学園全面戦争③
生徒総会は、正面門から入って校舎へと突撃を仕掛けた。
だが彼らは秘密裏に幾つかの部隊を構成し、戦いによって混乱する戦場の隙をつき、人の少ないところへ部隊を送り込む。
その総指揮を取るのは、決闘委員会委員長ーー早乙女女女であった。
「焚、蒼姉の部隊を校舎の裏まで回り込ませろ。経路はこれに記してある」
「了解です」
焚はすかさず蒼青明へトランシーバーで連絡をとる。早乙女からもらった地図で経路を見ながら青明へ指示を出す。
青明は指示された通りに進んでいく。
敵の総指揮をとっているのは梓沼。では彼は青明の行動を予想できないだろうか?
ーー否、
「全て予想通りだ」
人目を忍んで校舎裏まで回り込んだはずだったが、青明らの頭上から体操部の部員が襲いかかる。
「全て梓沼様の予想通り。行くぞ」
そう、全て梓沼の予想通りだった。しかしそれは早乙女の予想通りでもあった。
青明らはバズーカの発射音を聞いた。それは捕縛網を発射するバズーカの発射音。ふと振り向けば、背後にずっと隠れていた蒼弟ーー青太郎たちが捕縛網バズーカで体操部へ狙いを定め、発射した。
体操部部員は全員網に捕らわれた。
青明は焚へ連絡をとる。
「焚、敵の指揮をとっているのはやはり梓沼だ」
「だってよ早乙女」
敵の指揮官が梓沼だと知り、早乙女はやけに嬉しそうだった。
とても嬉しそうにしている早乙女に、宴は訊いた。
「早乙女様、どうしてそんなにお喜びになられているのですか」
「総務委員会創設の際、奴が推薦したのが夜語朧だった。夜語と梓沼には関係はないはずだ。つまり最初から梓沼は裏切り者だった。わらわは裏切りという行為が大嫌いなのじゃ。故に梓沼が敵の指揮官で良かった」
早乙女は椅子から立った。
「早乙女様、どこかへ行かれるのですか?」
「指揮官には指揮官自ら出迎えなければ失礼じゃろう」
「ですが……」
「椿、わらわの代わりは任せた」
しかし椿は不安そうな顔をしていた。
「大丈夫。そなたには実績がある。わらわの代わりにはそなたしかいない。だからどうか頼んだぞ。この学園を護るために」
「はい。お任せください」
元気良く返事をされ、早乙女は微笑む。
「では行ってくるな」
早乙女は学園へ向かう。
梓沼はひたすらある場所で兵を指揮していた。
体操部が倒されたことで、青明たちは校舎裏にある入り口から校舎内へと侵入する。
「梓沼、三十人ほどが校舎内へ侵入」
馬暗は監視カメラの映像を確認し、梓沼へ報告する。
「そうか馬暗。ならば君が彼女を足止めしてくれ」
「俺に、ですか……」
「君ならできるだろ」
「ああ。しかし足止めって言い方だと、まるで俺が負けるみたいじゃないか」
「大丈夫だよ。俺の策は必ず最悪の事態を想定して作られている。だから君が負けてしまうという可能性も考慮してある。もし君が負けてもサポートは十分にできる。だから存分にやって来てくれ」
「了解」
梓沼は変わった。
そんな彼を見て、馬暗は自分だけ取り残されてしまったような、そんな気持ちを抱いていた。
皆アヒルになって羽ばたいていくのに、一匹だけひよこのまま池を泳ぎ続けている。いつまでも飛べない空を見上げて、憧れ続ける。
一階から二階へ繋がる階段に立ち、馬暗は待っていた。
足音が響き、そして蒼姉弟が先陣をきってやって来た。
「やあ二人とも」
「お前に構っている暇はない」
蒼姉弟は互いに正反対の壁を蹴って走り、馬暗へ両脇から捕縛網バズーカを放つ。
咄嗟に後ろに下がって網をかわすが、青明は馬暗を無視して先に上階へ上がってしまった。
馬暗の前には、青太郎が立っている。その上三十人の生徒が青太郎の背後には立っている。
「馬暗疾颯、お前の相手を努めるのはこの蒼青太郎だ。姉さんの邪魔はさせないよ」
その目には確かに信念があった。
しかし馬暗にはそれがない。
「さあ十器聖馬暗、勝負を始めようじゃないか」
「良いだろう。俺が貴様を倒してやる」
バズーカを構える青太郎と背中に矢を携える馬暗、今戦いの火花が舞い上がる。
蒼青太郎VS馬暗疾颯、開戦。
馬暗の追走を抜けた青明が行く先は一体どこか?
次回、青明と十器聖との戦いが幕を開ける。




