このぶっ壊れた街に来る人なんて1人もいない
わたしは大昔に滅びた街にずっと居る。
街の中心の……どこまでが街なのかすら分からないのだが、いちめん灰色の瓦礫が広がる様を見渡す。
背の高いビルがあるのだ。側面が削れ落ちて、内部が空の下に晒されている。階層がクリームをはさんだスポンジケーキの断面のようだが見ていてお腹が空くものではなかった。
わたしがするのは、それだけ。削れたビルの端から、だれも居ない街をじっと見て、いや見てないのかもしれない。崩れた家のような建物や、荒れた公園を見てこの街が壊れたときを思い出して嫌な気分になって少し泣いたら夜が来てようやく眠れる。
もう、わたしにとっては街が壊れているのなんて普通のことで、生まれてから死ぬまでここにいるのだ。崩れゆく街の中を逃げ惑い、しかし支配者のように高みに座る。
もっときれいでふつうの街に暮らしてる人たちは、このぶっ壊れている街のことなんて知らないし、わたしがここから出ることが出来ないのも分かるわけがないのだった。
わたしに文を出す人もいるが、ここまで来た者など誰ひとりとして居ない。わたしを連れ出そうとする者も同じくだ。わたしは粉っぽいコンクリートの床材に髪の毛を絡ませながら、いつか大きな爆弾をここに落とすことを夢見て、落ちた天井越しに星を見て、それでようやく願いを叶えた幻影のなかに落ちて眠るのだ。
それでもう今日は何も考えないし何も感じなくて良い。けど、滅んだ街にだって朝は来てしまう。だからわたしは、始まりから終わりだったわたしは、ただまぶしい光を尊んで、薄く美しい空の色に心の中をすべて消し飛ばされ、街と同じで滅びゆく身体で呆然と立って、また夜を待つことしかできないんだ。滅んだ町の瓦礫の 上