不定期試験①
学校へ登校し、いつものように小テストを終えて学園内へと入る。その後いつものように図書館へ行き、植物園へと行こうとした矢先、女性へ声を掛けられた。
「文月京。不定期試験の時間だ」
「不定期試験?」
私へそう声をかけた人物は数日前に紅との間に起きた勝負で審判をしてくれた宿木という人物であった。
「この学園には成績優秀者しかいないんだ。それ故、この学園では在籍する生徒たちへ予告せずに試験を行う。試験内容は全九科目を複合させた千点満点のテストだ。合格点は九百点以上だ」
「千点満点って……」
さすがに多すぎだ。
完璧である私でさえ、千点満点などというボリュームにはさすがに抵抗がある。
「断ることもできる。だが除籍処分になるがな。不合格の時も除籍だがな」
断る、そんな選択肢もあるのだな。
だが、だけど私は目の前に現れた全ての壁を乗り越える。私は完璧だから、完璧で有り続けたいのだから。
「先生。冗談言わないでくださいよ。全問正解、それ以外なら除籍で構いません」
私はそう宿木先生へと言った。
これまでの努力の集大成、ならば私は前人未到の世界へ進みたい。
先人たちが歩んできた道、そんな道には興味はない。私は彼らから多くを学び、そして多くを得た。その経験をしていないにも関わらず。
それ故、私はこの試験で全問正解をする。
「良い顔をするな。お前は」
「ええ。そうでしょ。だって私、全部が完璧ですから」
宿木先生は感心するように笑みを浮かべると、「ついてこい」と言って私を誘導する。
先生へ連れられやってきた場所、そこはいつのような孤独な空間、机とペンと消しゴムと分厚い問題集、それら以外はこの空間にはない。
シンプルかつ不足のない空間だ。
今頃紅も同じように千点満点のテストを受けているのだろうか。
そんな想像に思いを馳せていると、天井は魔法のように穴が空き、そこから一つのモニターが出てきた。そこには200.00と刻まれていた。
制限時間は200分、つまりは三時間と二十分。
その短い時間の中で千点満点の問題を解けというのか、いささか傲慢だな。たとえ三時間二十分という長い時間であれ、千点満点の問題の前では刹那と等しい。
それ故、私はどこか胸の奥底から沸き上がる感情に身を震わしていた。
これは……何だ。
この感情は、楽しい?
人知れずモニターの数字は動き出していた。
予告もなく始まったカウントダウンに私はやや遅れと取った。
遅れていても尚私はペンを握らない。大きく息を吸い、そして吸った息をゆっくりと吐いていく。
「よし。十分だ」
私はペンを握り、分厚い問題集のページを開く。
第一問『"しゅうじん"を牢屋へ入れる。適切な部分を漢字にせよ。』
どうやら漢字にする部分はお好みのようだ。
恐らくこの問題は他の学校とは違い、状況判断能力や説明不足であろうとも問題の趣旨を読み解くことができるか、それを試されているようだ。
にしてもこの問題は中学三年生用の漢字ブックに載っていた気がするのだが……。
第一問の答えは"囚人"、第二問の答えは"推薦"、第三問の答えは"堕天使"、第四問の答えは"凸凹"。
ここまで来るとおおよそ理解した。
ーーこの問題集、中学三年生レベルの問題で統一されている。
私は今中学一年生、そんな私に中三の問題を……ふざけるな。
どうしてだ……。
などと頭を悩ませていたが、その疑問はすぐに解けた。
そうか。紅と戦った時の……。
紅との戦いでは中学三年生の問題を出されている。それに私は全て答え、何とか勝利した。だがあれは偶然にも生まれた規則性があったお陰だ。今回ばかりはそうはいかない。
それ故、私は楽しいと思ってしまっているようだ。
我思う、故に我ありだ。
さあ始めよう。
徹底的に解いてやる。
これまでの集大成を、今ここで発揮する。
ーーなあ京。この世界はな、全ての物事が違っているように見えて案外全て繋がっているんだよ。この世界には必要ないものなんてない。日常の一つ一つを心に鮮明に記憶するんだ。そしたらきっといつか、必要ないと思っていた知識が活かされる時があるから。
了解。
父さん、せっかくここまで来たんだ。
こんなところで全問正解伝説を終わりになんてできないよな。
我考える、故に我間違えぬ。




