舞い降りた万能「不老不死」
よくわからないが、万能になった。
1回しか使えないようだが。
魔法のランプの精が願いをかなえてくれるような話だ。
そんなアイテムは何もないが万能が1回使える。これは確かだ。
この1回、何に使うべきなのだろうか。
万能を何度も使えるようにするようなことはできそうにない。
1発勝負。
永遠の命なんてどうだろう。
老人にはなりたくないから、不老不死ってところだろうか。
病人になるのも嫌だから、健康を維持した上での不老不死、これでもいけそうだ。
ということで、健康を維持した上での不老不死になることを選んだ。
ぱっと見は何も変わらない。
30歳になった俺は7つ年下の職場の女性と結婚した。
給料も少し上がり、健康に心配のない俺は病院とも無縁、保険も不要。
そこそこの貯金もでき、幸せな家庭を築けると確信していた。
31歳になった俺は離婚した。
原因は俺だ。
俺は疲労しない。眠らなくても体調を崩すこともない。
そして彼女の体力の限界は低い。
持て余す時間と体力を夜の街に振りまいた結果
彼女との時間が消えていったのだ。
45歳。
同僚が老けていく中、俺は若かった。
残業も平気だ。
疲労しないのでマラソンで頑張れば世界一も夢じゃないだろう。
若い女の子にも人気があった。
年齢を明かすと一様に驚かれるのも楽しいものだ。
55歳になった俺は飽きていた。
いくら若い肉体があっても若い精神には追い付けない。
古い記憶が新しい記憶の邪魔をする。
会社では部長に昇進したが、同じ部長たちは頭の毛が寂しい人ばかりだ。
見た目が若すぎる俺は、老け顔メイクを始めた。
65歳なった俺は定年を迎えた。
いくら若い肉体があっても定年は定年だ。
家族もいない俺はボランティアに出るようになった。
「いい若い者が仕事もせずにボランティアとは時代が変わったものだ」
などと言う人に年齢を聞くと俺より若い。
75歳、大きな地震が起こった。
俺の住む家も崩れ、下敷きになった。
しかし死ぬことはない。足も腕も折れていない。
息をしていなくても苦しいわけでもない。
一週間後、俺は救出された。
そのまま歩くこともできたが、救急車で病院に運ばれた。
衣服はボロボロだったが、無傷だ。
人違いだと謝罪されたが、適当に話をあわせて逃げた。
85歳、俺は25歳の孫と二人暮らしを始めたことにした。
もちろん、俺が孫役で俺自身は家の中で寝たきりという設定だ。
老人メイクも不要で快適だ。
コンビニでバイトをしている時に知り合った女の子と恋をした。
何十年ぶりの恋だろう。
運命と思えるほど無条件に引き寄せられた。
「俺と付き合って下さい」
「いいですよ」
あっさりとした答えに戸惑った。
何か違う意味にとられたのではないか。
「私もあなたしかないと思っていました」
考えてみれば、孫役の俺には戸籍はなく住民票もない。
法的な結婚はできない。
どんなに望んでも、近い将来に離れなければならない。
それでも。
俺は彼女と1秒を大切に生きる決意をした。
3年が経過しても俺たちは変わらなかった。
相変わらずのフリーター生活で、お互いの家を訪ねるでもなく
休日に遊びに行くにも日帰り。
深入りは傷を深くする。
それでも、俺は幸せだった。
それから2年。
「私たち結婚しないの?」
彼女の口から恐れていた言葉が出た。
俺が本当の30歳だとしたら俺の方からプロポーズする。
でも本当は90歳だ。
これだけは知られたくない。
どう答えたらいいのか。
沈黙の時間が流れた。
そして、彼女は続けて小さな声で囁いた。
「私、もうすぐ90歳よ」
なんだか似たような話に終始してる気はしますが置いておきます。