スーパーアスリート②
文月の瞳が純白に戻った時、一瞬何が起こったのか彼女は理解できていないようだった。
しかしすぐに何をしたのかを思い出すと、自分の力に驚いていた。
「これが……私だというのか」
自分の手を眺め、呆然と立ち尽くしていた。
「文月、また新手が向かってきてる。ここは逃げるよ」
霞ヶ崎は敵に瞬時に気付き、文月に呼び掛けた。その声で文月は我に戻った。
冷静になり、霞ヶ崎の言った状況から冷静に判断を決める。
上空から決めたこの国の全域、それを瞬時に把握した文月は相手が向かってきている方向を指差した。
「あっちに向かうぞ」
「だがあっちからは敵が来ている」
「だからこそだ。宿木家はそう馬鹿じゃない。それは彼らを操っているのが宿木糧波、私の専属教師だから。私の能力を知っている彼女だから、無数の策で私を追い詰めてくる。それを予測した上で、向こうが最適だと思う」
「オッケー。なら突っ込むか」
文月たちは向かってくる敵の集団に突撃を仕掛ける。
ふと後ろを見た文月、そこには彼女が密かに予想した通り待ち伏せている敵がいた。
「宿木先生、やはりあなたはそういう性格でしたか」
待ち伏せの策が失敗したと、宿木は報告を受けた。だが彼女には焦りはなく、むしろ勝利を感じているようにも思えた。
「第二、第三、第四と、罠は幾つも用意しておくべきだ。それがこちらが圧倒的な兵力であるのなら尚更ね」
宿木の策を回避した、かに見えた文月たち。
文月は敵の群れの中を抜け、十字路に差し掛かった。その瞬間、両脇の道で待ち伏せていた二台の車が挟み撃ちにして文月を潰す勢いで走っている。
文月の目は黄色く染まる。
俊敏な動きで車の上に飛び、窓を蹴り破ってハンドルを握り、もう一台の車にぶつけ、壁に引きずらせて車を止めた。文月の操縦した車も動かなくなり、窓を蹴り破って外に出る。
「車があれば簡単に逃げられたが、まあ良い」
そう呟いた時、既に文月の目は純白に戻っていた。
時折自分以外の何者かに変わる自分を、文月は少しずつ理解していた。
「皆、私についてこい」
文月の人間離れした動きに驚きながらも、暗黒、霞ヶ崎、冬無は必死についていく。
十字路を抜けると、両脇を塀で囲まれた一本道に差し掛かる。無数の矢が一本道に向けて降り注ぐ。
それを紙一重でかわす文月であったが、一本道を塞ぐようにして立つ女性は落ち着いて弓を構え、矢を放つ。その矢は文月の腕をかする。
「宿木家か」
宿木妖夢。得意種目:アーチェリーなど。
大会では一度も中心から矢を外したことはない。全ての大会で満点を出す強者。
彼女の動きを予測し、飛んでくる矢の方向を瞬時に予測してかわそうとするも、かわした先では降り注ぐが待ち受けている。
それを予想し、妖夢は何度も矢を放つ。
苦戦を強いられる中、背後からバイクの音が聞こえる。それに乗っているのは、乗り慣れているであろう霞ヶ崎。彼女は暗黒と冬無を乗せ、文月に向かって手を伸ばす。
「来い」
霞ヶ崎の手に掴まり、妖夢の横を素通りする。
だが、タイヤに矢が刺さり、バランスをとれなくなるも、驚異的なバランス力を保ちながら霞ヶ崎は妖夢のから遠く離れた場所でバイクを止めた。
「タイヤも駄目だが、ガソリンもない。こっからどうする?」
「順調に出口には近づいている。だが予想以上に敵の数が多すぎる」
「どうしますか?」
茂みに隠れながら、すぐ近くにあるショッピングモールに目を向ける。
「なるべく固まって動いた方が良い。その方がーー」
「ーー良いと思うのか。笑えるぜ」
パラグライダーで飛んできた男は文月に飛び蹴りを仕掛けた。だがまんまと腕で防がれ、足を掴まれた。
宿木絞守。得意種目:パラグライダーなど。
パラグライダーを知り尽くしている男。
「一人で来たのか」
「気を惹きつけるためだけの囮さ。本命はこうだ」
無数のバスが入り乱れるように文月らを囲んだ。バスは全て三階建て、その大きな壁に塞がれ、文月たちは逃げ場を失った。
そしてあるバスの上には、女性が一人座っていた。
「私は宿木儚。これよりお前たちを確保する。大人しく捕まってくれよ」
宿木儚。得意種目:催眠術など。
逃げ場はない。
無数のバスからは合計百人ほどの人が降りてくる。四方を囲まれ、手詰まりか……。
「お前ら、そいつらを捕らえろ」
包囲完了。これより文月を確保する。
多勢に無勢、文月らになす術はあるのだろうか?




