学園全面戦争④
蒼青明はただひたすら上階へ駆けていた。階段を異常な速度で駆け上がり、上階で待ち伏せていた者たちの追跡を容易くはねのけた。
あっという間に最上階へ着く。
「呆気ない」
「呆気ないのは当たり前さ。だって最初からここに誘き寄せるためだけの罠だったのだから」
そう言って姿を見せたのは、十器聖の一人ーー梓沼計。
蒼青明はバズーカを梓沼へ向けて構えた。しかし梓沼は動揺を微塵も見せず、それどころか笑んでいた。
「蒼青明、俺はもう二度と油断することはない。一度の大敗を期に、成長を経験させてもらったよ。だから俺は負けない」
「舐めてるじゃねえか」
そう言って放った捕縛網、しかし捕縛網は何かにぶつかり、梓沼に当たる前に床に落ちた。物理法則を無視した捕縛網の動きをした。
しかし青明は見抜いていた。
「糸の壁か」
「正解。では第二の策に移ろうか」
突如糸は燃え始める。
青明を梓沼の間は火炎で見えなくなる。青明は何か危機感を感じ、火炎の中にバズーカを向けた。
案の定予想は的中し、火炎をかき分けて梓沼が姿を現した。
「発射」
放たれた捕縛網、しかし一定の距離がなければ捕縛網は完全には開かない。それを利用し極限まで間合いを詰めていた梓沼は捕縛網を素手で弾き、手に持っていた注射針を青明の腕に差し込んだ。
「速い……」
「俺は指揮官であり戦闘員だ。だから知恵と身体能力を有する俺が一歩先を行く」
青明は腕を薙ぎ払い、梓沼を飛ばそうとする。
だが梓沼はそれを読む。先読みしていた梓沼は、青明の腕をかわして弾いた捕縛網を掴んで青明に被せた。
「まだだ」
青明はバズーカを真上に向けて放った。捕縛網は真上に放たれ、天井に当たって梓沼と青明を包み込むようにして落ちてくる。これならば梓沼に近づかれても捕らえられる。
その行動はさすがに予想外だったのか、梓沼もかわせなかった。
「道連れだ」
「すまんな。俺は常に最悪を想定している」
天井に当たって落下するはずの捕縛網は、宙で動きを止めた。
「何故だ!?」
「俺の勝ちだ」
梓沼は捕縛網で青明を拘束した。
青明は捕縛網に捕らわれ、身動きをとれなくなる。
「私の負けか。ところで梓沼、何故捕縛網は空中で止まっている?あれはこの世の法則に反していると思うのだが」
「糸だよ。この空間には一面に糸を敷き詰めている。先ほど燃やした糸以外には不燃性の粘着剤をつけ、それに捕縛網がくっついただけだ」
「なるほど。最初から策を用意していたと」
「文月に負けてからだ。多分奴に負けていなければ、これほど用意周到には準備していなかった。己の力を過信していたことだろう」
「あーあ。そうか」
「青明、勝利には褒美が付き物だ。故に早乙女の居場所をーー」
「ーー私ならここにいるさ」
天井は燃え、床も燃え、壁も燃える。
突如走った火炎に、青明と梓沼は驚いていた。音もなく、気配もなく、いや、気配があったとしても戦闘に意識が向いて気付かなかっただろう。
その隙をつき、彼女は梓沼の背後に立っていた。
「なあ梓沼、勝者は常に先を見る。そして一度あえて仲間を敗北に導く。そこで敵の策を全て暴き、それに対処する策を上書きする。これこそ過信しないということではないか?」
梓沼は振り返る。
そこにはやはり決闘委員会委員長ーー早乙女女女が火炎の中で立っている。
「いざ決闘を始めよう。燃え盛る花びらの中で」
早乙女は手に持つ扇子を川の流れのように動かす。その流れに沿うように扇子からは花びらが舞う。
梓沼計VS早乙女女女、開戦。
火炎の中から現れた早乙女女女。
彼女は花びらを散らし、梓沼との決闘を始める。