ギャンブラー②
暗黒の前に現れた六人のギャンブラー。
彼らは"Human's Devil"と呼ばれるギャンブラーのチームであった。全員暗黒街にいたらしく、皆ギャンブルに関しては一級品の腕前があるといわれている。
「文月、これから彼らとともにギャンブルを行うこととなる」
「暗黒、その女、足手まといにはならないのか」
先ほど十二連続ロイヤルストレートフラッシュを出した男は鋭い眼光で文月を睨みつけながら言った。
「ジャック、彼女は私と同等の実力は有している。足手まといにはならないだろう」
「なら良いんですがね」
ジャックは疑うような視線を文月へ送る。
「まあそんなことを言ってもらちが明かないし、とりあえずキングスとギャンブル勝負して見せてくれ。君の実力を」
バニーガールの衣装を着、拳銃を腰に下げる女性ーーヴァニーはそう言った。
「ヴァニー、どうして俺だよ」
「だって君王様だし、この中では一番弱いし」
「誰が一番弱いだ。とにかくやれば良いんだろやれば」
キングスと呼ばれている男は、被っている冠を整えながら面倒くさそうな表情で言った。
「で、ギャンブルの内容は?」
「そうだね。文月って言ったっけ。君は何のギャンブルならできる?」
ヴァニーは文月へ優しく問う。
文月は自信のない気弱な眼差しでヴァニーへ小さな声で言う。
「チェス」
「チェスか。それならば俺も得意だが良いのか」
「……うん」
自信なさげな返事に、暗黒は心配そうな眼差しを向ける。
「文月……」
かつての自信満々な文月はもうそこにはいなかった。
支配者として君臨していた頃の文月も、優秀な才能を見せつけていた頃の文月ももういない。
今の彼女には自信はない。
文月とキングスのチェスは、一時間にも渡る攻防の末、文月が勝利した、
互いに一進一退の攻防である、どちらが勝ってもおかしくなかった。ただ文月の戦い方を見て、暗黒は深々と落ち込んでいた。
彼女の戦い方は、彼の知っている文月ではなかったからだ。
勝利はしたものの、文月は喜ぶことはなかった。
負けたキングスはとくに落ち込む様子もなく、盤上を眺め、脳内でチェスのシミュレーションを行っていた。
「なるほど。クイーンが取られていなければ勝てたのだがな」
「負けは負けだよ、キングス」
「ヴァニー、お前でも負けんじゃねえのか」
「さあ。そんなの戦ってみないと分からないさ。まあ、対戦はせずとも共闘はしてあげるが」
「暗黒、君はこの少女に何をさせたい?何か目的があるのだろう」
察しの良いジャックは、暗黒が何かを企んでいることを分かっていた。
「相変わらずお前には嘘はつけんな」
「私も見抜いていましたよ。ダウトです」
狼の被り物をした少女も、暗黒を指差してそう言った。
暗黒は隠しきれないと悟り、文月に何をさせようとしていたのか、文月やジャックらの前で話し始める。
「彼女の中には多くの人格が眠っている。いわば多重人格者だ。俺は文月の人格を取り戻したい。本当の文月を取り戻してあげたいんだ」
「なぜ暗黒は彼女に固執する」
「文月は一度学園を支配している。それほどの可能性を持っているから。……というのは建前だ。俺は約束をしたから、だから取り戻さないといけない」
「約束ですか。暗黒、あなたが暗黒街に拾ってくれたから、俺は今こうして生きている。協力しないはずがないじゃないですか」
ジャックは優しく微笑み、語りかけた。
他の皆もジャックと同じ意見だったのか、無言で頷いた。
「隠さなくても良いですよ。俺たちはあなたに救われたんですから。なので彼女を甦らせましょう」
「ありがとう。お前ら……」
暗黒は泣きそうになっていた。
それを見て、ジャックやヴァニーらは微笑んでいた。
「泣かないでくださいよ」
「皆、ありがとう。やっぱお前ら、最高だ」
「それではギャンブルを始めましょう。彼女を取り戻す一斉一代の大博打を」
文月を救うのに賛同した彼らは、これより彼女の人格を取り戻すためのギャンブルを始める。
この賭けに、代償はいらない。
さあ、ギャンブラーとして、その全てを賭けてみせよう。




