれないが、確かに声は聞こえたはずなのだ。
「早雲さん、どうしたんですか?いきなり声を張り上げて」
「今どこかから声が聞こえたんです、集中します少し静かに」
『聞こえるんですね?はぁよかったぁこれで可能性は…』
間違いない確かに誰かの声が、頭の中に語りかけてくる、代弁の言葉とは違う、これは明らかに人の声だと、何故だかわからないが確信できる。
『私は北海道守護省所属の早雲理恵です、貴方は?』
この感覚を信じ心の中で、伝えたい言葉をはっきりと思い受けべる。
『失礼しました、私は山梨に住む、地球のお言葉を代弁させて頂いている者です』
山梨?地球の言葉を代弁?いきなりの話に頭が少しこんがらがってしまう、一先ずは知らなければならいけない事だけを確認しよう。
「瞬君メモ帳と筆記用具はありますか?」
「メモ帳?俺は持ってないですけど、誰か持っているか確認しますね」
お願いしますと伝え、また集中する。
『確認します、山梨はまだ残っているんですか?私達の方では最初に山梨の生存が確認できたという事以外わかっていなくて…』
『山梨は…残っているとは言い難い状況です、守護者二名が必死に侵攻を食い止めていますが…土地は奪われていくばかりで…北海道の状況は?』
守護者…こちらでいう守人の事だろうか?
『北海道は全地域被害こそあれ侵攻は食い止めきれました、襲撃は不定期で起こりますが』
『それは凄いですね、北海道の皆さまに折り入って相談があるのですがよろしいでしょうか…』
早雲さんが真剣な表情のまま目を閉じ固まっている、メモ帳の類は流氷さんが持っているとのことで、急ぎ彼女に持ってきてもらう、それにしても声が聞こえたとの事だが、もしかして早雲さんも守人になったりしてしまうのだろうか?それは少し嫌だなと考えていると流氷さんがこちらまでメモ一式を片手に持ってき、俺はそれを受け取り早雲さんに手渡す、早雲さんはそれを受け取ると目をつむりながら紙を一切見ずに文字を書き出していく。あれでちゃんと書けるのだろうか?等と疑問に思っていると流氷さんから声をかけられた。
「早雲先輩は何をしているの?」
「わからない、声が聞こえたって言って、それからずっとあんな感じだから…」
「そう、じゃあ終わるまで、待つとしましょうか」
「それもそうだね」
今余計な事で口を挟んで彼女のやっていることが中断されでもされたら、何か大きなモノを失う可能性もあると考え、彼女を見つつ周囲の警戒をする。
それから数分経ったのち彼女が目を開くとぐったりとし体が倒れそうになる、汗を滴らせ、息遣いが荒くなっているが、いつぞやとは違い体調は悪くなさそうだった。
「大丈夫ですか?早雲先輩」
「大丈夫です、それより今はここから脱出しましょう、この情報は私達だけで決めていい問題でもすぐに解決できる問題でもありません」
彼女は少し焦っているような気もするし、そもそも問題とはどういう事だろうか?だが帰る事なら話は早い、彼女を抱きかかえ大穴の外に出ると暇そうにしている白鳥さんが立っていた。
「遅かったなお前ら、こっちは暇で、暇で」
わざとらしそうな欠伸をするが、そんな事を場合ではないのか早雲さんは皆を一か所に纏める、こちらとしては何一つ情報が入っていないので彼女が何を知って、何を焦っているのかもわからないが、彼女はここに入った時と同じ様に跪き希う。
早雲さんが夜景空間と現実を繋ぐ道標となった所で、普段と変わらす入る前に居た場所、といっても、全員で寮から出発したため全員寮だが、欠員も無く無事に戻ってこられた、早雲さんは帰ってくるなり慌ただしく車の手配をしている、私達だけでは決めていい問題ではないとの事だから、守護省本部に行くのであろう事が予想はできた。
早雲さんに呼ばれた車に乗り込み、あの場所で何をしていたのかを尋ねる、彼女は少し考え口を開く。
「全ては守護省の会議室で話します、余り多くの人に話してもいい内容でもないですし、ですが唯一、ここで皆さんに皆さんだからこそ、二つだけ話せる事があります」
それ程までに機密にしたい情報とはなんだろうか?と俄然興味が湧くがそれよりも唯一ここでも話せる内容を尋ねる。
「で、理恵さんその唯一話せる話って?」
「守人の力の源に付いてと、解放とは何かですね」
「守人の力の源って…確かに考えた事はありますけど…」
「それって天成についてって事だよね、理恵さん」
白鳥さんが問い、流氷さんも興味を示す、俺も口に出さないがこの力がなんなのか、そして解放とは何なのかがわかるのは大きい、彼女は一度整理するように頷き。
「では、お話します」
彼女は淡々とした口調で語りだす、天成の事、そして解放とはなんなのかを。
「まず私達は全く同じモノから力を得ているという事、を彼女から伺いました」
「早雲先、輩彼女とは?」
「彼女というのは…いえ、これは後程詳しくお話します」
「わかりました」
彼女というのは誰なのだろうか?俺達が天成した時に出会った女の子を指しているのか、はたまた俺達には知る由もない誰かなのか、まぁそれは彼女が後で話すというのであれば、今聞く事ではない。
「全く同じモノというのは、結論から言ってしまいますと地球です。地球の意志を本来認識もできない所、をなんとか言葉にしてもらい、その意味を理解し言葉を周りに伝える者それが代弁者と呼ばれる人になります」
地球が俺達を守る為に力を貸してくれているという事か?でも何故?早雲さんの言い方だと守人の力も地球のモノというのであれば、地球が俺達を守る事はできなかったのか?と疑問に思う。
「そして守人、彼女は守護者と呼んでいました。それこそがレイダーから地球を守る為に地球という存在から特別に力を与えられた者、それが貴方達、守人という訳です」
「アタシがすぐに理解できないという話は理解できた、お前はなんかわかったか?」
「思考放棄しないでよ、白鳥さん…でも早雲さん一つだけ疑問がある、レイダーから地球を守る事が地球にはできなかった、だから人間に力を与える事で間接的に地球を守ったそれはわかる、でもなんで俺達が選ばれたの?」
「それは私も思ったわ、肉体的に感覚的に優れている人なんてごまんといるそれなのになぜ私達だったのでしょうか?」
早雲さんは首を振りながら答える。
「具体的な事はわかりません、ですが私の仮説でもいいのであれば、お話する事はできます、それでもよろしいですか?」
一同が一度顔を、合わせ確認を取り頷く、それが真実でなくても彼女の仮説であるのならば、聞いておく価値はある。俺達は彼女の問の続きを待つ。
「では私の仮説です、仮説と言っても状況を見てこの話を聞かされて、思った事に過ぎません、貴方達でなくてはいけなかった理由は、恐らくないと思います」
俺達である必要はなかった?この活動は誰にでもできるという事だろうか?と考えていると彼女はその言葉の続きを口にする。
「ですが、貴方達以外にはできなかったのでしょう、守人で居る資格それは…何かを守りたいと力強く願いそれを行動に移せた人こそが守人となれるのでしょう」
確かにそれなら少しだけ合点がいくなぜ早雲さんは天成できなかったのか、あの亀裂を見て我先にと逃げる者でもなく、誰かを助ける為にのみ動いた者であるのならばその仮説も通る。
「わかりました、一先ずはそれで納得します、それで早雲さん解放については?」
「解放についてはなぜ瞬君と弓さんにできて、銃美さんと刃菜子さんができなかったのかは、わかりません。わかったのは力の源についてだけです。
「力の源?それが地球って、理恵さんがさっき言ってなかった?」
確かに代弁者も守人も力の出所は地球と今さっき彼女が言っていたはずだ、それなのに地球以外からも力を借りている?それにしたってどこに借りられる場所がある?
「太陽系の惑星との事です、これは彼女が言っていた事で確定情報ではないですが、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、この九つの惑星から力を借りる事が解放と呼ばれる行為との事と彼女は地球から受け取ったと言っていました」
「解放が太陽系の惑星と言われても実感はないですけど、レイダーに襲われている、地球である地球はまだしも、他惑星が手助けをするんですか?」
流氷さんの言う通り、地球という一つの惑星が襲われているのは、俺達にとっては命に係わる重要な事だが、言ってしまえば他惑星にとっては、あずかり知らぬもいい所であろうに。
「それは嫌な話ですが、言ってしまえば地球は今、囮なのだそうです、地球という惑星に意志を持ち知恵を持ちレイダーという存在に抗う術を持った、人という存在それがいる間は他惑星には侵略してこない、自分の所に来てほしくないから力を貸す、恐らくそういう事なのでしょう」
その早雲さんの返答に言葉を詰まらせる俺達、俺達が囮?その為に俺は記憶を無くして、未来に賭ける約束をした、流氷さんも片目の視力を失い、体半分の触感を失った、それだけじゃない沢山の人が死んだ、その理由が自分達の所には来てほしくないから?お前達でなんとかしろってことなのか?ふざけるなと叫びたくなる気持ちを必死に抑える。早雲さんは、それよりもやるべき事があると言わんばかりに、目的地に着いた車から降り言葉を発する。
「それでは守護省の会議室に行きましょう、いるのは守護省の責任者である円山さんだけです」
悩むのは後で悩めばいい、だから今は彼女がなんとしても解決したいであろう案件を優先しよう、恐らく彼女というまだ見ぬ誰かも、この案件に深く係わっているはずだ。
「大丈夫?流氷さん」
「ええ、少し嫌な気分になっただけよ」
言葉通り少し怒りを覚えたような苦笑いを浮かべ守護省の建物に入っていく。白鳥さんはすぐに早雲さんの後を追ったようだ、白鳥さん自体も万全な精神状況でもないだろう、そんな中、彼女が早雲さんを気遣ってくれるのはありがたい事だ。
会議室に入り、早雲さんが扉に鍵をかけるそれ程までに重要な事なのだろう、円山さんも忙しいだろうに俺達が付く前から待っていてくれたようだ、俺達の飲み物が湯気だっているのに対し彼のコーヒーは湯気だっていない。
「では伝えた通り、緊急会議を私の方から開始しても、よろしいでしょうか?」
「わかっている、詳しく内容は聞いていないが、その口ぶりから凡その想像は付く」
想像が付くと言っているが、俺達にもわからない事が本当に彼にはわかるのだろうか?会議が始まり、彼女が何故これほどまでに焦っていたのか、なぜ口外したくなかったのかの理由はすぐに語られた。
「この度夜景空間に行く事で手に入った情報は大きく分けて三つ一つは守人の事、これは彼らにも話しましたし、円山さんに話すのは後日でもいい内容でした、ですが残り二つの情報は早急に対処しなければいけない内容だと、私は考えます」
早雲さんが一度円山さんの顔を見るが、彼はどうぞ続けてくれて構わないと言った表情を見せ、また彼女の口が開く。
「その二つの情報とは、山梨の生存が改めて確認できた事と、山梨の防衛はもう限界という内容でした」
「山梨、確かに代弁者達は山梨だけは、まだ生存反応があると口々にしていたが、まだ耐えているとは…それで君はどうする気なんだ?」
「そうですね、彼女恐らく山梨に居る代弁者が会いたいと口にしていたので明日もう一度大穴へ行き、明後日の12月25日に彼女に直接会いたいと思っています、けれど私だけでは会う事もできません守人の皆さんの協力があってこそです、どうかお力をお貸しください」
彼女は深々と頭を下げる、自分達の他にはいないと思われていた生き残り、そしてその生き残りも限界を迎えている、確かに助けられるのは今しかないだろう。
「君達はどうしたい?行った時にレイダーの襲撃があれば、我々北海道は人堪りもない訳だが」
痛い所を付いてくる、確かに行っている時にレイダーの襲撃があれば誰も守る者が居ない、かといって助けられるかもしれない人達を、みすみす見殺しにする事はできない。
「わかりました、ならばこうしましょう私が大穴の前で警戒をし、もし襲撃が来れば防衛もします。白鳥先輩には早雲先輩を運んでもらい、もしこれが敵の罠であれば青池君なら殲滅もできるでしょうし、そしてこちらに襲撃があっても貴方ならすぐ戻ってきてくれるでしょ?」
こちらを向き確認を取ってくる、成程それは確かにいい案だ。行った先に誰も居なかったで待ち、来なければ来ないで帰ればいい、それはそれで悲しい事だが問題はない。敵の襲撃が来ても俺の最高速度であればすぐに戻る事も可能であろう。
「つまりリーダーは山梨を助けられるなら助けたいって事だよね?」
「リーダーって…貴方ねぇ、いつの話をしているのよ」
「なんだ?アタシらのリーダーって弓だったのか?てっきり、お前だと思ってたんだが」
「リーダー決めは稚内奪還作戦の時に決めたからね、白鳥さんが知らないのも無理はないね、話してもいないし。俺はその作戦に異論はないよ、ただ問題は彼らと会えるまであの大穴が続いてるかだけど…」
「それについては、問題はないと思いますあちらの方でも空間を破る程の攻撃を行い空間に大穴が開き、こちらを認識できるようになったとの事ですから」
「じゃあ決まりだな、アタシらで助けるんだ。山梨を」
「はい」「ええ」
「わかった、ならばこれより山梨救出作戦を始める、各々準備は怠らないように」
円山さんの了承も得た、ならばもう迷うまい、同じ地球に住む数少ない生き残りを救いに行こう、俺達以外の人間がまだ生きている事を信じて。
第十話完
本文を読んでいただき誠に感謝します
ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。