学園全面戦争⑧
学園全面戦争第二幕、開宴。
学園を囲む委員総会、その指揮をとるは最上劉全、ならびに玉染輪廻だ。
二人の指揮により、生徒総会のメンバーは部活動総会メンバーとの戦いで消耗したため、極限まで追い込まれていた。
次々と捕縛網で捕まり、拘束されていく。
「お姉ちゃん、まずいよ」
「ああ。たとえ数で劣っていても、戦略次第では戦力図は大きく塗り変わる」
南愛佳は、自分達が劣勢にあることを察していた。これ以上数が減ることを避けたいが、部活動総会メンバーとの残党が戦場をかき回しているため、上手く指示が通らない。
混戦状態の渦中で、南炉炉は捕縛網によって拘束された。
「炉炉!?」
「お姉ちゃん、後ろ」
振り向いた時にはもう遅かった。
放送委員会委員長、夜語朧が捕縛網で愛佳を捕らえた。
「残念だったな十器聖。もうお前らの時代は終わったんだよ。これからは和国様が時代を築き上げる」
夜語が喋っている最中に容赦なく、十器聖ーー木栖美入中琥が新体操以上の動きで夜語の持つバズーカを蹴り飛ばした。すかさずもう一撃蹴りをいれようとするが、それは易々とかわされた。
「危ないところだったよ。木栖美入」
「油断禁物って言葉、教わんなかったネ♡」
「面倒な女。俺は気だるげでいきたいんだけどなー」
だるそうに、怠惰を体現したような夜語は頭をかきながら退屈そうに言った。
「セクシーな戦いを見せてあげるよ。夜語朧」
「めんどー」
夜語はやはり気だるげだった。
そんな夜語の周りを木栖美入は柔軟で軽快で素早い動きで走り回る。その速さについていけないのか、夜語はただボーッと立ち尽くしていた。
「私の速さにはついて来れないかもネ♡」
「そう。ならどこからでも来なよ」
夜語は冷静に呟く。
その言葉通り、木栖美入は夜語の背後に移動し、バズーカを拾って捕縛網を放つ。
「なんだ。やっぱそう来るのか」
まるで予想していたかのように捕縛網をかわすと、木栖美入の立つ場所へ勢いよく走る。
「速い!?」
素早い身のこなしで背負い投げられ、バズーカを奪われてかわりにそのバズーカを放たれ、捕縛網で拘束された。
身動きがとれなくなった木栖美入を見下ろし、夜語は呟く。
「俺はただ本気を出したくないだけだ。だから本気を出さない」
「本気を出さずにそれか」
「ああ。お前らには今のこの学園のシステムは覆せない。それに本当は良いと思っているだろ、この学園の仕組みが」
「何を言っている。奴隷をつくり、その奴隷を強者が一方的に叩きのめす。それの何が良い仕組みなんだよ」
「ではお前が強者の立場になっていた場合、同じことを言えるか?もし自分が強者であったのなら、きっとお前はこういうはずさ。今の学園のままで良かったと。強者は弱者の気持ちなど知らない。知っていても知らないフリをする。それが世の渡り方だ」
「随分と語るじゃないか。まるで恨んでいるように」
「ああ。そう感じたのは俺が確かに恨んでいるからさ。俺はかつて弱者の立場にいた。強い者に立ち向かった。しかし強者には敵わない。その結果さらに弱者となり、いじめられた。だけどそんな中で彼女が手を差し伸べてくれた」
「そいつはこの学園を見て何か思うはずだ」
そう、彼女が支配者でなければーー
「きっとこう思うだろうな。今のような学園にして良かったと」
その言い方に、木栖美入はある考えが頭を過った。
「気付いたか。俺をそこから救ってくれたのは現在の支配者、和国十郎座衛門。彼女のおかげで俺は今こうやって学園の強者として君臨している」
「そうやってお前は生きていくつもりか」
「それが俺の正義だ。結局世界は強い者だけが得をする。ならば得をするように強者としての座を守り抜けば良い。だからお前たちをこれから完全に奴隷とし、和国が総務委員会を解散させる」
「だから和国は総務委員会に……。まさかここまで読んでいたとはな」
「ああ。全ては完全な支配のために。だから俺たちはこの学園の強者で居続けるためにここでお前たちを潰す。強者になりたきゃ俺を倒してみせろ。十器聖、木栖美入中琥」
熱心に語るようなないようを、相変わらず気だるげに話している。
夜語が何故そこまで強者にこだわるのか、それを知った木栖美入はボソッと、さりげなく呟いた。
「なんだ。ただ怖いだけか」
「何か言ったか?」
「夜語、君は弱者の立場を知っている。だからこそ弱者には戻りたくないのだろう。もう二度と弱者にならないために学園に反逆者をつくらせないようにした」
「大正解。それで、何が言いたい?」
「もしかして忘れてしまったか?弱者だって弱いわけじゃない。ただずっと静かに息を潜めているだけだ。反逆の時が来た時、我々は奪われた全てを取り戻すために戦うのだ。強者を天上から突き落とすために」
「だーかーらー、そんなことてめェらには無理なんだよ……」
夜語のバズーカに一本の矢が刺さった。その矢からは桃色の煙が放たれる。
「これは、弓道部の連中の……」
その矢の効果を知っている。だから夜語は焦っていた。しかし煙から避けることはできず、その煙を嗅いでしまった夜語は眠りにつく。
近くにいた木栖美入や南らも眠りにつこうとしていた。
「木栖美入、勝手に倒されるなよ。俺だってあまり強い方じゃないし」
遠く離れた校舎の屋上から、十器聖のある者は正確に夜語のバズーカを矢で射抜いた。
誰にも当てることなく狙った場所を射抜く完璧なその技をできる者は一人しかいないと、木栖美入は確信していた。だってその男を信頼していたから。
彼は弓矢に非常によく長けた人物。
「さすがだな。馬暗疾颯」
屋上にいる馬暗は呟く。
「疲れただろお前ら。しばらく眠っていろ。もうすぐ文月がこの学園を変えてくれるから」
馬暗は生徒総会を裏切った。あの時結城小袖が裏切ったように。
後悔を打ち砕くように矢を放った馬暗は、今和国を討つために文月へ荷担する。




