学園全面戦争⑥
文月が学園に降臨する中、各地で起こっている戦いにも決着が着き始めていた。
落雷天下VS青黒薔薇黒龍&卓城晃太郎
二対一、その有利を青黒薔薇と卓城は活かせずにいた。
落雷の圧倒的暴力、それが青黒薔薇と卓城の攻撃を真正面からいとも容易く粉砕する。
「青黒薔薇、そろそろ限界だ」
「ああ。俺もだ……」
卓城は腕を押さえ、しゃがみこむ。青黒薔薇も息を切らし、倒れていた。
落雷の強さにはやはり誰も敵わないのかーー否、
しかしながら、この学園は広い。この学園のどこかを探せば、彼と対等に戦える者は一人や二人見つかるのだろう。
例えばーー
「十器聖諸君、おひさー」
颯爽と姿を見せたのは、青黒薔薇と卓城がよく知る人物であった。
青黒薔薇は超暴走族時雨雪の二代目総長、彼に総長を託した初代総長。そして元十器聖の一人ーー
「冬無さん!?」
「やあやあ随分と面白いことになってきたじゃないか」
そう言って、冬無は青黒薔薇と卓城の肩を叩き、落雷の前に立ち塞がった。
「あとは私に任せておけ」
冬無は落雷へ容赦なく足を進める。
「五秒で終わらせよう」
「そうかそうか。ならばーー」
誰もが騒然とした。
まだ話していた落雷を綺麗に背負い投げ、そこから数コンマとしない内に落雷をしめ技で拘束したのだ。
あの落雷でさえ、一瞬何をされたのか分かっていなかった。まるで閃光の刹那。まばたきすらも許さない。
「俺が……負けた?」
「落雷、君は別に素早さに長けていないわけではない。ただ君よりも私の方がたまたま速かっただけだ」
「俺が負けるとはな」
「君は強い。相手が悪かっただけだ。私はそういう世界で生きてきたから君に勝てただけだ。また機会があれば戦おう。その時は良い勝負ができることを期待しているよ」
そう言って、冬無は落雷の拘束を解いた。落雷は戦う気がないのか、冬無を襲うことはしなかった。
「冬無、これからどこへいくつもりだ?」
「逢わなければいけない人がいる」
屋上を見上げ、彼女はそこへ足を進める。
冬無が去った後、落雷はすぐに姿を消した。
符士銅音菜VS冬待来無
符士銅の痺れサウンドに苦しめられる冬待。だが彼女は全身が痺れながらも立ち上がり、ゆっくりと前に歩き出した。
徐々に、徐々に冬待は近づいていく。
「効いてない?」
それはあり得なかった。
冬待の背後にいる生徒らは倒れている。冬待に効かないわけがない。そう思えば思うほどに、冬待が徐々に向かってくるのに感心する。
「なあお前、やっぱ最高にロックしているな」
「私は、私は倒れるわけにはいかない。皆必死なんだ。この学園は私たちの居場所だから。私たちがこれまで過ごしてきた思い出の場所だから。お前たちなんかに勝手に壊させてなるものか。私は絶対に護るんだ。この学園を護るんだ」
冬待は叫び、己を鼓舞する。
冬待の圧に符士銅は圧倒されていた。
もう既に冬待は符士銅の立っているステージの前まで来ている。1メートルほどの段を上れば符士銅へ触れられる。その1メートルの壁が高い。
(すぐそこにいるのに……体が痺れて腕が上がらない)
それに気づいた符士銅は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「さあ痺れろ。電気の中にその身を焦がせ」
冬待は諦めてはいない。
隠し持っていた矢を持ち、それを1メートルの壁に突き刺した。
「何だそれは」
「体の神経が眠っていれば痺れないものと思っていた。しかし即席で調合した故、効果が薄かったんだ。だからお前の痺れを薄めることしかできなかった」
「ーーーー」
「耳栓しているから聞こえないだろうから教えてやるよ。符士銅、私は眠るがお前も眠れ」
矢からは桃色のガスが放たれる。それは眠気を急激に促進させる。間近で受けた冬待は眠り、符士銅も眠気に襲われる。
「まずい。眠気が……」
符士銅は耳栓を外し、自らの体を痺れさせた。おかげで眠気は消えたが、体が痺れて動けなくなっていた。
生憎後ろにいた仲間は皆熟睡している。
「冬待、お前、やっぱロックしてるな」
符士銅は徐々に体の制御が効くようになってきていた。冬待が自ら犠牲になって眠らそうとしたが、無駄だった。
ーーいいや、違った。
桃色の煙が立ち込める中、ガスマスクをつけた男が冬待を抱えて現れた。
「誰だ!?」
「暗黒零」
そう名乗った男はもう一本矢を壁に突き刺す。符士銅は眠りにつく。
「冬待、よく頑張ったな。やっぱお前は誰よりもヒーローだ」
眠りについている冬待は、わずかに笑みを見せていた。
馬暗疾颯VS蒼青太郎
馬暗は矢を持ち、青太郎に投げる。それをかわすと、青太郎は構えていたバズーカを馬暗へ向けた。
「ロックオン」
馬暗へ照準を合わせ、引き金を引く。捕縛網が馬暗を捕らえるように放たれた。
「青年、俺は馬のように速いぞ」
馬暗は捕縛網を瞬時にかわすと、壁に足をつけ、青太郎のバズーカを蹴り飛ばした。青太郎も同じく崩れ落ちる。そこへ追い討ちをかけるように馬暗は一直線に駆ける。
その瞬間、青太郎は吹き飛ぶバズーカを足で自分の手元へと蹴り、引き金へ指を通して馬暗へ向けて放つ。
「今度こそ」
「だから無駄だ」
常人では避けられるはずのない攻撃を紙一重で回避し、青太郎のバズーカを奪った。
倒れる青太郎へ馬暗は容赦なくバズーカを向ける。
「終わりだ」
「随分と物騒なことをしているな。全く、これだから最近の若者は」
突如響いた女性の声。次の瞬間、馬暗は気付かぬ間にバズーカを奪われ、捕縛網に捕らわれていた。
「帰ってきたよ。生徒総会、霞ヶ崎小雪が」
霞ヶ崎はバズーカを構え、高らかに言った。
「失踪したあなたが帰ってくるとは、文月も帰ってきたのでしょうね。ついてない」
「馬暗、お前には相変わらず才能がないな。私が見るに、お前は十器聖最弱だ」
「そんなことは分かってますよ。だからこうして負けている」
冷静に言っている風を装っているが、悔しさを隠せてはいない。
「馬暗、お前にひとつ良いことを教えてやる。才能なんてものは後付けだ。だから精々努力して足掻けばいい。そしたらいつか、十器聖最強と歌われる日も来るかもしれん」
「才能なんて後付け、ですか」
「悲観していても始まらないさ。常に傍観せよ。感情的になるな。冷静に今の自分を見つめ直せば、やがては成長できるから」
それは彼女の経験談だ。
文月を失ってから後悔し、それでも自らを傍観して見つけた答えがそれだったというだけの話。しかしそれは馬暗へ一歩を踏み出させた。
「なるほど。そうですね。では頑張るとしましょうか」
「ああ。頑張りな」
梓沼計VS早乙女女女
燃え盛るその場所で、早乙女と梓沼は戦いを繰り広げていた。
梓沼は糸を使って攻撃するも、燃え盛るフィールドでは糸は燃えて使いものにはならない。
「早乙女、これではこの学園は大火事になるぞ」
「安心しなんし。この学園は耐火性。燃えているのはそなたが仕掛けじゃ」
「そうかい」
梓沼に勝ち目はなかった。
早乙女は着ている和服の中に隠し持っている様々な武器で梓沼を圧倒している。
その強さには、梓沼も手も足も出ない。
「わらわの勝ちじゃな」
早乙女は梓沼を餅の弾丸で捕らえ、身動きを封じた。その後早乙女は扇子から水を放出し、火を完全に消した。
梓沼を拘束して勝利したーーがその時、隠れていた戸賀が数十の兵を率いてペイント銃を構えながらその場に現れた。
「負けることを想定し、第二の策は用意しておくものだ」
「そう来たか。ならば真正面からねじ伏せてーー」
「ーーその必要はない」
竹刀を持った女性は次々と兵を吹き飛ばし、気絶させていった。戸賀をも圧倒し、気付けば全員倒れていた。
圧倒的力を見せつけた彼女は、力強く言い放った。
「私は風紀委員会副委員長、神原銀。風紀委員長を務める暁魔道はどこにいる」
全面戦争に終止符が討たれ始めていた。
刻一刻と終わりへの歯車を進める時の中で、まだ誰も彼女の存在には気付いていなかった。
真の支配者が誰であるのかを。
やがて第二の戦争が幕を開ける。