学園全面戦争⑤
屋上に座る全知は、静かに戦場を眺めていた。
それぞれの場所で激しく戦闘が繰り広げられている。それぞれの目的のため、必死に抗っていた。
「醜い」
全知は生徒らを見下していた。
そこへ一人の女が全知の背後には現れる。
「全知、もうじき紅橙霞がやって来るよ」
「なぜお前まで来ている?」
「良いではないか。それにわざわざ君を鼓舞してやろうと思っただけなんだが」
「そうですか。僕にはそうは見えないですけど」
そう言って視線を彼女へ送る。
彼女は全知の言葉などまともに聞いていないのか、常にどこか上の空で全知と話している。
相変わらずだと嘆き、全知はため息を吐いた。
「全知、ひとつだけ忠告しておくとだな、お前が負けてもおいらの今後には一切影響はない。だから全力を出しても良いし、負けても良いんじゃない。どのみち、もう学園は君の手元にはない」
「ちっ。嫌なことを言うな」
「事実だから仕方ない。それじゃ頑張りな。君が勝とうが負けようが、どっちでも良いでござるが」
その女性はまるで忍のように颯爽と姿を消した。
それと入れ違いに、紅橙霞が全知の背後に現れた。
「もう来たか。随分と早いな」
「さあ決着をつけようか。全知全夢」
橙霞は全知へバズーカを構え、捕縛網を放つ。バズーカの音で瞬時に察知し、後ろを見ていなくとも全知は高く飛び上がって捕縛網をかわした。
「紅橙霞、今の私は抜け殻だ」
「抜け殻か。今のお前が何であれ、お前を倒さないことにはこの学園に未来はない」
橙霞はバズーカを捨て、素手で全知へ飛びかかる。両手には手錠を持ち、全知を捕らえようと技を仕掛ける。
全知の横まで駆け、両手を後ろに回して手錠をーー
「ーー無駄だ」
全知は橙霞を背負い投げた。
倒れる橙霞へ全知は冷たく言い放つ。
「お前がやっているのは目の前の自己満足にすぎないんだよ。僕は一生の幸せを掴むために、今を苦労して生きてうた。しっかりと土台を積み上げて、やっとここまで上ってきた。なのにどうしてかな、いつ間違えたのだろうか」
「間違えた?こんな学園に変えて間違えただと。ふざけるな」
橙霞は起き上がり、再び全知の腕に手錠をかけようとするが、まるで動きを全て読まれているかのように橙霞は吹き飛ばされる。
「なあ、下にいる者は上に立っている者には敵わないんだ。だってそこには絶対的な差があるから。知恵においても、物理的力においても、僕はその全てで負けた。牙を隠していたあの悪魔に」
「何をそんなに恐れている……」
「紅橙霞、ひとつ教えておくぞ。僕を倒してもこの学園はもとには戻らない」
「どういうことだ」
「それはだなーー」
全知が何かを言おうとしたその時、学園の頭上にはヘリコプターが現れた。そのヘリは屋上へ降りる。
屋上で戦っていた橙霞と全知は戦いをやめ、その方へ意識を向けた。
「もう始まっていたか。全面戦争が」
ヘリから降りてきた女性の声に、二人は聞き覚えがあった。それもそのはず、二人はその女性とは関わり深い仲であったから。
橙霞の友達であり、全知の宿敵。
「女王は戻ってきたぞ」
文月京、彼女が今この学園に舞い降りた。
「やはり帰ってきたか」
「当たり前だ。私はこの学園の女王なのだから」
「だが今の支配者は別にいる。お前でも敵わない、それほどの支配者が」
「なあ全知、あまりハードルを上げるな。可哀想だろ」
文月はどこか変わっていた。支配者であった頃とは少し違う、何かが変わった文月がそこにはいた。
黒色に染まってなどいない。今の彼女は何色だ。
「紅から貰ったこの手紙、そういえばまだ読んでなかった。だがありがとな。この手紙のおかげで私は今の私に戻ることができた」
「うん」
橙霞は久しぶりに見る文月を見て嬉しそうにしていた。笑みが込み上げていた。
しかし全知は違う。
かつての支配者、文月が戻ってきたことで激しく動揺していた。
「さあ全知、落とし前をつけようか。私とお前の落とし前ってやつを」
「僕の退屈はお前が壊した。だから僕はお前が許せない」
「じゃあ始めよう。いい加減この長い長い戦いに決着をつけられる時が来たようだ。さあ、準備はいいか」
帰還した女王ーー文月。
彼女が舞い降りたことで、全知と文月の最終決戦が幕を開けようとしていた。
勝つのは文月か、それとも全知か。




